起訴猶予・略式罰金・公判請求|不法残留事件で検察官が選ぶ3つの道
2026/08/27
在留期限を過ぎたまま日本で暮らしていて、ある日、警察官や入国警備官から事情を聴かれた。あるいは、ご家族が突然そのような状況になった。取調べの場で「検察官に送る」「検察庁で処分が決まる」と言われても、その処分がどのようなもので、その後の在留にどう跳ね返るのかまでは、ほとんど説明されないまま時間だけが過ぎていきます。
不法残留(オーバーステイ)の事件で、検察官が選ぶ道は大きく三つです。不起訴(多くは起訴猶予)、略式手続による罰金、そして公判請求(正式裁判)です。この記事では、その三つがどう違い、それぞれが「日本での在留を続けられるかどうか」にどう影響するのかを、入管法の条文に沿って整理します。
不法残留事件で検察官が選ぶ「3つの道」とは何ですか
不起訴(多くは起訴猶予)、略式手続による罰金、公判請求(正式裁判)の三つです。どれになるかは、検察官が事案ごとに判断します。
前提として、オーバーステイは行政上の問題にとどまりません。入管法70条1項5号は、「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間(20条6項の規定により本邦に在留することができる期間を含む。)を経過して本邦に残留する者」を処罰の対象としています。法定刑は同項柱書により3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。つまり、犯罪として刑事手続の対象になります。
法定刑に拘禁刑と罰金の両方が定められているため、検察官の手元には次の選択肢が並びます。
- 不起訴(起訴猶予)…犯罪の成立自体は認められるものの、諸事情を考慮して起訴しない処分です。裁判は開かれず、前科も付きません。
- 略式手続による罰金…公開の法廷を開かず、簡易裁判所が書面審理で罰金を科す手続です。罰金前科が残ります。
- 公判請求(正式裁判)…公開の法廷で審理され、判決で罰金、執行猶予付きの拘禁刑、または実刑が言い渡されます。
そして、この三つのどれになっても、退去強制手続はそれとは別に進みます。ここが、多くの方が最初に誤解される点です。
起訴猶予(不起訴)になれば、そのまま日本にいられますか
いいえ。不起訴になっても、日本での在留を続けられることが決まるわけではありません。刑事処分と在留の可否は、別の法律・別の手続で判断されます。
入管法24条4号ロは、「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者」を退去強制事由としています。この条文は、刑事処分の結果を条件にしていません。起訴されなかったとしても、在留期間を過ぎて日本にいるという事実がある以上、24条4号ロには当たり続けます。
ですから、刑事事件が不起訴で終わっても、その後に違反調査(27条以下)、収容令書(39条)または監理措置決定(44条の2第7項)、入国審査官の違反審査(45条以下)と認定(47条3項)、口頭審理の請求(48条)、法務大臣への異議の申出(49条)という退去強制手続が続きます。「不起訴になったから安心してよい」という説明は、正確ではありません。
略式手続による罰金とは、どのような手続ですか
公開の法廷を開かず、書類だけで簡易裁判所が罰金を言い渡す手続です。本人が内容を理解し、異議がないことを書面で示すことが前提になります。
短期間で終わりますが、罰金は刑罰であり、前科として記録に残ります。この点で不起訴とは大きく異なります。なお、略式手続で科すことのできる罰金額には法律上の上限があり、それを超える罰金が必要な事案では正式な裁判によることになります。
在留との関係では、次の整理が重要です。入管法24条4号リは、「ニからチまでに掲げる者のほか、昭和26年11月1日以後に無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由としています(全部執行猶予の言渡しを受けた者、および一部猶予で実刑部分が1年以下の者は除かれます)。罰金は拘禁刑ではありませんから、4号リには当たりません。しかし、24条4号ロにより、もともと退去強制事由に該当しています。
公判請求されると、どのような判決になりますか
公開の法廷で審理され、罰金、執行猶予付きの拘禁刑、または実刑のいずれかが言い渡されます。そして、実刑が1年を超えるかどうかで、その後の入管手続の見通しが大きく変わります。
まず、執行猶予付きの判決の場合です。たとえば「拘禁刑1年6月、執行猶予3年」といった判決であれば、24条4号リのただし書により、同号には該当しません。しかし、24条4号ロによって、もともと退去強制事由に該当しています。「執行猶予が付いたから日本にいられる」という理解は誤りです。
次に、実刑で刑期が1年を超えた場合です。ここでは二つの重い効果が生じます。
- 入管法50条1項ただし書により、在留特別許可は「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る」という加重要件の対象になります。
- 24条4号リに該当するため、入管法24条の3第2号の要件(24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないこと)を欠き、出国命令制度を利用できなくなります。
逆に言えば、不法残留(24条4号ロ)だけの事案であれば、50条1項ただし書の加重要件はかかりません。在留特別許可を求めるうえで、見落としてはならない有利な事情です。
どの処分になるかは、何によって決まりますか
法定刑は滞在期間の長さで変わりません。変わるのは、検察官の処分選択と、量刑の幅です。
実務上、オーバーステイの期間の長さは、違法な状態を継続させた期間として、処分の重さに直結する中心的な要素とされています。期間が比較的短く、自ら出入国在留管理官署に出頭し、住まいや家族関係といった生活基盤が明確な事案ほど軽い処分に向かいやすく、期間が長期に及び、不法就労を伴い、偽造文書の使用など別の違反が重なる事案ほど重い処分に向かいやすい、という傾向があります。
もっとも、これは傾向にすぎず、事案によって幅があります。同じ「数年に及ぶオーバーステイ」でも、経緯、家族関係、素行、再発防止の体制によって結論は変わります。具体的な年数や割合を挙げて見通しを断定する説明には、慎重であるべきです。
刑事処分が軽ければ、在留特別許可も認められますか
直結はしません。刑事処分の軽重と、在留を続けられるかどうかは別問題です。ただし、両者が完全に切り離されているわけでもありません。
在留特別許可は入管法50条に定められています。1項柱書は、退去強制対象者に該当する場合であっても、各号のいずれかに該当するときは、当該外国人からの申請により又は職権で、在留を特別に許可することができると定めます。オーバーステイの事案の多くは、5号(その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき)で検討されます。
