オーバーステイの人を雇う側・住まわせる側の責任|不法就労助長と入管法24条3号の4
2026/08/27
在留期限が過ぎたまま日本にいる方を、店やアルバイト先で働かせている。あるいは、行き場がないというので自宅の一室に住まわせている。そうしたご相談を、当事務所は少なからずお受けします。多くは困っている人を助けたいという善意から始まっており、雇っている自分の側まで問題になるとは思わなかった、とおっしゃる方もいます。しかし入管法は、オーバーステイ(不法残留)の状態にある方ご本人だけでなく、その就労に関与した側についても、刑事と行政の両面から責任を定めています。以下、条文に即して整理します。
オーバーステイの人を雇うと、雇う側はどのような責任を負いますか
責任は二つの筋に分かれます。刑事面では、入管法73条の2が、事業活動に関して外国人に不法就労活動をさせる行為などを処罰の対象としています。行政面では、雇う側自身が外国人である場合に、入管法24条3号の4により、その行為が退去強制事由になります。
不法就労活動には、在留資格を持たない方が報酬を得て働く場合が含まれます。オーバーステイの状態にある方は、在留期間を過ぎた時点で在留資格に基づいて日本にいることができなくなっていますから、その方が働けば不法就労活動にあたります。短時間の手伝いであっても、この点は変わりません。法定刑や適用の範囲は行為の態様によって異なりますので、実際の当てはめは個別の確認が必要です。
雇い主が外国人の場合、刑事処罰を受けていなくても退去強制になりますか
なり得ます。入管法24条3号の4は、不法就労助長にあたる行為をしたこと自体を退去強制事由としており、有罪判決を受けたことを要件としていないからです。
同法24条4号チは薬物関係法令違反について有罪判決を受けたことを要件とし(罰金でも、執行猶予が付いた場合でも該当します)、同法24条4号リは無期または1年を超える拘禁刑に処せられたことを要件として、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除いています。3号の4には、そうした刑事処分に関する要件がありません。したがって、不起訴になった場合でも、起訴されて罰金にとどまった場合でも、入管の側では退去強制手続が別途進みうることになります。
不法就労助長にあたると、出国命令で帰ることはできなくなりますか
できなくなります。実務上、これが最も重い帰結です。出国命令(入管法24条の3)は5つの要件をすべて満たす方だけが利用できる制度で、その第2の要件は「入管法24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号又は9号のいずれにも該当しないこと」です。不法就労助長の3号の4はこの範囲に含まれますから、該当すると判断された時点で、出国命令の対象から外れます。
差は上陸拒否期間に表れます。
- 出国命令により出国した場合は、入管法5条1項9号ホにより、出国した日から1年。
- 退去強制され、それ以前に退去強制歴も出国命令歴もない場合は、同項9号ハにより、退去の日から5年。
- 退去強制され、既にそうした履歴がある場合は、同項9号ニにより、退去の日から10年。
手続の性質も異なります。出国命令の手続は収容を前提としませんが、退去強制手続は収容令書(入管法39条)または監理措置決定(同法44条の2第7項)を経て進みます。
在留カードを確認していた場合でも責任を問われますか
確認していたという事情だけで当然に責任を免れるとは限りません。入管法24条3号の4は行為そのものを退去強制事由とする構造をとっており、実務では、この該当性について故意や過失を必要としないという扱いがされてきました。当事務所は、冤罪により不法就労助長罪に問われた女性の事案で、責任主義の射程がこの場面に及ぶのかを問う訴訟を提起し、上訴審まで争った経験がありますが、この実務の考え方が現時点で一般的に変更されたと申し上げることはできません。
だからこそ、採用の時点で在留カードの在留資格、在留期間の満了日、資格外活動許可の有無を確認し、確認した内容と日付を記録に残しておくことに意味があります。すでに雇っている場合、直ちに辞めさせれば済むという話でもなく、賃金や解雇の適法性という労働法上の問題が別に生じますので、自己判断で動く前に一度ご相談ください。
オーバーステイの人を住まわせているだけでも責任がありますか
住まいを提供したという事実だけで、直ちに不法就労助長になるわけではありません。問題になるのは行為の内容です。寮や社宅を用意して働かせている場合、店舗の上階に住まわせて店を手伝わせている場合のように、住居の提供と就労が一体になっているときは、住居の提供が働かせた行為の一部として評価されることがあります。また入管法には、退去強制を免れさせる目的で不法滞在の状態にある方を匿ったり逃れさせたりする行為についての罰則も置かれており、どの規定が適用されるかは行為の態様によります。
他方で、ご家族やご友人が同居しているという事実だけを取り出して、直ちに責任が生じると身構える必要はありません。評価されるのは、退去強制を免れさせる目的があったかどうか、就労と結びついていたかどうかといった行為の中身です。住まわせている側ご自身が外国人であり、就労にも関与していた場合には、話は入管法24条3号の4に戻ります。
