中国人の特殊詐欺事件|受け子・出し子・回収役の役割別に見る処分の分かれ目と在留への影響
2026/09/05
特殊詐欺は、一つの事件に多くの人が関与し、役割が細かく分かれています。現金を受け取りに行った方と、資金を回収して上位へ渡した方とでは扱いが大きく異なります。中国籍の方の場合、有罪判決が在留資格に及ぼす影響も加わります。本稿では役割ごとの罪名と防御の要点、在留への帰結を整理します。
本記事の要点
- 受け子は詐欺罪、ATMからの引出しを担う出し子は金融機関に対する窃盗罪として扱われるのが通例です。
- 最大の争点は、詐欺であることの認識、すなわち未必の故意と共謀の有無です。
- 詐欺、窃盗、盗品等に関する罪はいずれも入管法24条4号の2の列挙罪であり、別表第一の在留資格の方は執行猶予でも退去強制事由に該当します。
- 令和6年の特殊詐欺の被害額は約721億5,000万円で、3年連続の増加となりました。
- 報道からは量刑の相場を語れないため、本稿では罪名と手続の構造に絞って説明します。
特殊詐欺ではどのような役割分担がされていますか
組織は役割ごとに分断され、末端の関与者は全体像を知らされないのが通常です。この分断そのものが、故意や共謀を争う際の出発点になります。
| 役割 | 実際の行為 | 問題となる主な罪名 |
|---|---|---|
| かけ子 | 被害者に電話をかけ、警察官や銀行員等を装う | 詐欺(刑法246条)、未遂(同法250条) |
| 受け子 | 被害者から現金やカードを直接受け取る | 詐欺、詐欺未遂、窃盗 |
| 出し子 | 他人名義のカードでATMから現金を引き出す | 窃盗(同法235条)、電子計算機使用詐欺(同法246条の2) |
| 回収役 | 受け子や出し子から現金を集め、上位へ渡す | 詐欺の共同正犯、盗品等に関する罪、組織的犯罪処罰法違反 |
| リクルーター・指示役 | 実行役を募集し、指示を伝達する | 詐欺の共同正犯。組織性が認められれば法定刑が加重される |
| 資金の移転を担う者 | 口座間の移転、暗号資産への交換、国外への送金 | 組織的犯罪処罰法10条・11条、銀行法違反 |
報道されている事件を見る限り、中国籍の方が「かけ子」本体として立件された例は確認できませんでした。日本語での応対を要するかけ子は日本人が担い、中国籍の方は資金の回収や移転、あるいは上位の指示側に配置される、という分担が読み取れます。2026年1月8日の時事通信ほかの報道によれば、カンボジアを拠点として日本人のかけ子と共謀し700万円を詐取したとして、中国籍の夫婦が起訴され、初公判で起訴内容を認めたと報じられています。
受け子と出し子は、なぜ罪名が違うのですか
被害者が誰かが違うからです。受け子は、だまされた被害者から直接現金を受け取るため、詐欺罪の共同正犯として扱われます。これに対し出し子は、他人名義のカードでATMから現金を引き出すため、金融機関の占有を侵害したものとして窃盗罪になります。
この区別は実務上重要です。例えば2026年6月10日のKSB瀬戸内海放送の報道によれば、他人名義のカードでコンビニのATMから19万9,000円を引き出したとして、中国籍の男性が窃盗の疑いで逮捕されたと報じられています。逮捕は有罪が確定したことを意味するものではありません。一般論として、被害額が比較的小さく、被害の回復が可能な事案では、起訴猶予や略式命令による罰金という処分の余地が残ります。他方、2025年1月9日の神奈川新聞の報道によれば、他人名義のキャッシュカードを用いた約2,000万円の不正送金について、中国籍の男性が電子計算機使用詐欺の疑いで再逮捕されたと報じられており、規模が大きい事案では扱いが全く異なります。
また、被害者に現金を渡す直前で警察が介入する、いわゆるだまされたふり作戦による現行犯逮捕も少なくありません。2026年6月9日の長野放送の報道によれば、高齢女性宅の玄関先で中国籍の女性が詐欺未遂の疑いで逮捕されたと報じられています。現金を受け取っていなくても未遂として立件されます。
「知らなかった」という説明は通りますか
争えないわけではありませんが、簡単ではありません。最高裁平成29年12月11日決定は、途中から関与した受け子にも詐欺未遂の共同正犯の成立を認めており、実務はこの枠組みで動いています。争点は、依頼を受けた時点で詐欺であるかもしれないと認識していたか、すなわち未必の故意です。
検察官が故意を推認する材料として挙げるのは、募集の経路(通信アプリでの匿名の求人など)、報酬の高さと労働内容の不均衡、指示の秘匿性(身分を隠す、私物の携帯電話を使わない、報告先が匿名である等)、そして受け渡しの方法の不自然さです。弁護側は、これらの事情がどこまで当時のご本人に認識されていたかを、通信記録や報酬の実額といった客観的資料に照らして検証していきます。
実際に、資金の移転が問題となった事件で、嫌疑不十分による不起訴が出た例もあります。2026年1月29日にライブドアニュースに掲載された報道によれば、投資名目の詐欺被害金約8,000万円を複数の口座に移転したとして5人が逮捕され、うち3人が嫌疑不十分で不起訴になったと報じられています。資金が動いた事実が裏付けられても、それが犯罪による収益であるという認識と共謀が立証できなければ、起訴には至らないということです。
役割によって処分はどのように変わりますか
末端の実行役と、資金や人を差配する側とでは、扱いが明確に異なります。もっとも、報道は判決までを追わないことが多く、量刑の相場を報道から語ることはできません。ここでは構造だけを述べます。
組織的な詐欺と認定されれば、組織的犯罪処罰法3条1項により法定刑が加重されます。また、詐取金を貴金属や暗号資産に換えるなどした場合には犯罪収益等隠匿(同法10条)が、詐取金と知って受け取った場合には犯罪収益等収受(同法11条)が問題となります。収受罪は「情を知って」が要件であるため、隠匿罪よりも故意の立証のハードルが高く、単に現金の運搬を頼まれたという認識にとどまる場合には争う余地があります。
