帰国を選ぶ場合でも弁護士に相談すべき理由|次に来日できる日を設計する
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしてこられた方の中には、これ以上ここにいることは難しい、いったん本国へ帰ろう、とお考えの方が少なくありません。もう結論は出ているのだから、あとは荷物をまとめて空港へ行くだけだ、と思われるかもしれません。けれども、帰るという結論が同じであっても、どの手続を通って日本を出るかによって、次に日本へ来られるのが1年後になるのか、5年後になるのか、10年後になるのか、あるいは期間の定めのない上陸拒否になるのかが分かれます。帰国は終わりではなく、次に日本と関わるための出発点です。
帰国すると決めているのに、弁護士に相談する意味はありますか
あります。同じ帰国でも、法律上どの経路で出国したかによって、次に日本の空港に降り立てる時期が大きく変わるからです。出国の経路は、出国命令制度(入管法24条の3)による出国と、退去強制手続による送還とに分かれます。どちらに乗るかは、いつ、どこへ、どのように申し出たかによって条文上決まってしまいます。すでに帰る覚悟ができている方ほど、手続の入口を選び直せる段階でご相談いただく意味があります。
次に日本へ来られるのは1年後ですか、5年後ですか、10年後ですか
入管法5条1項9号は、日本を退去した事情ごとに上陸拒否期間を定めています。
- 出国命令により出国した者は、出国した日から1年(5条1項9号ホ)。
- 入管法24条の3第1号ロに該当する者、すなわち違反調査が始まった後に出国の意思を表明した者が出国命令で出国し、その後短期滞在の活動を行おうとする場合は、出国した日から5年(5条1項9号ヘ)。
- 退去強制の対象となったが、入管法52条5項の決定を受けて期限までに自ら出国した者(短期滞在の目的の場合を除く)は、退去した日から1年(5条1項9号ロ)。
- 退去を強制された者で、それ以前に退去強制歴も出国命令による出国歴もない場合は、退去した日から5年(5条1項9号ハ)。
- 退去を強制された者で、すでに退去強制歴または出国命令による出国歴がある場合は、退去した日から10年(5条1項9号ニ)。
- 入管法24条4号オからヨまでに該当して退去を強制された者は、期間の定めがありません(5条1項10号)。
また、薬物関係法令違反による処罰歴がある場合は、5条1項5号により年限の定めのない上陸拒否となります。同じ帰国でも、1年と10年、さらには期間の定めなしまで開きが生じます。
出国命令で帰国すれば、必ず1年で戻れるのですか
そうとは限りません。原則は5条1項9号ホの1年ですが、入管法24条の3第1号ロに該当する方、つまり違反調査が始まった後になってから出国の意思を表明した方が、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合には、5条1項9号ヘにより5年となります。イは「27条の規定による違反調査の開始前に、速やかに本邦から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者」、ロは「違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官又は入国警備官に対して速やかに本邦から出国する意思がある旨を表明した者」と定められており、この分かれ目は動く時期そのものによって決まります。
さらに、出国命令制度を使うには、入管法24条の3の5つの要件をすべて満たす必要があります。上記イ又はロに当たること(第1号)、24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号、9号のいずれにも該当しないこと(第2号)、入国後に住居侵入、通貨・文書・有価証券・支払用カード電磁的記録の偽造、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等の罪その他関係法令の一定の罪により拘禁刑に処せられていないこと(第3号)、過去に退去を強制されたことも出国命令により出国したこともないこと(第4号)、速やかに出国することが確実と見込まれること(第5号)です。ひとつでも欠ければ、出国命令という選択肢自体が使えません。
自分で航空券を買って空港から出国すればよいのではありませんか
同じ結果になるとは限りません。入管法24条の3第1号イが求めているのは、「27条の規定による違反調査の開始前に、速やかに本邦から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した」ことです。出国の場面で在留期限を過ぎている事実が明らかになってから申し出た場合に、これがイの類型として扱われるかどうかは別の問題になります。先に地方出入国在留管理局へ出頭申告することの法的な意味は、ここにあります。
帰国する前に、日本で整えておくべきことは何ですか
日本を出た後では取得が難しくなる資料を、出国前に集めておくことが要になります。旅券(期限切れ・紛失の場合は本国大使館・領事館での再発給)、婚姻・出生・親子関係の書類、居住していたことを示す資料、収入・納税・社会保険料の記録、お子さまの学校の記録、地域や職場とのつながりを示す資料などです。
