違反調査が始まる前か後かで5年変わる|入管法24条の3第1号ロと5条1項9号ヘ
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしている方から、「入管に出頭しようと考えていた矢先に、警察の職務質問を受けてしまった」「入国警備官の調査が始まった後で、自分から出国したいと伝えたが、もう遅いのだろうか」というご相談をいただきます。ここで決定的な意味を持つのが、違反調査が始まる前に自ら出頭したのか、始まった後に出国の意思を伝えたのか、という分かれ目です。この一点が、次に日本へ入国できるようになるまでの期間について、1年と5年という差を生むことがあります。
違反調査が始まる前と後とで、何が変わるのですか
変わるのは「出国命令を受けられるかどうか」ではなく、主として「出国した後の上陸拒否期間」です。入管法24条の3第1号は、違反調査の開始前に自ら出頭した場合(イ)だけでなく、開始後に出国の意思を表明した場合(ロ)も出国命令の対象に含めています。つまり、調査が始まった後でも出国命令の道が完全に閉ざされるわけではありません。しかし5条1項9号ヘにより、第1号ロに該当する方が出国命令で出国し、その後短期滞在の活動を行おうとする場合の上陸拒否期間は、出国した日から5年です。出国命令により出国した方の原則は、5条1項9号ホの1年です。
入管法24条の3第1号のイとロは、どこで分かれるのですか
分岐点は「27条の規定による違反調査の開始」です。
- イ:27条の規定による違反調査の開始前に、速やかに本邦から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者
- ロ:違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官又は入国警備官に対して速やかに本邦から出国する意思がある旨を表明した者
イは調査が始まる前に自分の足で窓口へ出向いた形、ロは調査が始まった後に出国の意思を伝えた形です。どちらも出国命令の対象となり得ますが、その後の再入国に向けた条件は同じではありません。
「違反調査の開始」とは、いつの時点のことですか
入管法27条に基づいて入国警備官が調査を始めた時点です。注意していただきたいのは、その時点がいつであったかを、ご本人が自分で確認する手立てはほとんどないという点です。調査は、事業所への立入りや関係先への照会という形で、知らないうちに始まっていることがあります。職務質問を受けた、入管から連絡が来たという出来事は、多くの場合すでに何らかの端緒が生じた後に起きています。
「もう少し様子を見てから出頭しよう」という判断は、自分では確認できない事柄に賭ける判断になります。イとロを分けるのは誠実さや努力ではなく、単に時間の前後です。
摘発された後でも、出国命令を受けられますか
可能性はあります。24条の3第1号ロがあるためです。ただし2つの限界があります。
第1に、時間的な限界です。ロが求めるのは「47条3項の通知を受ける前」の意思表明です。退去強制手続は、違反調査(27条以下)に始まり、収容令書(39条)または監理措置決定(44条の2第7項)を経て、入国審査官の違反審査(45条以下)へ進み、47条3項の認定の通知に至ります。この通知を受けた後は、第1号ロの要件を満たしません。
第2に、要件の限界です。出国命令の対象となるには、24条の3第1号から第5号までの5つの要件をすべて満たす必要があります。すなわち、(1)第1号イ又はロに該当すること、(2)24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号又は9号のいずれにも該当しないこと、(3)本邦に入った後に、刑法上の一定の罪(住居侵入、通貨・文書・有価証券・支払用カード電磁的記録の偽造、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等)その他所定の罪により拘禁刑に処せられたものでないこと、(4)過去に本邦からの退去を強制されたこと、又は55条の85第1項の出国命令により出国したことがないこと、(5)速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること、です。
なぜ短期滞在のときだけ5年になるのですか
5条1項9号ヘが、対象を「短期滞在の活動を行おうとする場合」に限って定めているからです。同号は、24条の3第1号ロに該当する方が出国命令により出国し、その後短期滞在の活動を行おうとするときに、出国した日から5年間の上陸拒否とする構造です。
したがって、違反調査の開始前に自ら出頭した方(第1号イ)は9号ホにより1年が基準です。開始後に意思表明をした方(第1号ロ)も、短期滞在以外の在留資格で入国しようとする場面では9号ホの1年が基準となり、短期滞在で入国しようとする場面に限って9号ヘの5年が働きます。もっとも、上陸拒否期間の経過は「入国できる」という結論を意味しません。別に査証の発給、在留資格該当性、上陸許可基準の審査があり、過去の不法残留という事実自体が考慮されることは避けられません。
出国命令を受けたら、いつまでに日本を出るのですか
入管法55条の85第1項により、主任審査官は速やかに出国することを命じ、15日を超えない範囲内で出国期限を定めます。同条3項により、住居や行動範囲の制限などの条件を付すこともできます。出国命令の手続は、退去強制の手続と異なり収容を前提としません。身柄を拘束されたまま進むわけではないという点は、荷物の整理や給与の精算、賃貸物件の解約といった生活面の後始末にとって実際上の大きな違いです。ただし出国期限を経過してなお残留すると、70条1項8号の2の問題になります。
