日本で家族が逮捕されたとき、中国のご家族にできること
2026/09/05
日本にいる息子と急に連絡が取れなくなった、勤務先から警察に連れて行かれたらしい。当事務所には、中国本国のご家族からの微信でのお問い合わせのほか、日本にいるご親族、勤務先、学校からのご相談も多く寄せられます。国境を挟んだ状況では、できることとできないことの線引きを最初に共有しておくことが、限られた時間を無駄にしない方法です。
本記事の要点
- 逮捕から起訴・不起訴の判断までは最長でおよそ23日間です。この間に動けるかどうかが結果を左右します。
- 捜査機関がご家族に連絡する義務はありません。接見等禁止決定が出ると、弁護人以外は面会も手紙のやり取りもできなくなります。
- 中国のご家族が情報を得られる経路は、弁護人と、ウィーン領事関係条約に基づく領事面会の二つです。
- 弁護士費用や被害弁償金の送金は、正規の銀行経路で行ってください。いわゆる地下銀行を用いれば、日本側で別の刑事事件を生みます。
- ご家族の来日は、身元引受けや保釈の場面で意味を持ちますが、接見等禁止決定が出ていれば面会はできません。渡航の時期は弁護人と相談して決めるのが確実です。
中国のご家族は、まず何を確認すればよいですか
確認すべきは三点です。どこの警察署にいるか、どのような容疑か、そして弁護人が付いているかどうかです。この三点が分かれば、弁護士は具体的に動き出せます。
収容先は、ご本人の友人、同僚、勤務先、学校から分かることが多いものです。警察署の名称とご本人の氏名、生年月日が分かれば、弁護士が照会して状況を確認できます。日本には当番弁護士と国選弁護の制度がありますが、当番弁護士の接見は原則一回限り、国選弁護人は勾留が決まってから選任されます。逮捕直後から継続して動く弁護人が必要であれば、私選での選任が必要になります。
日本の刑事手続には明確な期限があります。逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、検察官は24時間以内に裁判官へ勾留を請求します。勾留は原則10日、延長でさらに最長10日です。起訴されるまでは保釈の制度がありません。中国の取保候審のような手続を期待して待っていると、身柄が解かれないまま起訴の日を迎えます。
連絡はどうすれば取れますか
ご本人と直接連絡を取ることは、原則としてできません。共犯者がいる事件や否認している事件では、勾留と同時に刑事訴訟法81条の接見等禁止決定が出ることが多く、弁護人以外は面会も書類の授受もできなくなります。中国のご家族に連絡が来ない理由の多くは、これです。
弁護人はこの決定の対象外です。刑事訴訟法39条1項により、弁護人はいつでも立会人なしに面会でき、その内容が捜査機関に伝わることもありません。ご家族の状況、勤務先の意向、身元引受けの意思といった外の情報をご本人に届け、ご本人の様子をご家族に伝える経路は、この時期には弁護人だけです。
もう一つの経路が領事面会です。ウィーン領事関係条約36条により、ご本人は本国の領事機関への通報を求めることができ、領事官は面会できます。ただし領事官が弁護活動を行うことはできません。当事務所では微信(WeChat ID:matsumura1119)で、中国本国のご家族に接見の結果を随時お伝えしています。時差を挟んでも当日中にやり取りできることが、この局面では大きな意味を持ちます。
弁護士費用や弁償金はどう送金すればよいですか
正規の銀行送金を用いてください。中国から日本へ送金する場合、中国側の外国為替管理の枠と、日本側の銀行の確認手続の双方に時間を要します。数営業日はかかりますので、被害弁償が必要な事件では勾留期間から逆算して早めに着手する必要があります。送金枠や必要書類は銀行によって扱いが異なるため、取引銀行にご確認ください。
避けていただきたいのが、いわゆる地下銀行を使う方法です。日本国内で日本円を受け取り、中国国内で人民元を渡す仕組みは、日本の銀行法にいう為替取引を無免許で行うものとして処罰の対象になります。手数料が安く早いという理由で使われがちですが、送金経路の記録が残らないため、示談金の原資を説明できなくなる不利益も生じます。ご家族を助けようとした送金が、ご家族自身の刑事事件になりかねません。この点は詐欺・特殊詐欺のページでも触れています。
起訴された後は保釈を請求できます。保釈が許可されると保証金の納付が必要になり、金額は事案によりますが、現金で裁判所に納めます。国外からの送金には日数がかかるため、起訴の見込みが立った段階で準備を始めるのが現実的です。保証金の立替えを行う民間の制度もありますので、弁護人にご相談ください。
面会と差入れはできますか
接見等禁止決定が出ていなければ、ご家族も面会できます。出ていれば、弁護人以外は面会できません。まずこの決定の有無を弁護人に確認することが出発点になります。
| 立場 | 面会の可否 | 留意点 |
|---|---|---|
| 弁護人 | いつでも可能。立会人なし | 接見等禁止決定の対象外(刑事訴訟法39条1項) |
| ご家族・友人 | 禁止決定がなければ可能 | 一般に平日の日中、1日1回、時間は短く、職員の立会いがある |
| 領事官 | 可能 | ウィーン領事関係条約36条。弁護活動はできない |
| 差入れ | 禁止決定がなければ可能 | 現金、衣類、書籍等。糧食の授受は禁止の対象外とされている |
