退去強制手続の三段階|違反審査・口頭審理・異議の申出
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしている方が、入管に出頭した後、あるいは摘発を受けた後に最初に抱かれる不安は、「これから何が起きるのか」「どこで自分の言い分を聞いてもらえるのか」という点ではないかと思います。退去強制の手続は、一度きりの審査で終わるものではありません。出入国管理及び難民認定法(入管法)は、違反審査、口頭審理、異議の申出という三つの段階を用意しており、段階ごとに、誰が判断するのか、何を主張できるのかが違います。この記事では、入管法45条から49条までの流れと、在留特別許可がどの時点で判断されるのか(50条4項)を整理します。
退去強制の手続はどのような順番で進むのですか
違反調査から始まり、身柄の扱いが決まり、そのうえで三段階の審査が行われます。全体像は次のとおりです。
- 入国警備官による違反調査(入管法27条以下)
- 収容令書による収容(39条)、または監理措置決定(44条の2第7項)
- 第一段階:入国審査官による違反審査(45条以下)と、その結論である認定(47条3項)
- 第二段階:認定に不服がある場合の口頭審理の請求(48条)と、特別審理官による判定(48条8項)
- 第三段階:判定に不服がある場合の法務大臣への異議の申出(49条)と、その裁決
- その後、在留特別許可(50条)または退去強制令書の発付(51条)
前の段階の結論に服せば、その先の段階には進みません。不服を述べれば、次の段階の判断を受けられます。
第一段階の「違反審査」では何が調べられるのですか
入国審査官が、退去強制の対象となる事由に当たるかどうかを審査します。在留期限を過ぎたまま日本に残っている場合は、入管法24条4号ロ(在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者)に当たるかどうかが中心です。資格外活動の専従(24条4号イ)など、他の事由が問題になることもあります。
結論は、47条3項の認定として通知されます。ここで審査されるのは主として「退去強制事由に当たるか」であり、日本に在留を続けたいという事情そのものを判断する場面ではありません。その事情は、後の段階と在留特別許可の判断で正面から扱われます。もっとも、この段階で述べた内容は調書に残り、その後の判断の土台になります。在留期限を過ぎた経緯、その間の生活、家族関係は、事実に反しない範囲で正確に、落とさずに述べる必要があります。
認定に納得できないときはどうすればよいですか
認定の通知を受けたときに、口頭審理を請求できます(入管法48条)。これが第二段階です。請求せずに認定に服する意思を示せば、手続は先に進みません。請求には期間の定めがあり、通知を受けてから短い期間内に意思を示す必要があります。迷う時間は多くありません。通知を受けた段階で直ちに弁護士に連絡し、請求するかどうかを決めることをお勧めします。
口頭審理では何を主張できますか
口頭審理を担当するのは特別審理官です。認定が正しいかどうか、すなわち退去強制事由に当たるという判断に誤りがないかを、あらためて審理します。在留資格の有無や在留期間の起算に誤解があるなど、事実関係に争いがある場合は、この場で資料を示して主張します。結論は、48条8項の判定として示されます。実務上、この段階では退去強制事由そのものは争わず、在留を特別に許可すべき事情の主張に力点を移す事案も少なくありません。どちらの構えを採るかは、事実関係と、後述する50条5項の考慮事情の見通しによって変わります。
判定にも不服がある場合はどうなりますか
特別審理官の判定に不服があるときは、法務大臣に異議を申し出ることができます(入管法49条)。これが第三段階であり、退去強制手続の中の最終段階です。法務大臣の判断は裁決として示されます。異議の申出に理由がないと裁決されても、そこですべてが終わるわけではありません。その裁決の後が、在留特別許可の判断時点だからです。
在留特別許可は三段階のどこで判断されるのですか
入管法50条4項は、在留特別許可は、47条3項の認定に服し、若しくは48条8項の判定に服し、又は法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決した後でなければすることができないと定めています。つまり、三段階のどこかで結論が確定した後が判断時点です。三段階をすべて経なければ在留特別許可が受けられない、というわけではありません。どの段階まで争うかは、退去強制事由の存否に実質的な争いがあるか、在留を希望する事情の資料がどこまで整っているか、身柄の扱いがどうなっているかを踏まえて決めます。
条文上、押さえておきたい点は次のとおりです。
- 申請できる時期:申請は、収容令書により収容された外国人、または監理措置決定を受けた外国人が行います(50条2項)。それ以前は、法務大臣の職権の発動を求める活動になります。
- 申請できなくなる時点:退去強制令書が発付された後は、申請できません(50条3項)。
- 考慮事情:在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性のほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情(50条5項)。
- 加重要件:50条1項ただし書は、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者、及び一部猶予で実刑部分が1年以下の者を除く)等について、在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る、としています。在留期限を過ぎて残留したこと(24条4号ロ)だけの事案は、この加重要件の対象ではありません。有利に働く事情です。
- 理由付記:在留特別許可をしない処分をするときは、速やかに理由を付した書面で知らせなければなりません(50条10項)。
刑事事件も並行しているときは何に注意すべきですか