これらは二重の意味を持ちます。手続がまだ終わっていない間は、入管法50条5項が掲げる考慮事情(在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性)を裏づける資料になります。そして上陸拒否期間の満了後、あらためて日本を目指す段階では、生活の実績と家族関係を示す資料になります。帰国後に本国で集め直すのは費用も時間もかかり、そもそも入手できないこともあります。あわせて、未払賃金の有無、住居の賃貸借や携帯電話、銀行口座の整理、日本に残るご家族の在留も、出国前に確認しておくべき事項です。
上陸拒否期間が終われば、自動的に日本へ入国できますか
いいえ。期間の満了は、入管法5条1項9号による上陸拒否の事由がなくなるということにとどまります。日本に入るには、改めて、行おうとする活動が在留資格に該当すること、必要な場合には上陸許可の基準に適合することが求められ、査証の発給と上陸審査を経る必要があります。過去に不法残留の状態にあったことや退去を強制されたこと自体は、その審査の中で当然に考慮されます。期間が過ぎればすべてが白紙に戻る制度ではありません。
上陸拒否期間の途中でも、日本へ来られる道はありますか
例外的な制度として、入管法12条1項の上陸特別許可があります。上陸審査で上陸のための条件に適合しないと判断され、口頭審理を経て法務大臣に異議の申出をした場合であっても、法務大臣が特別に上陸を許可することができるという仕組みで、同項3号は「その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき」と定めています。ただし、これはあくまで例外的な措置です。日本に配偶者やお子さまがいるなど、上陸を認めるべき特別の事情を資料によって具体的に示す必要があり、認められるかどうかは個別の事情によります。上陸特別許可があることを前提に帰国の時期や方法を決めるべきではなく、いま選べる部分、すなわち上陸拒否期間を1年で終わらせるのか5年にしてしまうのかにこそ力を注ぐべきです。
摘発される前に、自ら動くことの意味
帰国を選ぶ場面でこそ、自ら動くかどうかの差がはっきり表れます。違反調査が始まる前に自ら出入国在留管理官署へ出頭すれば入管法24条の3第1号イに当たり、出国命令の他の要件を満たす限り、上陸拒否期間は出国した日から1年です(5条1項9号ホ)。違反調査が始まってから出国の意思を表明した場合(同号ロ)は、その後に短期滞在で来日しようとすると5年になります(5条1項9号ヘ)。摘発によって24条の3の他の要件を欠けば、出国命令自体が使えず、退去強制として5年(5条1項9号ハ)、過去に退去強制歴や出国命令による出国歴があれば10年(同号ニ)です。
加えて、令和6年3月に改定され同年6月10日に施行された在留特別許可に係るガイドラインは、「当該外国人が、不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を積極要素として考慮すると明記しています。帰国するつもりでも、手続の途中で事情が変わり、在留を求める判断に切り替わることはあり得ます。そのときに自ら出頭したという事実が残っているかどうかは、大きな違いになります。他方、不法滞在の長期化は消極要素として評価されますので、迷っている時間そのものが不利に働く面もあります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士は、第一東京弁護士会所属(登録番号59077・2019年登録)です。
接見の初動から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更などは、提携の行政書士とワンストップで対応します。
解決事例を二つご紹介します。ひとつは、観光目的で来日した方が日本人女性との間にお子さまを授かったものの在留資格を失い、逮捕・起訴された事案です。当局と交渉して婚姻・認知を実現し、過去の許可事例を分析したうえで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
もうひとつは、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。退去強制事由に故意・過失を要しないとする実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を上訴審まで争い、その後、在留特別許可が認められました。
帰国を前提とするご相談であっても、出国の経路の選び方、出国前に集めておくべき資料、日本に残るご家族の手続、将来の再来日を見据えた準備まで、一体としてご相談いただけます。初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。
おわりに
帰国という結論を出された方に残された選択肢は、いつ、どのように出るかです。その選択が、次に日本へ来られる日を1年後にするのか、5年後、10年後にしてしまうのかを左右します。動ける時期は限られていますので、決断された段階で早めにご相談ください。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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