手続面では、申請できる時期が限られています。50条2項により、申請は収容令書により収容された外国人または監理措置決定を受けた外国人が行うため、申請権はその段階で初めて生じ、それ以前は職権の発動を求める活動になります。そして50条3項により、退去強制令書が発付された後は申請できません。以後は取消訴訟や執行停止の申立てという司法救済の領域です。判断の時点も、47条3項の認定・48条8項の判定に服し、または異議に理由がないと裁決された後とされています(50条4項)。考慮事情は50条5項に法定されており、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国することとなった経緯、在留期間とその間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性のほか、内外の諸情勢および本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情が挙げられています。許可しない処分をするときは、速やかに理由を付した書面で知らせなければなりません(50条10項)。
ここに刑事手続との接点があります。50条5項の「素行」には刑事処分の内容が反映され得ますし、実刑1年超になれば50条1項ただし書の加重要件がかかります。だからこそ、刑事処分を軽くする活動と、在留特別許可を求める活動は、初動から一体で設計しなければなりません。刑事事件が終わってから入管のことを考え始めるのでは、使えたはずの資料や主張を積み残すことになりかねません。
摘発される前に、自ら動くことに意味はありますか
あります。とくに、いったん帰国して将来の再入国を目指す道を検討する場合、自ら出頭したかどうかで法律上の効果がはっきり分かれます。
入管法24条の3の出国命令制度は、収容を前提としない手続です。対象は24条2号の4、4号ロ、6号から7号までのいずれかに該当する外国人で、五つの要件をすべて満たす場合に限られます。1号イ(27条の違反調査の開始前に、速やかに出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したこと)または1号ロ(違反調査の開始後、47条3項の通知を受ける前に、入国審査官または入国警備官に速やかに出国する意思がある旨を表明したこと)に当たること、2号(24条3号から3号の5まで、4号ハからヨまで、8号・9号のいずれにも該当しないこと)、3号(入国後に住居侵入・偽造・賭博・殺人・傷害・窃盗強盗・詐欺恐喝など条文に列挙された一定の罪により拘禁刑に処せられていないこと)、4号(過去に退去強制されたことも、出国命令により出国したこともないこと)、5号(速やかに出国することが確実と見込まれること)です。出国命令が出ると、主任審査官は速やかに出国を命じ、55条の85第1項により15日を超えない範囲内で出国期限が定められます。
差が最も明確に表れるのが、次の上陸拒否期間です(入管法5条1項9号)。
- 出国命令により出国した者…9号ホ/出国した日から1年
- 24条の3第1号ロに該当する者(違反調査の開始後に出国意思を表明した者)が出国命令で出国し、その後に短期滞在の活動を行おうとする場合…9号ヘ/出国した日から5年
- 退去強制された者で、それ以前に退去強制歴・出国命令歴のないもの…9号ハ/退去の日から5年
- 退去強制された者で、既に退去強制歴・出国命令歴のあるもの…9号ニ/退去の日から10年
違反調査が始まる前に自ら出頭すれば24条の3第1号イとなり、出国命令で出国した場合の上陸拒否期間は1年です。調査が始まってから出国意思を表明した場合(同号ロ)は、その後に短期滞在で来日しようとすると5年になります。摘発によって2号・3号・4号の要件を欠けば、そもそも出国命令が使えず、退去強制として5年(9号ハ)または10年(9号ニ)です。なお、24条4号オからヨまでに該当して退去強制された場合は、5条1項10号により期間の定めがありません。
在留を希望される場合にも、自ら出頭した事実は意味を持ちます。令和6年3月改定・令和6年6月10日施行の在留特別許可に係るガイドラインは、在留特別許可を「本邦からの退去を強制されるべき外国人に対して例外的・恩恵的に行われる措置」と位置づけたうえで、「当該外国人が、不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を積極要素として考慮すると明記しています。他方、不法滞在の長期化は消極要素として評価されます。待っている間に、時間は不利な方向へ働きます。
ただし、出国命令は帰国を前提とする制度です。日本での生活を続けたいのか、いったん帰国して正規の在留資格での再来日を目指すのか。この方針の選択自体が、初動で最も重要な判断になります。出頭の前に方針を定めておく必要があります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士は、第一東京弁護士会所属(登録番号59077・2019年登録)です。
体制の特徴は三つあります。第一に、最初の接見から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。第二に、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。第三に、刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士とワンストップで対応します。
参考として、本テーマに近い解決事例を二件ご紹介します。
- 難関な在留特別許可を一度の手続で獲得した事例…観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻・認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、憲法的な観点から交渉してこれを実現し、国籍国発行の公的書類がほとんどない状況でも有利な証拠を集め、過去の許可事例を分析したうえで、一回の手続で在留特別許可を得ています。
- 不法就労助長で強制退去の危機にあった女性の救済…冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りいたします。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご相談もお受けしています。
おわりに
不起訴、略式罰金、公判請求。どの処分になるかは重要ですが、そのいずれであっても、24条4号ロによる退去強制手続は別に進みます。逆に、実刑が1年を超えれば、50条1項ただし書と24条の3第2号という二つの壁が立ちはだかります。だからこそ、刑事の見通しと入管の見通しは、最初の段階で同時に立てる必要があります。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ご紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
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