在留期限を過ぎて日本に残ることは、行政上の問題にとどまりません。入管法70条1項5号に該当する犯罪であり、法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。法定刑は滞在期間の長短で変わりません。変わるのは、検察官の処分の選択と量刑の幅です。実務上、在留期限を過ぎてからの期間の長さは、違法な状態を続けた期間として、処分の重さに直結する中心的な要素とされています。期間が短く、自ら出頭し、生活の基盤や家族関係がはっきりしている事案ほど軽い処分に向かいやすく、期間が数年に及び、不法就労を伴い、偽造文書などの別の違反が重なる事案ほど重い方向に向かいやすい傾向があります。もっとも、事案により幅があります。
そして、刑事処分の軽重と、日本に在留を続けられるかどうかは別の問題です。執行猶予がついても、不起訴となっても、24条4号ロによる退去強制の手続は進みます。他方で、実刑が1年を超えると50条1項ただし書の加重要件がかかり、在留特別許可の見通しは大きく厳しくなります。だからこそ、刑事処分を軽くする活動と在留特別許可を得る活動は、初動から一体で設計しなければなりません。三段階のどこで何を述べるかも、刑事手続の進み方を見ながら決めることになります。
摘発される前に、自ら動くことの意味
ここまでは、退去強制の手続に入った後の話です。しかし、どのような入り方をしたかによって、この手続に乗るかどうか、そして日本を離れた後にいつ戻ってこられるかが大きく変わります。
入管法24条の3の出国命令は、5つの要件をすべて満たす場合に、収容を前提としない形で出国を認める制度です。その第1号は、イとして「27条の違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者」、ロとして「違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官又は入国警備官に対して速やかに出国する意思がある旨を表明した者」を挙げています。
この違いは、次に日本に来られる日に直結します。出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は、出国した日から1年です(5条1項9号ホ)。ところが、24条の3第1号ロに当たる方が、その後に短期滞在の活動をしようとする場合は、出国した日から5年となります(同号ヘ)。さらに、摘発により出国命令の他の要件を欠けば、出国命令自体を使えず、退去強制になります。退去強制歴・出国命令歴のない方で退去の日から5年(同号ハ)、既に退去強制歴等がある方で10年(同号ニ)です。24条4号オからヨまでに該当して退去強制された場合は、期間の定めのない上陸拒否となります(5条1項10号)。
また、在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定、同年6月10日施行)は、在留特別許可を、退去を強制されるべき外国人に対する例外的・恩恵的な措置と位置づけたうえで、「不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を積極要素として考慮すると明記しています。他方、不法滞在の長期化は消極要素とされています。三段階のどの場面でも、自ら出頭した事実はあなたの側に立つ材料になります。時間が経つほど、その材料は失われていきます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士は、第一東京弁護士会に所属しています(登録番号59077・2019年登録)。
体制の特徴は三つです。第一に、接見の初動から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。退去強制手続では、違反審査で述べた内容が口頭審理に、口頭審理で述べた内容が異議の申出に引き継がれていきます。担当者が入れ替わらないことは、この積み上げを守るうえで重要です。第二に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。第三に、刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士とワンストップで対応します。
関連する解決事例を二つご紹介します。
- 難関な在留特別許可を1回の手続で獲得した事例:観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻・認知が未了で一旦不受理とされたところ、憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を実現させ、国籍国の公的書類がほとんど存在しない状況でも有利な証拠を収集し、過去の許可事例の分析を経て、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 不法就労助長の嫌疑で強制退去の危機にあった女性を救済した事例:冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。
おわりに
退去強制の手続は三段階で進み、それぞれの段階で述べられることが違います。そして在留特別許可は、いずれかの段階で結論が確定した後に判断されます(入管法50条4項)。どの段階で何を主張し、どの資料をいつ出すかは、後から取り返しがきかない場面が多くあります。手続が始まった段階、あるいは出頭を考えている段階で、早めにご相談ください。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の他の言語版
简体中文 / 繁體中文 / English / Tiếng Việt / 한국어
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて中国人の方をサポート
----------------------------------------------------------------------