面会は、施設によっては日本語以外での会話が制限されたり、通訳の同席を求められたりします。事前に弁護人を通じて確認しておけば、遠方から出向いて面会できないという事態を避けられます。また、事件について具体的な話をすることは避けてください。立会いのある面会での発言は捜査の資料になり得ますし、内容によっては罪証隠滅を疑われます。
通訳は誰が手配しますか
捜査段階の通訳人は捜査機関が、公判の法廷通訳人は裁判所が手配します。ご家族が選ぶことはできません。法務省の令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の被告人通訳事件の通常第一審終局人員は4,649人で、通訳言語は41言語に及び、中国語は726人と全体の15.6%を占めます。通訳を要する事件は例外ではありません。
問題は質です。中国語で述べた内容がそのまま日本語の調書になるとは限らず、署名した調書を後から覆すことは容易ではありません。当事務所は外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行し、ご本人の説明と調書の内容が食い違っていないかを確認します。ご家族から見えにくい部分ですが、結論を左右する作業です。
ご家族が日本に来る場合、何に注意すればよいですか
渡航そのものは、身元引受けや保釈の場面で意味を持ちます。他方、接見等禁止決定が出ていれば来日しても面会はできませんので、渡航の時期は弁護人と相談してから決めてください。
上陸審査では渡航の目的を正確に申告してください。虚偽の申告は、それ自体が後の入国に影響します。持参していただきたいのは、身分関係を示す資料、就労や収入の状況を示す資料、身元引受けの意思を記した書面です。中国語の書面は日本語訳を添えれば裁判所や入管に提出できます。ご家族の陳述書は、保釈の判断でも在留特別許可の場面でも実際に用いる資料です。
被害者の方への謝罪に直接出向くことは、避けてください。連絡先は弁護人にのみ開示されることが通常であり、直接の接触は罪証隠滅と評価されて、身柄の判断に直接影響します。謝罪の意思は、弁護人を通じてお伝えします。
判決の後はどうなりますか
執行猶予付きの判決であれば、その日のうちに身柄は解かれます。ただし在留資格の問題はそこから始まります。入管法24条4号の2により、別表第一の在留資格の方が窃盗、詐欺、傷害、住居侵入等の列挙された章の罪で拘禁刑に処せられた場合は、執行猶予付きでも退去強制事由に該当します。薬物事件は4号チにより有罪判決を受けたこと自体で該当し、罰金でも執行猶予でも、永住者であっても対象です。刑事事件が終わったからといって、日本での生活が続くとは限りません。
実刑判決の場合は服役し、刑の執行が終わった後に入管手続へ移ります。収容によらず手続を進める監理措置の制度もあり、ご家族や知人が監理人となる例が多くを占めます。詳しくは退去強制・在留特別許可・監理措置のページをご覧ください。
当事務所はどのように対応しますか
当事務所は執行猶予判決ではなく、起訴前の不起訴処分の獲得を最優先の目標に据えています。刑事弁護と入管手続をひとつの事件として扱い、逮捕直後の接見から在留手続まで松村弁護士本人が一貫して対応します。外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行し、微信で中国本国のご家族と直接やり取りしながら、必要な資料の準備を進めます。ご相談の窓口は中国人の刑事事件・在留のご相談、よくあるご質問は外国人刑事・在留Q&Aにまとめています。本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。
よくある質問
逮捕から何日で家族に連絡が来ますか
何時間以内に家族へ連絡しなければならないという規定はありません。ご本人が本国の領事機関への通報を求めることはできますが、ご家族への連絡は制度として保障されていません。最も早く確実な経路は、弁護人を選任してご本人と面会してもらうことです。
中国にいる家族が、日本の弁護士に依頼できますか
できます。ご本人が身柄拘束中の場合、ご家族が費用の手配を含めて依頼を進め、弁護人が接見してご本人の委任の意思を確認する形をとります。当事務所は微信でご家族とやり取りしながら進めており、来日が難しいご家族からのご依頼も受けています。
差入れたお金は、どのように使われますか
留置施設内での日用品の購入等に充てられます。差入れの方法や上限は施設ごとに扱いが異なるため、事前に弁護人を通じて確認してください。なお、接見等禁止決定が出ている場合には、原則として金品の差入れもできません。
日本で判決を受けたら、中国でも処罰されますか
中国刑法7条は、中国公民が国外で犯した罪について中国刑法を適用し得る旨を定め、同法10条は、外国で既に刑事処罰を受けた場合に処罰を免除し又は軽減することができる旨を定めています。実際に追及されるかどうかは中国の司法機関の判断です。中国法上の見通しについては、当事務所は意見を述べる立場になく、中国の弁護士にご確認ください。
服役中の家族に面会できますか
判決確定後に刑事施設で服役している場合、親族の面会は制度として認められています。回数や時間は施設の運用によります。中国からの渡航が必要になりますので、時期や必要な手続を事前に施設に確認してください。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119