不法残留で1年を超える実刑になると何が起きるか|入管法50条1項ただし書の壁
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしてきて、ある日、警察や入国警備官に身柄を押さえられ、刑事裁判を受けることになった。弁護人から「実刑になるかもしれません」と告げられた。ご本人にとっても、日本で待つご家族にとっても、これほど不安な瞬間はないと思います。不法残留の事案では、刑事裁判の結果が、そのまま「日本に残れるかどうか」に跳ね返ります。とりわけ、言い渡される刑が拘禁刑1年を超える実刑になるかどうかは、入管法が明確に線を引いている分かれ目です。ここでは、その線がどこにあり、越えると何が変わるのかを、条文に沿って落ち着いて整理します。
不法残留で1年を超える実刑判決を受けると、在留特別許可はどうなりますか
在留特別許可の判断に、法律上の加重要件がかかります。入管法50条1項ただし書は、無期若しくは1年を超える拘禁刑に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者、及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であってその刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間が1年以下の者を除きます)については、「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る」と定めています。つまり、通常の在留特別許可よりも一段高いハードルが、条文そのものによって設定されます。同じただし書は、24条3号の2・3号の3・4号ハ・4号オからヨまでに該当する場合にも働きます。
なぜ「1年」が分かれ目になるのですか
入管法が、「1年を超える拘禁刑」という同じ線を二か所で引いているからです。ひとつは退去強制事由を定めた24条4号リで、「ニからチまでに掲げる者のほか、昭和26年11月1日以後に無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としています。もうひとつが、いま述べた50条1項ただし書です。いずれにも、刑の全部の執行猶予を受けた者と、一部執行猶予で実際に服役する部分が1年以下にとどまる者を除く、という除外規定が置かれています。条文は「1年を超える」と書いていますので、1年ちょうどの刑はこれに当たりません。1年6月の実刑と、1年の実刑と、1年6月・執行猶予3年の判決とでは、入管法上の扱いがまったく違ってくるということです。
不法残留だけの事案なら、ただし書はかからないのですか
不法残留そのもの(24条4号ロ)を理由に退去強制対象者とされているだけであれば、それ自体は50条1項ただし書の加重要件の対象ではありません。ただし書が挙げているのは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合と、24条3号の2・3号の3・4号ハ・4号オからヨまでに該当する場合であって、不法残留の4号ロはそこに入っていないからです。これは実務上、きわめて重要な有利事情です。ですから、刑事処分が不起訴、罰金、あるいは執行猶予にとどまっている限り、在留特別許可は50条5項の考慮事情の総合判断として検討されます。逆に言えば、実刑で1年を超える刑が確定した瞬間に、刑の側からただし書の入口が開いてしまう、という構造になっています。
「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」とは、どのようなものですか
条文に定義はなく、個別の事案ごとの判断になります。手がかりになるのは50条5項です。同項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情を考慮する、と定めています。さらに、令和6年3月に改定され同年6月10日に施行された在留特別許可に係るガイドラインは、在留特別許可を「本邦からの退去を強制されるべき外国人に対して例外的・恩恵的に行われる措置」と位置づけています。ただし書がかかる事案では、家族がいる、長く住んでいる、という事情を並べるだけでは足りず、在留を許可しないこと自体が人道に反すると言えるだけの具体的事実を、資料と証拠で組み立てる必要があります。結果を保証できるものではなく、個別の事情によります。
実刑判決を受けた後、在留特別許可はいつ申請できますか
申請できる時期は、条文で区切られています。50条2項は、在留特別許可の申請は、収容令書により収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人が、法務省令で定める手続により法務大臣に対して行う、と定めています。つまり、申請という形の権利が生じるのは、収容令書による収容か監理措置決定を受けてからであり、それ以前は職権の発動を求める働きかけになります。また50条4項により、在留特別許可は、47条3項の認定・48条8項の判定に服し、又は法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決した後でなければすることができません。そして50条3項は、退去強制令書が発付された後は申請することができない、と定めています。令書が出た後は、取消訴訟や執行停止の申立てという、裁判所による救済の領域に移ります。なお、在留特別許可をしない処分をするときは、速やかに理由を付した書面で知らせなければならないとされています(50条10項)。この理由付記は、その後の争い方を考えるうえで重要な材料になります。
刑事裁判の段階で、入管手続のために何をしておくべきですか
量刑を1年以下、あるいは執行猶予の範囲に収めるための活動そのものが、その後の入管手続の見通しを直接左右します。不法残留の法定刑は、70条1項5号と同項柱書により、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する、と定められています。滞在期間が長くても短くても、この法定刑自体は変わりません。変わるのは、検察官がどの処分を選ぶかと、量刑の幅です。実務上は、不法残留の期間の長さが、違法な状態を続けた期間という犯情として処分の重さに直結します。期間が短く、自ら出頭し、生活基盤や家族関係が明確な事案ほど軽い処分に向かいやすく、期間が長期に及び、不法就労を伴い、偽造文書等の別の違反が重なる事案ほど重い方向に向かいやすい、という傾向があります。もっとも、事案により幅があり、一律には言えません。刑事処分の軽重と、日本に残れるかどうかは本来別の問題ですが、実刑1年超という一点だけは、50条1項ただし書という形で両者が直結します。だからこそ、刑事処分を軽くする活動と、在留特別許可を得るための活動は、初動から一体のものとして設計しなければなりません。