雇われている本人には、どのような不利益が加わりますか
ご本人については、日本に残っていること自体が入管法70条1項5号の不法残留罪にあたり、法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、またはその併科です。行政面では、同法24条4号ロにより退去強制事由に該当します。
もっとも、働いていたという事実が意味を持たないわけではありません。法定刑は滞在期間の長短にかかわらず一律ですが、変わるのは検察官の処分の選択と量刑の幅です。期間が長期に及び、不法就労を伴う事案ほど重い処分に向かいやすく、期間が短く、自ら出頭し、生活の基盤や家族関係が明確な事案ほど軽い処分に向かいやすい傾向がありますが、事案により幅があります。他方、不法残留のみの事案は、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者等を対象とする同法50条1項ただし書の加重要件の対象ではありません(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者は除かれます)。刑事処分を重くしないこと自体が在留特別許可の土俵を守ることにつながりますから、刑事の活動と在留の活動は初動から一体で設計する必要があります。
摘発される前に、自ら動くことの意味
雇用が絡む事案では、摘発が「人」ではなく「場所」に対して行われることがあります。事業所への立入りをきっかけに、働いていた方と雇っていた方が同時に対象となることがあり、いつ動くかの判断が双方にとって決定的になります。
入管法24条の3第1号イは、同法27条の規定による違反調査の開始前に、速やかに本邦から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者を出国命令の対象としており、この場合に出国命令で出国すれば、上陸拒否期間は前記のとおり1年です。これに対し、違反調査が開始された後、同法47条3項の通知を受ける前に出国の意思を表明した場合は同法24条の3第1号ロにあたり、その後に短期滞在の活動を行おうとするときは同法5条1項9号ヘにより5年となります。摘発によって他の要件を欠けば出国命令自体を利用できず、退去強制により5年または10年です。ガイドラインも、不法滞在を申告するため自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことを積極要素として考慮すると明記しています。
もっとも、雇い主が外国人であり入管法24条3号の4に該当すると判断される場合、雇い主側には出国命令の道がありません。ご本人にとって最善の動き方と雇い主にとって最善の動き方は一致しないことがあり、利益が対立しうる関係ですから、それぞれが別の弁護士にご相談になることをお勧めします。
当事務所のご案内
当事務所は、中国籍の依頼者を中心に、外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。松村弁護士が、警察署での初回の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新や変更については、提携の行政書士とワンストップで対応します。
不法就労助長に関する事例として、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案があります。退去強制事由には故意・過失が不要であるとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、この方については入管から在留特別許可が認められています。
また、在留資格を失って不法滞在の状態となり、逮捕・起訴された方について在留特別許可を得た事案もあります。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦は不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から交渉して婚姻と認知を成立させ、入管当局の過去の許可事例を分析した結果、1回の手続で在留特別許可を得ることができました。
初回のご相談は無料です。費用は事案の内容に応じてお見積りします。雇う側、住まわせている側、ご本人のいずれからのご相談もお受けしていますが、利益が対立しうる場合には、それぞれ別の弁護士にご相談いただくようご案内することがあります。
おわりに
雇う側・住まわせる側の責任は、知らなかった、善意だった、という一言では整理しきれません。入管法24条3号の4は行為そのものを退去強制事由とし、これに該当すると出国命令の道が閉ざされ、上陸拒否期間は1年から5年・10年へと大きく動きます。事態が動き出す前に、どこまでが事実で、どの条文に触れうるのかを整理しておくことに意味があります。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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