うっかり在留期間の更新を忘れた場合も犯罪になるのか|故意の問題と、気づいた後の動き方
2026/08/27
在留カードの期限を確認したら、すでに日付が過ぎていた。仕事や家族のことに追われているうちに、更新の手続をするのを忘れてしまっていた。そうしたご相談は、決して珍しいものではありません。多くの方が最初に口にされるのは、「わざとではないのに、それでも犯罪になるのですか」という問いです。悪意があったわけではない、ただ忘れていただけだという思いは、当然のものだと思います。この記事では、更新を失念したまま在留期限を過ぎてしまった場合について、刑事の面と入管手続の面に分けて、条文に沿って整理します。
うっかり在留期間の更新を忘れた場合も、犯罪になるのですか
結論から申し上げると、更新を忘れていた場合であっても、不法残留の罪が成立する可能性はあります。出入国管理及び難民認定法(入管法)70条1項5号は、「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間(20条6項の規定により本邦に在留することができる期間を含む。)を経過して本邦に残留する者」を処罰の対象としています。法定刑は、同項の柱書により、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金であり、その両方が科されること(併科)もあります。
ここで大切なのは、条文が求めているのが「更新又は変更を受けないまま期間を過ぎて日本にとどまっていること」であって、「不法に残る目的をもっていたこと」ではないという点です。つまり、「日本に居座ってやろう」という積極的な意図がなくても、この条文の要件そのものは満たされ得ます。
「知らなかった」「忘れていた」という説明は、どこまで通用するのですか
刑事責任を問うためには、原則として故意、すなわち「罪を犯す意思」が必要です。刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と定めています。したがって、在留期限が過ぎていることを本当にまったく認識していなかったのであれば、故意が否定される余地は、理屈のうえでは残ります。
もっとも、実際の手続でその説明がそのまま受け入れられるかは、別の問題です。在留カードには在留期間の満了日が明記されており、更新の手続についても案内がなされています。また、「もしかすると期限が過ぎているかもしれない」と思いながら、確認せずにそのまま日本での生活を続けていた場合には、いわゆる未必の故意が認められることがあります。故意があったかどうかは、本人の言い分だけで決まるのではなく、在留カードを確認していた形跡、勤務先や学校とのやりとり、更新の準備をしていたかどうかといった客観的な事情から判断されます。
そのため、「忘れていただけです」という一言で終わらせるのではなく、なぜ気づかなかったのか、いつ、どのようなきっかけで気づいたのか、気づいた後に何をしたのかを、資料とともに具体的に説明していく必要があります。この説明の組み立ては、刑事処分の重さにも、後述する在留特別許可の判断にも影響します。
故意がなかったのなら、退去強制も免れるのですか
この点は、多くの方が誤解される部分です。刑事の話と、日本にいられるかどうかの話は、別々に進みます。
入管法24条4号ロは、「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者」を退去強制事由として定めています。この条文は、期限を過ぎて日本に残っているという客観的な状態を要件としており、条文上、故意や過失を要件とはしていません。したがって、うっかり忘れていたという事情があっても、24条4号ロに該当することを理由に、退去強制の手続が始まり得ます。
刑事の側で不起訴となった場合や、裁判で刑の全部の執行猶予が付いた場合も同様です。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としつつ、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者等を明文で除外しています。そのため、「1年6月・執行猶予3年」といった判決であれば4号リには当たりませんが、そもそも4号ロにより退去強制事由に該当している以上、「執行猶予が付いたから在留を続けられる」という理解は誤りです。刑事処分が軽くなることと、日本に在留を続けられることとは、別の問題として設計しなければなりません。
更新の申請をしたまま期限が来てしまった場合はどうなりますか
在留期間の満了日より前に更新の申請をしていた場合には、扱いが異なります。入管法20条6項は、更新の申請をした方について、処分がされるまでの間、従前の在留資格をもって本邦に在留できる期間(いわゆる特例期間)を定めています。この期間中は、在留期限の日付を過ぎていても、不法残留にはなりません。
70条1項5号が「在留期間(20条6項の規定により本邦に在留することができる期間を含む。)」とわざわざ括弧書きを置いているのは、この特例期間の満了までは処罰の対象とならないことを前提としているからです。逆に言えば、期限前に申請をしていなければ、この特例期間は生じません。「更新を忘れた」というご相談で最初に確認すべきなのは、期限前に何らかの申請をしていたかどうかであり、ここが分かれ目になります。
在留期限が過ぎていることに気づいたら、まず何をすればよいですか
気づいた時点で、入国警備官による違反調査(入管法27条以下)が始まる前に、自ら地方出入国在留管理官署へ出頭して申告するという選択肢があります。ここでの判断は、その後に日本へ戻れるかどうかに直結します。
入管法24条の3は、出国命令の対象となる要件を定めています。同条第1号イは「27条の規定による違反調査の開始前に、速やかに本邦から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者」、同号ロは「違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官又は入国警備官に対して速やかに本邦から出国する意思がある旨を表明した者」を指します。出国命令の対象となるには、これに加えて次の要件をすべて満たす必要があります。
- 24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号又は9号のいずれにも該当しないこと
- 本邦に入った後に、住居侵入、通貨・文書・有価証券・支払用カード電磁的記録に関する偽造、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等の各罪、暴力行為等処罰法1条・1条ノ2・1条ノ3の罪、盗犯等防止法の罪、特殊開錠用具所持禁止法15条・16条の罪、自動車運転死傷処罰法2条・6条1項の罪、盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪により拘禁刑に処せられたものでないこと
- 過去に本邦からの退去を強制されたこと、又は55条の85第1項の出国命令により出国したことがないこと
- 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること
出国命令が出た場合、主任審査官は速やかに出国を命じ、15日を超えない範囲内で出国期限を定めます(入管法55条の85第1項)。住居や行動範囲の制限といった条件が付されることもあります(同条3項)。出国命令の手続は、退去強制手続と異なり、身柄を収容することを前提としていません。
