出頭申告した当日は何が起きるのか|違反調査から違反審査まで
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま、日本で暮らしている。自分から入管に出頭したほうがよいとは分かっていても、その日に何が起きるのかが分からず、玄関を出られないまま何か月も過ぎてしまった。そうしたご相談を繰り返しお受けしています。出頭申告の当日は、担当者の気分で決まるものではありません。入管法が手続の順序を定めており、どの段階で誰が何を判断するのかも条文に書かれています。この記事では、当日から違反審査までの流れを条文に沿ってご説明します。
出頭申告した当日、その場で収容されますか
出頭申告をしたというだけで自動的に収容されると定めた規定は、入管法にはありません。身柄をどう扱うかは、入国警備官による違反調査(入管法27条)を経たうえで、主任審査官が収容令書を発付するか(入管法39条)、それとも監理措置決定をするか(入管法44条の2第7項)を判断する形で決まります。収容は手続の当然の出発点ではなく、判断の結果として現れるものです。もっとも、当日の身柄の扱いを事前に言い切れる人はいません。滞在の期間、出頭に至った経緯、身元を引き受ける方がいるか、他の違反が重なっていないかによって結論は変わります。だからこそ、出頭する前に資料をそろえ、説明の筋道を整えておくことに意味があります。
出頭した窓口では、最初に何が行われるのですか
最初に行われるのは、入国警備官による違反調査です。入管法27条は、入国警備官が退去強制事由に該当すると思われる外国人について違反調査をすることができると定めています。出頭申告は、この違反調査が始まる前の段階で、自ら地方出入国在留管理官署の窓口に出向く行為です。窓口では在留カードや旅券、出頭の理由を述べた書面などを提出し、なぜ在留期限を過ぎたのか、その後どう生活してきたのかを聴かれます。オーバーステイは、入管法24条4号ロにより退去強制事由に当たると同時に、入管法70条1項5号の犯罪でもあります。同項の法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、またはその併科です。この場で述べる内容は行政手続だけでなく刑事手続にも影響しうる、という前提で臨む必要があります。
事情聴取では何を聞かれるのですか
聴かれるのは、違反の事実そのものと、在留を認めるべき事情の二つです。前者は、いつどのような在留資格で入国したか、在留期限はいつだったか、なぜ更新や変更の手続をとらなかったか、期限を過ぎた後に働いていたかといった点です。後者は日本での生活の実態にあたる部分で、入管法50条5項が考慮事情として挙げる、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性と重なります。同項は、これらに加えて内外の諸情勢や本邦における不法滞在者に与える影響なども考慮するとしています。
供述は調書にまとめられ、後の手続でも参照されます。記憶があいまいなまま答えた内容が後で事実と食い違えば、説明全体の信用性が下がります。分からないことは分からないと述べ、確認してから答える姿勢が、結局はご本人を守ります。
収容令書と監理措置決定は、どこが違うのですか
収容令書は、退去強制対象者に該当すると疑うに足りる相当の理由がある場合に、入国警備官の請求により主任審査官が発付するもので(入管法39条)、身柄を収容して手続を進めます。これに対して監理措置決定(入管法44条の2第7項)は、収容せずに、監理人による監理のもとで社会内にとどまったまま手続を進める仕組みです。監理措置には住居や行動についての条件や届出義務が付され、違反した場合の罰則も定められています(入管法70条1項9号・10号)。もっとも退去強制手続の中での位置づけは同じで、在留特別許可の申請権はどちらか一方を受けて初めて生じます(入管法50条2項)。
違反審査(入管法45条)は当日行われるのですか
違反審査は、入国警備官の調査とは別に、入国審査官が行う手続です。入管法45条は、入国審査官は入国警備官から容疑者の引渡しを受けたときは、その者が退去強制対象者に該当するかどうかを速やかに審査しなければならないと定めています。当日に事情聴取から違反審査まで進むこともあれば、後日あらためて呼び出されることもあり、事案によって異なります。
審査の結果、退去強制対象者に該当すると認定されると、その旨が本人に通知されます(入管法47条3項)。認定に不服があれば口頭審理を請求でき(入管法48条)、特別審理官の判定(同条8項)にも不服があれば、法務大臣への異議の申出(入管法49条)に進みます。口頭審理の請求には法律上の短い期限がありますので、通知を受けた書面の記載を必ずその場で確認してください。認定や判定に服した場合、または異議に理由がないと裁決された場合が、在留特別許可を判断する時点になります(入管法50条4項)。
在留特別許可の申請は、当日できますか
入管法50条2項は、在留特別許可の申請は、収容令書により収容された外国人または監理措置決定を受けた外国人が、法務省令で定める手続により法務大臣に対して行うと定めています。窓口に出向いた時点ではまだ申請権はなく、収容令書による収容か監理措置決定を受けた段階で初めて申請ができます。それ以前にできるのは、職権の発動を求めて事情と資料を示していく活動です。
