不法残留で執行猶予判決が付いても、日本に居られるとは限らない理由
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしていたところ、事情が警察や入管に知られ、刑事裁判で拘禁刑に執行猶予が付いた判決を受けた。あるいは、これから判決を迎えようとしている。そのようなとき、多くの方が「執行猶予が付いたのだから、これで日本にいられる」と受け止められます。ご家族から「刑務所に入らずに済んだのだから、もう心配ない」と言われることもあるでしょう。しかし、入管法の仕組みの上では、そう単純ではありません。刑事裁判で執行猶予が付いたことと、日本に在留し続けられるかどうかは、別々の枠組みで決まるからです。この記事では、その理由を条文に沿って整理します。
執行猶予判決が出れば、強制送還されずに済むのですか
いいえ、そうとは限りません。執行猶予は刑事裁判の結論であって、入管法上の退去強制手続を止める効果はありません。不法残留は、入管法24条4号ロによって、それ自体が退去強制事由に当たるからです。刑事処分が執行猶予でも、罰金でも、不起訴でも、在留期間を経過して日本に残留しているという事実がある限り、入管の手続は別の線で進みます。
そもそも不法残留はどのような犯罪になるのですか
入管法70条1項5号の罪です。同号は、在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間(20条6項の規定により本邦に在留することができる期間を含む。)を経過して本邦に残留する者、と定めています。法定刑は70条1項の柱書に定められ、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされています。オーバーステイは、手続を怠ったという行政上の問題にとどまらず、刑事罰の対象となる犯罪です。執行猶予付きの判決は、この70条1項5号の罪に対する処分にほかなりません。
なぜ執行猶予でも退去強制手続が進むのですか
入管法24条4号ロが、有罪判決を要件としていないからです。同号は、在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者、と定めるだけで、刑事裁判の結果には触れていません。該当性を決めるのは、残留しているという事実そのものです。したがって、刑事処分が軽くなっても、刑事処分が全く行われなくても、24条4号ロへの該当性は消えません。刑事手続と退去強制手続は、同じ事実を出発点としながら、別の目的・別の要件で動く二本の線だとお考えください。
入管法24条4号リの「1年を超える拘禁刑」とは、どういう意味ですか
24条4号リは、ニからチまでに掲げる者のほか、昭和26年11月1日以後に無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とする規定です。そのただし書は、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者、及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であってその刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間が1年以下のものを除く、としています。ですから、不法残留で1年6月・執行猶予3年といった全部執行猶予の判決を受けた場合、4号リには該当しません。ここだけを見れば安心できそうです。しかし、その方はもともと24条4号ロに該当しています。4号リは、適法に在留している方が重い罪で実刑になった場合などに新たな退去強制事由を生じさせる規定であって、不法残留の方について4号ロの該当性を打ち消すものではありません。「執行猶予だから大丈夫」という誤解は、この二つの条文の役割を取り違えることから生まれます。
なお、他の罪が重なっている場合はより厳しくなります。24条4号チは、薬物関係法令違反による有罪判決を受けた者を退去強制事由とし、罰金でも執行猶予でも該当します。また、出国命令の要件を定める24条の3の第3号は、住居侵入、通貨偽造・文書偽造、窃盗強盗、詐欺恐喝、傷害、逮捕監禁等の一定の罪により拘禁刑に処せられたものでないことを求めていますが、この第3号には4号リのような執行猶予の除外規定が置かれていません。
それでは、執行猶予判決に意味はないのですか
大いにあります。意味が現れるのは、退去強制事由の段階ではなく、在留特別許可の段階です。入管法50条1項ただし書は、無期若しくは1年を超える拘禁刑に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者、及び一部猶予で実刑部分が1年以下の者を除く)等については、本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る、という加重要件を課しています。全部執行猶予であれば、この加重要件はかかりません。加えて、不法残留(24条4号ロ)のみの事案は、そもそもこのただし書の対象とされていません。逆に、実刑1年超になると一気に加重要件の世界に入ります。刑事処分を執行猶予・罰金・不起訴の範囲にとどめる活動は、在留特別許可を求める土俵そのものを確保するという意味を持つのです。不起訴になった場合も、24条4号ロは有罪判決を要件としませんから退去強制手続は進みますが、50条5項が考慮事情に挙げる素行の評価では有利に働き得ます。刑事で得た良い結果は、入管手続で使うために獲得するのだ、という発想が大切です。
判決が出た後でも、在留特別許可を求められますか
段階によります。入管法50条2項は、在留特別許可の申請は、収容令書により収容された外国人又は監理措置決定を受けた外国人が、法務省令で定める手続により法務大臣に対して行う、と定めています。申請権は収容令書による収容か監理措置決定を受けて初めて生じ、それ以前は職権の発動を求める活動になります。また50条4項により、在留特別許可は、47条3項の認定・48条8項の判定に服し、又は法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決した後でなければすることができません。そして50条3項は、退去強制令書が発付された後は申請することができないと定めています。退令が出れば、以後は取消訴訟や執行停止の申立てという司法救済の領域に移ります。なお、在留特別許可をしない処分をするときは、速やかに理由を付した書面をもって知らせなければならないとされており(50条10項)、示された理由は次の一手を考える手がかりになります。
摘発される前に、自ら動くことの意味
執行猶予判決というゴールから逆算すると、その前にどの入口を通ったかが結論を大きく分けていたことが見えてきます。入管法24条の3の出国命令制度は、5つの要件をすべて満たす方に用意された、収容を前提としない出口です。その第1号イは、27条の規定による違反調査の開始前に、速やかに本邦から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭した者を指し、第1号ロは、違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に出国の意思を表明した者を指します。この分岐が、次に日本へ来られる日を変えます。出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は、5条1項9号ホにより出国した日から1年です。これに対し、第1号ロに該当する方が出国命令で出国し、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合は、5条1項9号ヘにより5年となります。出国命令の要件を欠いて退去強制となれば5条1項9号ハにより5年、既に退去強制歴・出国命令歴があれば5条1項9号ニにより10年です。24条4号オからヨまでに該当して退去強制された場合は、5条1項10号により期間の定めがありません。在留特別許可に係るガイドライン(令和6年3月改定、令和6年6月10日施行)も、不法滞在を申告するため自ら地方出入国在留管理官署に出頭したことを積極要素として明記する一方、不法滞在の長期化は消極要素として評価するとしています。刑事裁判の判決を待つ姿勢では、これらの選択肢が既に手の届かない位置にあることが少なくありません。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号59077、2019年登録)が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行を行いません。執行猶予が付くかという刑事の見通しと、在留特別許可を求められるかという入管の見通しは、同じ事実から同時に立ち上がります。一人の弁護士が両方を見通して設計することに意味があるのは、このためです。
解決事例をご紹介します。観光目的で来日された相談者が、日本人女性との間にお子さんを授かったものの在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案がありました。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされましたが、憲法的観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析した結果、1回の手続で在留特別許可を得ることができました。
もう一件は、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。退去強制事由には故意・過失が不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
体制として、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べや入管の事情聴取では、わずかな言葉の選び方が調書の意味を変えてしまいます。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更等については、提携の行政書士とワンストップで対応します。初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。
まとめ
執行猶予判決は刑事の場面では大きな意味を持ちますが、それだけで日本に居続けられることを意味しません。24条4号ロによる退去強制手続は別に進み、勝負の場は在留特別許可へ移ります。他方で、執行猶予にとどめたことは50条1項ただし書の加重要件を回避するという確かな価値を持ちます。判決を待つのではなく、判決の意味を入管手続でどう使うかを、初動から設計してください。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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