摘発される前に、自ら動くことには、どのような意味がありますか
実刑1年超という結果は、ある日突然降ってくるものではありません。摘発され、身柄を拘束され、他の違反が重なり、対応が後手に回る、という積み重ねの先に生じます。だからこそ、選択肢が残っているうちに動くことに意味があります。入管法24条の3の出国命令制度は、24条2号の4、4号ロ、6号から7号までのいずれかに該当する方について、5つの要件をすべて満たす場合に使えます。要件の第一は、27条の違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したこと(1号イ)、又は違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官若しくは入国警備官に対して出国意思を表明したこと(1号ロ)です。ほかに、24条3号から3号の5まで・4号ハからヨまで・8号・9号のいずれにも該当しないこと、入国後に、住居侵入、通貨・文書・有価証券等の偽造、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等に関する刑法各章の罪その他24条の3第3号が列挙する法律の一定の罪により拘禁刑に処せられていないこと、過去に退去を強制されたことや出国命令により出国したことがないこと、速やかに出国することが確実と見込まれることが必要です。出国命令を受けると、主任審査官が15日を超えない範囲で出国期限を定めます(55条の85第1項)。手続は収容を前提としません。
この差は、次に日本へ来られるかどうかに、はっきり表れます。出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は、出国した日から1年です(5条1項9号ホ)。これに対し、違反調査が始まってから出国意思を表明した24条の3第1号ロの類型で、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合は、出国した日から5年となります(5条1項9号ヘ)。さらに、摘発によって出国命令の要件を欠き退去強制となれば、退去強制歴・出国命令歴がなければ退去の日から5年(5条1項9号ハ)、既にそうした前歴があれば10年(同号ニ)です。24条4号オからヨまでに該当して退去強制された場合は、期間の定めのない上陸拒否となります(5条1項10号)。加えて、ガイドラインは、不法滞在を申告するため自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことを積極要素として考慮すると明記しており、他方で不法滞在の長期化は消極要素として評価されます。実刑判決を受けて服役するような段階まで進んでしまうと、出国命令の要件、とりわけ自ら出頭したこと(1号イ)や速やかに出国することが確実と見込まれること(5号)を満たす場面からは、遠ざかっていきます。50条1項ただし書の壁の前に立たされる事態そのものを避ける最も現実的な方法は、まだ自分で選べるうちに、専門家に相談したうえで動くことです。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、松村大介弁護士が、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っています。実刑1年超が視野に入る事案は、刑事裁判の弁護活動と、その後の在留特別許可を見据えた準備とを、同じ設計図の上で進める必要があります。当事務所では、留置施設での初回の接見から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士に代行させることはありません。
また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を使えることは、取調べへの対応方針を決め、事実関係を正確に把握するうえで大きな意味があります。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携の行政書士とワンストップで対応します。
関連する解決事例をご紹介します。ひとつは、難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事案です。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を喪失し不法滞在で逮捕・起訴されました。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦は不受理とされましたが、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問と証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析したうえで、在留特別許可を得ています。
もうひとつは、不法就労助長の嫌疑をかけられ強制退去の危機にあった女性の事案です。冤罪でありながら退去強制事由には故意・過失が不要とされる従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。いずれも個別の事情に基づく結果であり、同じ結論を保証するものではありません。初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。
おわりに
不法残留の事案では、初動の選択がその後のすべてを規定します。とりわけ、拘禁刑1年を超える実刑になるかどうかは、入管法50条1項ただし書という条文上の壁が立つかどうかの分かれ目であり、刑事裁判の段階での弁護活動が、そのまま在留の見通しに直結します。今どの段階にいるのかを正確に把握し、できることから順に手を打つことが大切です。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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