令和6年の特殊詐欺は、認知件数20,987件、被害額約721億5,000万円で、3年連続の増加となりました。検挙人員は2,320人ですが、中枢被疑者は58人、全体の2.5%にすぎません(警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢」)。摘発は末端に集中しており、末端の関与者が組織全体の被害額の責任を問われかねない構造にあります。ご本人が現実に関与した範囲を証拠に基づいて画定することが、弁護活動の中心になります。
有罪になると在留資格はどうなりますか
特殊詐欺で問題となる詐欺、窃盗、盗品等に関する罪は、いずれも入管法24条4号の2の列挙罪です。したがって、別表第一の在留資格の方は、執行猶予付き判決であっても退去強制事由に該当します。
| 刑の種類 | 別表第一(留学・技術・人文知識・国際業務・家族滞在等) | 別表第二(永住者・定住者・日本人の配偶者等) |
|---|---|---|
| 不起訴 | 該当しない | 該当しない |
| 罰金(窃盗の場合) | 該当しない(更新の審査では不利) | 該当しない |
| 拘禁刑・全部執行猶予 | 該当する(4号の2) | 該当しない |
| 実刑・1年以下 | 該当する(4号の2) | 該当しない |
| 実刑・1年を超える | 該当する(4号リ・4号の2) | 該当する(4号リ) |
ここが、執行猶予判決を目標に据えられない理由です。留学や就労の在留資格の方にとって、執行猶予付き判決は刑事手続上の一応の解決であっても、在留の場面では退去強制手続の入口にほかなりません。組織的詐欺として実刑が見込まれる事案では、別表第二の方や永住者の方も4号リの対象になります。刑の種類ごとの整理は退去強制・在留特別許可・監理措置のページをご覧ください。
留学生が受け子になってしまった場合はどうなりますか
在留への影響が最も重く現れる類型です。留学の在留資格は学校に在籍して学ぶという活動を根拠とするため、退学になれば活動の実体が失われ、刑事処分の結果とは別に在留資格の取消し(入管法22条の4)が問題になり得ます。
令和7年の在留資格取消件数は1,446件で過去最高となり、そのうち留学が23.7%を占めます(出入国在留管理庁)。加えて、詐欺で拘禁刑に処せられれば執行猶予でも4号の2に該当します。刑事と学籍と在留の三つが同時に動くため、学校への対応を含めて早期に方針を決める必要があります。ご本人が受け取った報酬は被害額に比べてごく僅かであることが多く、その落差を客観的に示すことは役割の限定を裏付ける事情になります。
ご家族には何ができますか
資金の準備と資料の収集、そして早い段階での方針決定です。特殊詐欺は共犯事件であるため接見等禁止決定が付くことが多く、ご家族がご本人と連絡を取れないまま日数が過ぎます。令和6年中の来日外国人の刑法犯の共犯事件率は41.1%で、日本人の12.5%の約3.3倍です(警察庁)。
被害弁償の資金を中国本土から送る場合、外貨管理上の手続に日数を要します。処分は逮捕から23日以内に決まるため、着手の遅れがそのまま結果に影響します。なお、送金の経路には注意が必要で、無許可で為替取引を反復すれば銀行法違反となり得ます。正規の金融機関を用いてください。
当事務所は、松村大介弁護士本人が初回接見から入管手続まで一貫して担当し、外国人事件専属の中国語通訳が同席します。中国本土のご家族とは微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接やり取りしています。詐欺事件の取扱いは詐欺・特殊詐欺、ご相談の流れは中国人の刑事事件・在留のご相談のページをご覧ください。
よくある質問
報酬を受け取っていなくても罪になりますか
なります。報酬の有無は故意や関与の程度を判断する事情の一つではありますが、犯罪の成立要件ではありません。現金を受け取る前に検挙された場合も、詐欺未遂として立件されます。
口座やカードを渡しただけでも罪になりますか
問題になります。預貯金通帳やキャッシュカードの譲渡は犯罪収益移転防止法に触れ得るほか、その口座が詐欺に使われた場合には詐欺の幇助や共同正犯が問題となることがあります。令和7年中の同法違反の検挙件数は4,699件でした(警察庁)。
被害額が大きいと示談はできませんか
全額の弁償が難しくても、できる範囲で弁償の意思と資力を示す意味はあります。複数の被害者がいる場合は、ご本人が現に関与した被害についてのみ交渉するのが通例です。
帰国して中国で処罰されることはありますか
中国の刑法には国外犯に関する規定があり、外国で刑事処罰を受けた場合の扱いについても定めがあります。実際に追及されるかどうかは中国の司法機関の判断であり、当事務所は中国法についての法的意見は述べません。中国の弁護士にご確認ください。
不起訴になれば在留は維持できますか
有罪判決が存在しないため、4号の2にも4号リにも該当しません。ただし在留期間の更新の審査では事件の経緯が考慮され得ますし、退学や失職により在留資格の基礎が失われていれば、別途対応が必要になります。中国語での説明は中文页面をご覧ください。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。引用した報道事例は、いずれも報道された事実の範囲によるもので、有罪が確定したことを示すものではありません。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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