退去強制歴・出国命令歴があると何が変わるのか
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしていて、しかも以前に一度、日本から退去強制になったことがある。あるいは、過去に出国命令を受けて日本を出た経験がある。そうした方から、「前にも一度あるのだから、今さら何をしても同じではないでしょうか」というご相談をいただくことがあります。同じではありません。過去の退去強制歴・出国命令歴は、出国命令制度を使えるかどうか、次に日本へ入国できるまで何年かかるか、在留特別許可でどう評価されるかという三つの場面で、はっきりとした違いを生みます。
退去強制されたことがあると、出国命令は使えなくなりますか
使えなくなります。入管法24条の3は出国命令の要件を五つ定めており、その第4号が「過去に本邦からの退去を強制されたこと、又は55条の85第1項の規定による出国命令により出国したことがないこと」だからです。五つはすべてを満たして初めて対象となるため、退去強制歴が一つでもあれば、他の要件を満たしていても出国命令の道は閉ざされます。
- 第1号 イ 27条の違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したこと。ロ 違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官又は入国警備官に対して速やかに出国する意思がある旨を表明したこと。
- 第2号 24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号又は9号のいずれにも該当しないこと。
- 第3号 本邦に入った後に、住居侵入、通貨・文書・有価証券等の偽造、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等その他同号が列挙する罪により拘禁刑に処せられたものでないこと。
- 第4号 過去に本邦からの退去を強制されたこと、又は55条の85第1項の出国命令により出国したことがないこと。
- 第5号 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること。
なお出国命令の対象は、24条2号の4、4号ロ、6号から7号までのいずれかに該当する外国人に限られます。
過去に出国命令で出国した場合も、退去強制歴と同じ扱いになりますか
同じ扱いになります。24条の3第4号は「退去を強制されたこと」と「出国命令により出国したこと」を並べており、どちらか一方でもあれば要件を欠くからです。前回、収容されずに出国命令で帰国できた方は今回も同じようにできると考えがちですが、出国命令は制度上、一度きりの措置です。「出頭して短期間で帰国する」という見通しのまま進めた結果、実際には退去強制手続に乗り、収容や上陸拒否期間の長期化に直面することを避けなければなりません。
2回目になると、上陸拒否期間は何年になりますか
退去強制された者で、それ以前に退去強制歴または出国命令による出国歴がある場合は、入管法5条1項9号ニにより、退去の日から10年間、上陸を拒否されます。初めての退去強制であれば同項9号ハにより5年ですから、期間は倍になります。
- 9号ホ 出国命令により出国した者 出国の日から1年
- 9号ヘ 24条の3第1号ロに該当する者(違反調査の開始後に出国意思を表明した者)が出国命令により出国し、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合 出国の日から5年
- 9号ロ 退去強制されたが52条5項の決定を受け、期限までに自ら出国した者(短期滞在目的を除く) 退去の日から1年
- 9号ハ 退去強制された者で、それ以前に退去強制歴・出国命令歴のないもの 退去の日から5年
- 9号ニ 退去強制された者で、既に退去強制歴・出国命令歴のあるもの 退去の日から10年
- 5条1項10号 24条4号オからヨまでに該当して退去強制された者 期間の定めなし
5年と10年の違いは、子の就学期間に間に合うか、両親の介護に間に合うかという具体的な生活の問題です。なお、5条1項5号の薬物関係法令違反による処罰歴には年限の定めがなく、期間の定めのない上陸拒否となります。
退去強制歴があると、在留特別許可はもう認められないのですか
条文上、認められないと定められているわけではありません。入管法50条1項は、退去強制対象者に該当する場合であっても、各号のいずれかに該当するときは、当該外国人からの申請により、または職権で在留を特別に許可することができると定めています。同項5号の「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」は不法残留の事案で最も広く用いられる根拠であり、退去強制歴があることが条文上その適用を排除しているわけではありません。
もっとも、判断が厳しくなることは率直に申し上げます。50条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮事情として掲げ、さらに内外の諸情勢および本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情を考慮するとしています。過去に退去強制を受けた経歴は、このうち「素行」「本邦に入国することとなった経緯」「その間の法的地位」の評価に直接関わります。令和6年3月に改定され同年6月10日に施行されたガイドラインも、在留特別許可を「本邦からの退去を強制されるべき外国人に対して例外的・恩恵的に行われる措置」と位置づけています。