更新を忘れた事案でも、在留特別許可が認められることはありますか
日本に家族がいるなど、出国という選択がとれない事情がある方にとっては、在留特別許可(入管法50条)が問題となります。同条1項は、退去強制対象者に該当する場合であっても、各号のいずれかに該当するときは、当該外国人からの申請により又は職権で在留を特別に許可することができると定めており、更新失念による不法残留の多くは、同項5号の「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」の枠組みで検討されます。
判断にあたって考慮される事情は、同条5項に法定されています。在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性に加え、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情です。更新の失念という事案では、入国の経緯に問題がないこと、在留していた期間の法的地位がもともと適法であったこと、生活や就労の実態が従前と変わっていないことなどを、資料に基づいて示していくことになります。
また、不法残留(24条4号ロ)のみの事案であれば、50条1項ただし書の加重要件(無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合等について、在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る、とするもの)の対象にはなりません。これは有利に働く事情です。逆に、実刑で1年を超える拘禁刑となった場合には、このただし書がかかり、見通しは大きく厳しくなります。
なお、出入国在留管理庁が公表している在留特別許可の事例には、在留期間の更新の申請を失念したまま在留してしまった類型が含まれているとされています。もっとも、公表されている事例は個人が特定されないよう事情が抽象化されており、これをもって同種の事案で許可されると考えることはできません。あくまで、考慮事情ごとに本件固有の事情を積み上げていく作業が必要です。
手続の面では、在留特別許可の申請は、収容令書により収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人が行うものとされ(同条2項)、退去強制令書が発付された後は申請することができません(同条3項)。許可をしない処分をするときは、理由を付した書面で知らせなければならないとされています(同条10項)。動ける時間には限りがあるということです。
摘発される前に、自ら動くことの意味
更新を忘れていたという事案では、「気づいたけれど、どうしてよいか分からず、そのままにしてしまった」という時間が生まれがちです。しかし、この空白の時間は、法律上、はっきりとした不利益に変わります。
入管法5条1項9号は、上陸拒否期間を類型ごとに定めています。出国命令により出国した者は、出国した日から1年(同号ホ)。これに対し、24条の3第1号ロに該当する者、すなわち違反調査が始まった後に出国の意思を表明した者が出国命令で出国し、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合は、出国した日から5年(同号ヘ)です。さらに、そもそも摘発によって出国命令の要件を欠くことになれば、退去強制となり、退去強制歴等のない方で5年(同号ハ)、既に退去強制歴・出国命令歴のある方で10年(同号ニ)となります。24条4号オからヨまでに該当して退去強制された場合には、5条1項10号により期間の定めのない上陸拒否となります。
同じ「更新を忘れた」という一つの出来事から出発しても、違反調査が始まる前に自ら出頭したか、始まってから表明したか、摘発されたかによって、日本に戻れるまでの年数が変わります。加えて、令和6年3月に改定され同年6月10日に施行された在留特別許可に係るガイドラインでは、在留特別許可が「本邦からの退去を強制されるべき外国人に対して例外的・恩恵的に行われる措置」と位置づけられる一方で、不法滞在を申告するために自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことが積極要素として考慮されると明記されています。他方、不法滞在の長期化は消極要素として評価されます。忘れていた期間が延びるほど、この消極要素が積み上がっていくことになります。
もっとも、出頭申告は、その後の手続の見通しを立てないまま行うべきものではありません。出国命令の要件を満たすのか、在留特別許可を求めるのか、求めるとして何を資料として整えるのか。方針を決めたうえで臨むことが、結果を大きく左右します。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士は、第一東京弁護士会に所属しています(登録番号59077・2019年登録)。
当事務所の体制の特徴は三つあります。第一に、接見の初動から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。第二に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者本人のために動く立場の通訳を利用できるという意味で、ご本人の言い分を正確に伝えるための体制です。第三に、刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携の行政書士とワンストップで対応します。刑事と入管を切り離さずに設計できることが、更新失念のようなご相談では特に重要になります。
関連する解決事例を二件ご紹介します。
難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例/観光目的で来日した方が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案です。松村弁護士が憲法的観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、過去の許可事例を分析したうえで有利な証拠を集め、在留特別許可を獲得しました。
強制退去の危機にあった女性について在留特別許可が認められた事例/冤罪により不法就労助長罪に問われた女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。本記事の論点に正面から向き合った事案です。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。
おわりに
更新を忘れていたという事案は、ご本人の落ち度が小さい一方で、時間の経過とともに法的な不利益だけが確実に積み上がっていくという特徴があります。気づいた日と、動き出した日の間隔が短いほど、選べる道は広く残ります。どうしてよいか分からないまま日が過ぎてしまう前に、一度ご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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東京を中心に刑事事件の弁護
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