不同意わいせつ・盗撮で逮捕されたら在留資格はどうなりますか|中国籍の方の性犯罪事件
2026/09/05
電車内で相手の身体に触れた、スマートフォンを向けたところを取り押さえられた。性犯罪の疑いで身柄を取られた中国籍の方とご家族からのご相談は、多くが同じ言葉で始まります。日本に住み続けられるのでしょうか、と。この分野は令和5年に刑法が大きく改められ、盗撮についても新しい法律ができました。古い解説を前提に見通しを立てると結論を誤ります。
本記事の要点
- 令和5年7月13日施行の改正刑法により、強制わいせつ罪・強制性交等罪は不同意わいせつ罪・不同意性交等罪に改められ、暴行・脅迫は要件ではなくなりました。
- 盗撮は同じ日に施行された性的姿態等撮影処罰法により、全国一律の国の法律で処罰されます。
- 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は入管法24条4号の2の列挙する章に含まれず、執行猶予付き判決だけでただちに退去強制事由に当たるわけではありません。
- 他方、住居や建物に立ち入って撮影した事案では、住居侵入罪の部分により4号の2に該当し得ます。
- 当事務所は起訴前の不起訴処分の獲得を最優先の目標に置き、刑事弁護と入管手続をひとつの事件として扱います。
令和5年の刑法改正で、わいせつ事件の何が変わりましたか
改正前の「暴行又は脅迫を用いて」という要件がなくなり、同意しない意思を形成し、表明し、又は全うすることが困難な状態にさせることが要件になりました。有形力がなかったことは、それだけでは無罪の理由になりません。
刑法176条1項は、その状態を生じさせる原因として八つの事由を列挙します。暴行・脅迫、心身の障害、アルコール又は薬物の影響、意識が明瞭でない状態、いとまがないこと、予想と異なる事態に直面しての恐怖・驚愕、虐待に起因する心理的反応、経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮していること、の八つです。不同意わいせつ罪は6月以上10年以下の拘禁刑、不同意性交等罪は5年以上の有期拘禁刑です。
相手が抵抗しなかった、その後も連絡を取り合っていたといった事情は、改正前なら暴行・脅迫の不存在として働く余地がありましたが、改正後は右の八事由に当たるかという問いに置き換わります。酒席の事案と職場の上下関係が背景にある事案で、その影響はとりわけ大きく現れます。公訴時効も延長され、不同意わいせつ罪は12年、不同意性交等罪は15年です。
盗撮は今どの法律で処罰されますか
性的な部位や下着等をひそかに撮影する行為は、性的姿態等撮影処罰法により処罰されます。同法2条の撮影罪は3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金です。撮影した画像を第三者に提供する行為や、不特定又は多数の人が見られる状態に置く行為には、同法上さらに重い類型が定められています。
従来、盗撮は各都道府県の迷惑防止条例で処罰され、同じ行為でも撮影した場所によって成否が分かれていました。令和5年に国の法律が設けられ、この不均衡は解消されています。示談の場面では、画像を消去し複製が残っていないことを客観的に示せるかどうかが、被害者の方の受け止めを大きく左右します。なお当事務所が確認した限り、中国籍の方が日本国内で盗撮により逮捕されたという報道は見当たらず、本項は制度の解説です。
示談ができれば不起訴になりますか
示談は不起訴に向けた最も重要な要素ですが、成立すれば必ず不起訴になるという関係ではありません。不同意わいせつ罪も撮影罪も親告罪ではないため、告訴が取り消されても検察官は起訴でき、示談は起訴猶予とすべき事情のひとつとして評価されるにとどまります。
それでも価値は大きいものです。法務省の令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人の被疑事件の起訴猶予率は48.35%で、およそ半数が起訴されずに終わっています。示談書には弁償額だけでなく、宥恕の意思、接触禁止、画像消去の確認といった条項を、被害者の方の意向に沿って組み立てます。連絡先が弁護人限りで開示されるのが通常であるため、ご家族が中国におられても、謝罪文の作成や弁償金の準備で果たせる役割はあります。外国人の不同意わいせつ・盗撮事件のページでも整理しています。
性犯罪で有罪になると在留資格はどうなりますか