出国命令が使えない場合は、どうなりますか
退去強制の手続に進みます。この場合の上陸拒否期間は次のとおりです。
- 退去強制されたが、52条5項の決定を受け期限までに自ら出国した者(短期滞在目的を除く):5条1項9号ロ・退去の日から1年
- 退去強制された者で、それ以前に退去強制歴・出国命令歴のないもの:5条1項9号ハ・退去の日から5年
- 退去強制された者で、既に退去強制歴・出国命令歴のあるもの:5条1項9号ニ・退去の日から10年
- 24条4号オからヨまでに該当して退去強制された者:5条1項10号・期間の定めなし
薬物関係法令違反による処罰歴を定める5条1項5号にも年限がなく、期間の定めのない上陸拒否となります。出国命令を使えるかどうかは、1年か5年かにとどまらず、5年・10年・無期限という段階へ移るかどうかの問題でもあります。
オーバーステイに刑事罰はありますか
あります。入管法70条1項5号は、在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者を処罰対象とし、法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。法定刑は滞在期間の長短で変わらず、変わるのは検察官の処分の選択と量刑の幅です。期間が短く、自ら出頭し、生活の基盤が明確な事案ほど軽い処分に向かいやすく、長期に及び不法就労や偽造文書等が重なる事案ほど重い処分に向かいやすい傾向がありますが、事案により幅があり、数字で見通しを示すことはできません。
そして、刑事処分の軽重と日本に残れるかどうかは別の問題です。執行猶予や不起訴となっても、不法残留は24条4号ロの退去強制事由に当たるため手続は進みます。他方、実刑が1年を超えると50条1項ただし書の加重要件がかかり、在留特別許可の見通しは大きく厳しくなります。逆にいえば、不法残留(24条4号ロ)のみの事案はこのただし書の対象ではなく、これは有利な事情です。刑事処分を軽くする活動と在留特別許可を目指す活動は、初動から一体で設計する必要があります。
摘発される前に、自ら動くことの意味
このテーマにおける出頭の意味は「誠意を示す」という抽象的なものではなく、条文上の地位が変わるという具体的なものです。開始前に自ら出頭すれば24条の3第1号イとなり、出国命令で出国した場合の上陸拒否期間は9号ホの1年です。開始後の意思表明であれば第1号ロとなり、その後に短期滞在で来日しようとする場面では9号ヘの5年です。さらに、摘発の結果として第2号・第3号・第4号の要件を欠けば出国命令自体が使えず、退去強制による5年(9号ハ)または10年(9号ニ)に移ります。この地位の違いは、多くの場合、数日から数週間という時間の前後で決まります。
加えて、令和6年3月に改定され令和6年6月10日に施行された「在留特別許可に係るガイドライン」は、「その他の事情」の項で、不法滞在を申告するため自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことを積極要素として考慮すると明記しています。他方、不法滞在の長期化は消極要素とされます。同ガイドラインは在留特別許可を例外的・恩恵的な措置と位置づけており、自動的に与えられるものではありません。それでも、出頭という事実が制度上どこに置かれているかを知る意味は小さくありません。
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舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。
体制の特徴は3つあります。第1に、接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。第2に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。第3に、刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士とワンストップで対応します。
事例D-1:観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻・認知が未了で当局から一旦不受理とされましたが、憲法的観点から交渉して婚姻・認知を成立させ、有利な証拠を集めたうえ過去の許可事例を分析し、1回の手続で在留特別許可を得ました。
事例D-2:冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りをいたします。在留期限がいつであったか、これまでにどのような連絡や調査を受けているか、日本にご家族がいるか、の3点をご整理のうえご連絡ください。
おわりに
違反調査の開始前か後かという一線は、ご本人の目には見えにくいところで引かれます。しかし、その線のどちら側に立っているかによって、次に日本の土を踏めるのが1年後なのか5年後なのか、あるいは退去強制による5年・10年なのかが変わります。動くのが早いほど、選べる道は多く残されています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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