期限として決定的に重要なのが入管法50条3項です。退去強制令書が発付された後は、在留特別許可の申請をすることができません。令書が出てしまえば、残るのは取消訴訟や執行停止の申立てという司法救済の領域です。当日から準備を始めるべき理由はここにあります。なお、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者などについては「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る」という加重要件(入管法50条1項ただし書)がありますが、不法残留(24条4号ロ)のみの事案はその対象ではありません。ご本人にとって有利な出発点です。
当日、出国命令の対象になることはありますか
あります。出国命令(入管法24条の3)は、24条2号の4、4号ロ、6号から7号までのいずれかに該当する方が、五つの要件をすべて満たす場合の制度です。すなわち、違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者(同条1号イ)か、違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に出国の意思を表明した者(同号ロ)であること、24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号または9号のいずれにも該当しないこと、本邦に入った後に、住居侵入、通貨・文書・有価証券等の偽造、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等といった刑法上の罪や、暴力行為等処罰法、盗犯等防止法、自動車運転死傷処罰法などの一定の罪により拘禁刑に処せられたものでないこと、過去に退去を強制されたことも出国命令により出国したこともないこと、速やかに出国することが確実と見込まれることです。
出国命令の手続は収容を前提としません。主任審査官は速やかに出国することを命じ、15日を超えない範囲内で出国期限を定めます(入管法55条の85第1項)。住居や行動範囲の制限といった条件を付すこともできます(同条3項)。定められた期限を過ぎて残留すると、今度は入管法70条1項8号の2の罪の問題になりますので、期限は必ず守る必要があります。
摘発される前に、自ら動くことの意味
当日の流れを条文で追うと、「いつ出頭したか」がその後の分岐をつくっていることが分かります。違反調査の開始前に自ら出頭した場合は入管法24条の3第1号イに当たり、出国命令によって出国したときの上陸拒否期間は、出国した日から1年です(入管法5条1項9号ホ)。これに対し、違反調査が始まってから出国の意思を表明した場合(同条1号ロ)は、その後に短期滞在の活動を行おうとするときの上陸拒否期間が、出国した日から5年になります(同項9号ヘ)。摘発により出国命令の要件そのものを欠けば、手続は退去強制に移り、退去強制歴も出国命令歴もない方であれば退去の日から5年(同項9号ハ)、既に前歴がある方であれば退去の日から10年(同項9号ニ)となります。同じ「日本を出る」という結果に見えても、次に日本へ来られる日は1年後にも5年後にも10年後にもなり得ます。
在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定、令和6年6月10日施行)も、在留特別許可を例外的・恩恵的な措置と位置づけたうえで、「当該外国人が、不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を積極要素として考慮すると明記しています。他方、不法滞在の長期化は消極要素として評価されます。迷う時間が長くなるほど、消極要素だけが積み上がっていきます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号59077、2019年登録)が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用できます。刑事手続後の在留資格の更新・変更等は、提携する行政書士とワンストップで対応します。
解決事例を二つご紹介します。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻・認知が未了で当局から一旦不受理とされたところ、憲法的観点から交渉して婚姻・認知を実現し、過去の許可事例を分析して1回の手続で在留特別許可を得ました。もう一件は、冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案で、退去強制事由に故意・過失を要しないとする従来の実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められています。いずれも個別の事情に基づく結果であり、同様の結果をお約束するものではありません。初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。
おわりに
出頭申告の当日は、違反調査、事情聴取、身柄の判断、違反審査という順序で進みます。どの段階で何が決まるのかを知っていれば、当日の不安は小さくなり、準備すべきことも見えてきます。在留特別許可の申請権が生じる時点(入管法50条2項)と、申請ができなくなる時点(同条3項)を考えれば、動き出す日は早いほどよいこともお分かりいただけるはずです。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここでご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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