パスポートを失くした・期限が切れている場合の出頭申告|旅券がなくても手続は始められます
2026/08/27
在留期限が過ぎてしまい、そのうえパスポートも手元にない。紛失した、盗難に遭った、雇い主に預けたまま返してもらえない、あるいは有効期限が切れたまま更新できずにいる。こうした状況で、入管に出頭したい気持ちはあっても「旅券がないのだから行きようがない」と考えてしまい、動けないまま月日が過ぎてしまう方は少なくありません。しかし、旅券が手元にないことは、出頭申告をあきらめる理由にはなりません。この記事では、旅券を失った場合・失効している場合に何から手をつければよいのかを、入管法の条文に沿って整理します。
パスポートを失くしていても出頭申告はできますか
できます。自ら地方出入国在留管理局へ出向いて不法残留の状態を申告すること自体に、旅券の提示が条件とされているわけではありません。入管法24条の3が出国命令の対象者について定める要件にも、旅券を所持していることは挙げられていません。旅券がないという事情は、後の段階で「帰国の準備がどこまで整っているか」という形で問題になることはありますが、出頭そのものを妨げるものではありません。むしろ、旅券の再発給を待っている間に摘発されてしまうと、後で述べるとおり結論が大きく変わってしまいます。
旅券の有効期限が切れているだけでも、犯罪になるのですか
旅券が失効していることと、不法残留であることは別の問題です。在留期間の更新又は変更を受けないまま在留期間を経過して日本に残っている状態は、入管法70条1項5号の罪にあたり、法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はこれを併科するものとされています。同時に、入管法24条4号ロにより退去強制事由にも該当します。つまりオーバーステイは、行政上の問題にとどまらず、刑事罰の対象となる犯罪です。旅券の期限が切れていることによって、この条文や法定刑が変わるわけではありません。変わるのは、帰国の段取りをどう組み立てるかという実際上の問題です。
先に大使館で旅券を再発給してもらってから出頭したほうがよいですか
旅券の手当てと、出頭の準備は、どちらかを待つのではなく同時に進めることをお勧めします。在日大使館・領事館での旅券の再発給や、帰国のための渡航文書の発給は、国籍国によって取扱いも所要期間も大きく異なり、待っている間に何か月も過ぎてしまうことがあります。その間に入管法27条の違反調査が始まってしまうと、入管法24条の3第1号イ(違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者)ではなく、同号ロ(違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に出国の意思を表明した者)の扱いになります。この差は、後述するとおり上陸拒否期間に直結します。旅券の書類を集めながら、並行して出頭の準備を進めるという組み立てが必要です。
旅券がないと出国命令は使えないのですか
出国命令の対象となるための要件は入管法24条の3に定められており、そこに「旅券を所持していること」という要件はありません。要件は次の5つで、そのすべてを満たす必要があります。
- 入管法24条2号の4、4号ロ、6号から7号までのいずれかに該当すること。そのうえで、違反調査の開始前に自ら出頭したこと(1号イ)、又は違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に出国の意思を表明したこと(1号ロ)
- 24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号又は9号のいずれにも該当しないこと
- 入国後に、住居侵入、通貨・文書・有価証券・支払用カード電磁的記録に関する偽造、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等の各罪、暴力行為等処罰法1条・1条ノ2・1条ノ3の罪、盗犯等防止法の罪、特殊開錠用具所持禁止法15条・16条の罪、自動車運転死傷処罰法2条・6条1項の罪、盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪により拘禁刑に処せられたものでないこと
- 過去に本邦からの退去を強制されたこと、又は55条の85第1項の出国命令により出国したことがないこと
- 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること
旅券がないことが実際に影響しうるのは、5番目の「速やかに出国することが確実と見込まれること」です。出国命令を受けた場合、主任審査官は入管法55条の85第1項により、15日を超えない範囲内で出国期限を定めます。ですから、渡航文書がいつごろ整う見込みなのか、大使館でどこまで手続が進んでいるのかを、資料とともに具体的に説明できるかどうかが実務上重要になります。何もしないまま「旅券がありません」と述べるのと、申請の受理を示す資料を持参して見通しを説明するのとでは、受け止められ方が違ってきます。
国籍国の公的書類がほとんど取れない場合、身分や家族関係はどうやって証明しますか
本国の身分登録制度が十分に整っていない国、内戦や災害で役所の機能が失われている国、在日公館での手続が事実上進まない国もあります。そうした場合でも、証明の道が閉ざされるわけではありません。入管法50条5項は、在留特別許可の判断にあたり、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間とその間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮すると定めています。ここで問われているのは、公的書類の有無そのものではなく、これらの事情が実際に存在するかどうかです。日本側で作成される書類、たとえば婚姻や出生に関する届出の記録、住居や収入・納税に関する資料、通院や就学の記録、地域や職場の方々の陳述など、日本国内で集められる資料を積み重ねて事実を示していくことになります。どの資料が、どの考慮事情に対応する証拠になるのかを整理して提出することが要点です。
旅券がない状態でも在留特別許可を求めることはできますか
できます。入管法50条1項は、退去強制対象者に該当する場合であっても、同項各号のいずれかに該当するときは、申請により又は職権で在留を特別に許可することができると定めており、オーバーステイの多くは同項5号(その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき)で検討されます。手続の順序には注意が必要です。50条2項により、在留特別許可の申請は、収容令書により収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人が行うものとされ、50条3項により、退去強制令書が発付された後は申請することができません。また50条1項ただし書は、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者などについて加重した要件を定めていますが、不法残留すなわち24条4号ロのみの事案は、このただし書の対象ではありません。これは有利に働く事情です。なお、在留特別許可をしない処分をするときは、50条10項により、速やかに理由を付した書面で知らされます。
摘発される前に、自ら動くことの意味
旅券がないという事情は、時間の経過とともに解決するものではありません。そして、時間の経過は上陸拒否期間の分岐を悪い方向へ動かします。入管法5条1項9号ホによれば、出国命令により出国した者の上陸拒否期間は、出国した日から1年です。これに対し、違反調査が開始された後に出国の意思を表明した者、すなわち24条の3第1号ロに該当する者が出国命令で出国し、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合は、同項9号ヘにより出国した日から5年となります。さらに、摘発によって出国命令の要件を欠けば、退去強制の手続となり、退去強制歴・出国命令歴のない方は同項9号ハで退去の日から5年、既にそうした前歴がある方は同項9号ニで10年です。24条4号オからヨまでに該当して退去強制された場合には、5条1項10号により期間の定めがありません。在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定、同年6月10日施行)でも、不法滞在を申告するために自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことは積極要素として考慮されると明記されています。他方で、不法滞在の長期化は消極要素として評価されます。旅券の再発給を待つという事情は、動かない理由にはなりません。動きながら整えることが、次に日本へ来られる日を決めます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所は、東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階にあり、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士は第一東京弁護士会所属(登録番号59077・2019年登録)で、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新や変更については、提携の行政書士とワンストップで対応します。
旅券や本国の公的書類が乏しい事案としては、次の解決事例があります。観光目的で来日された方が日本人女性との間にお子さんを授かったものの、在留資格を失い、不法残留で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦は受け付けられなかったところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻と認知を実現させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問と証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況の中でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析したうえで、1回の手続で在留特別許可を獲得しています。
また、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案では、退去強制事由には故意・過失が不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りをお示しします。
おわりに
旅券がないという一点で立ち止まっている間にも、不法残留の期間は延び、摘発の可能性は残り続けます。まずは在日公館での手続と、出頭の準備を同時に進めることです。何をどの順序で行うかを決めるだけでも、その後の見通しは変わります。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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