他方、有利に働く点もあります。50条1項ただし書は、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者、および一部猶予で実刑部分が1年以下の者を除く)などについて、「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る」という加重要件を課しています。不法残留(24条4号ロ)のみの事案は、このただし書の対象ではありません。退去強制歴がある方でも、今回の事案が不法残留にとどまる限り、この加重要件はかかりません。
今回の刑事処分は、前回のことがあると重くなりますか
法定刑そのものは変わりません。不法残留は入管法70条1項5号の罪であり、法定刑は同項柱書により3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科です。変わるのは法定刑ではなく、検察官の処分の選択と量刑の幅です。実務上、不法残留の期間の長さは、違法な状態を継続させた期間として犯情に直結する中心的な要素で、期間が短く、自ら出頭し、生活の基盤や家族関係が明確な事案ほど軽い処分に向かいやすく、期間が長期に及び、不法就労を伴い、偽造文書等の別の違反が重なる事案ほど重い処分に向かいやすい傾向があります。過去に退去強制を受けながら再び同じ違反状態に至った経過も説明を求められますが、個別の事案により幅があり、一律の見通しは述べられません。
重要なのは、刑事処分の軽重と、日本に在留を続けられるかどうかは別の問題だという点です。刑事事件で執行猶予や不起訴となっても、24条4号ロに該当する以上、退去強制手続は進みます。「執行猶予が付いたから大丈夫」という理解は誤りです。逆に、実刑で1年を超えると50条1項ただし書の加重要件がかかります。だからこそ、刑事処分を軽くする活動と在留特別許可を求める活動は、初動から一体で設計する必要があります。
摘発される前に、自ら動くことの意味
退去強制歴・出国命令歴がある方は、出国命令という選択肢を既に失っています。だからこそ、残された手続の中でどう動くかがいっそう重要になります。自ら出頭する意味は、出国命令を得るためだけにあるのではありません。
第一に、在留特別許可の判断で評価されます。ガイドラインは、「当該外国人が、不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を積極要素として考慮すると明記しています。他方、不法滞在の長期化は消極要素です。退去強制歴という消極的な事情を抱えている以上、積極要素を確保しておく意味は小さくありません。
第二に、手続のどの段階にいるかで、できることが変わります。退去強制手続は、違反調査(27条以下)、収容令書(39条)または監理措置決定(44条の2第7項)、違反審査(45条以下)、認定(47条3項)、口頭審理の請求(48条)、判定(48条8項)、法務大臣への異議の申出(49条)、裁決と進みます。在留特別許可の申請権は50条2項により収容令書によって収容された外国人または監理措置決定を受けた外国人に認められ、50条3項により、退去強制令書が発付された後は申請できません。時間が経てば手段が増えるのではなく、減っていきます。
第三に、事実の準備には時間がかかります。婚姻や認知の手続、本国の公的書類の取得、就労や納税の裏づけ、家族の生活実態を示す資料は一朝一夕には整いません。摘発されてから慌てて集めるのと、あらかじめ整えて出頭するのとでは、提出できる資料の厚みが違います。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士は第一東京弁護士会所属(登録番号59077・2019年登録)です。接見の初動から公判の結審まで松村弁護士が全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。刑事手続後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士とワンストップで対応します。
- 難関な在留特別許可を1回の手続で獲得した事例 観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻・認知が未了として当局から一旦不受理とされましたが、憲法的観点から交渉して婚姻・認知を成立させ、刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を実施しました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、過去の許可事例を分析して、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 不法就労助長で強制退去の危機にあった女性の救済 冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料で、費用は事案に応じてお見積りいたします。退去強制歴・出国命令歴がある方の事案は、選べる手続が限られる分、初動の設計がより重要です。まずは現在どの段階にいるのかを一緒に確認するところから始めましょう。
最後に
過去の退去強制歴・出国命令歴は、出国命令が使えなくなり(24条の3第4号)、上陸拒否期間が10年になり得る(5条1項9号ニ)という点で、確かに重い事情です。しかし、在留特別許可の道が条文上閉ざされているわけではなく、不法残留のみの事案であれば50条1項ただし書の加重要件はかかりません。どの段階でどの資料を出すかによって、結論が動く余地は残されています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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