刑の重さと在留資格の種類の組合せで結論が変わります。不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は刑法第2編第22章の罪であり、入管法24条4号の2が列挙する章には含まれません。同号は、別表第一の方が住居侵入、窃盗、詐欺、傷害、文書偽造等の列挙された章の罪により拘禁刑に処せられた場合を対象とするからです。他方、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑は24条4号リに該当し、別表第一・別表第二・永住者を問わず適用されます。同号には但書があり、全部執行猶予は除外されます。
| 罪名と刑 | 別表第一(留学・技術人文知識国際業務・家族滞在等) | 別表第二(永住者・日本人の配偶者等・定住者) |
|---|---|---|
| 撮影罪で罰金 | 退去強制事由に非該当。更新・変更の素行要件で不利 | 退去強制事由に非該当 |
| 撮影罪で拘禁刑・執行猶予付き | 4号の2の列挙外。更新は極めて困難 | 退去強制事由に非該当 |
| 住居侵入を伴う撮影で拘禁刑・執行猶予付き | 住居侵入の部分により4号の2に該当し得る | 4号の2の適用がなく非該当 |
| 不同意わいせつ罪で拘禁刑・執行猶予付き | 4号の2の列挙外。更新は極めて困難 | 退去強制事由に非該当 |
| 1年を超える実刑(罪名を問わない) | 4号リに該当 | 4号リに該当。定着性による在留特別許可の余地は相対的に大きい |
不同意性交等罪の法定刑の下限は5年、致傷が加われば6年であり、実刑となれば4号リの要件は当然に満たされます。報道によれば、令和8年5月に大分地裁が言い渡した中国籍の男性に対する判決は、拘禁刑5年6月の実刑、求刑は6年であったとTBS NEWS DIGが伝えています。前科がなく事実を認めていた点は考慮されたものの、求刑からの減軽は6月にとどまりました。
盗撮でも退去強制になることがありますか
あり得ます。住居、共同住宅の共用部分、更衣室のある施設等に立ち入って撮影した事案では、撮影罪と併せて住居侵入罪又は建造物侵入罪が問われます。住居を侵す罪は刑法第2編第12章であり、4号の2の列挙対象です。別表第一の方がこの類型で拘禁刑に処せられれば、執行猶予付きでも同号に該当し得ます。
撮影罪だけなら列挙外、住居侵入が加われば列挙内という差は、条文を読まなければ見えません。ここを見落とすと、執行猶予判決を得て安心したところで退去強制手続が始まります。立入りの態様を争えるか、管理権者の承諾の範囲をどう見るかは、起訴前から検討すべき論点です。枠組みは外国人の刑事事件と在留のページで整理しています。退去強制事由に当たらない場合でも、更新・変更の審査では素行が善良であることが求められ、罰金前科も不利に働きます。手続の全体像は退去強制・在留特別許可・監理措置のページをご覧ください。
否認する場合、どのような手続になりますか
否認事件では身柄拘束が長期化しやすく、接見等禁止決定が付くことが少なくありません。この決定が出ると、弁護人以外はご本人と面会も手紙のやり取りもできません。中国のご家族に連絡が来ないのは、多くがこれを理由とします。
報道によれば、令和8年1月に神奈川新聞が伝えた事案では、夜行バス車内での不同意わいせつの疑いで中国籍の研究生が逮捕され、否認していると報じられました。また令和7年9月にUHB北海道文化放送が伝えた北海道小樽市の事案では、不同意性交等致傷の疑いで逮捕された男性が、性交はしたが同意していたと一部否認していると報じられています。いずれも逮捕の報道であり、有罪が確定したものではありません。密室性の高い事案では被害供述の信用性が中心の争点となり、客観証拠をどこまで確保できるかが結論を分けます。
最も注意すべきは通訳を介した取調べの記録です。中国語で述べたニュアンスが日本語の調書にそのまま残るとは限らず、署名した調書を後から覆すことは容易ではありません。録音・録画の有無を早期に確認し、必要があれば弁護人が独自に通訳を確保します。
当事務所はどのように対応しますか
当事務所は執行猶予判決ではなく、起訴前の不起訴処分の獲得を最優先の目標に据えています。執行猶予も有罪判決であり、在留の場面では安全な結論とは限らないためです。刑事弁護と入管手続をひとつの事件として扱い、刑事段階のうちから在留手続で必要になる資料を保全します。逮捕直後の接見から在留手続まで松村弁護士本人が一貫して対応し、外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行します。微信(WeChat ID:matsumura1119)で中国本国のご家族とも直接やり取りできます。
ご相談の窓口は中国人の刑事事件・在留のご相談、関連する疑問は外国人刑事・在留Q&Aにまとめています。本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。
よくある質問
不起訴になれば在留資格は残りますか
不起訴処分は有罪判決ではないため、刑罰を受けたことを要件とする退去強制事由には該当せず、在留資格を維持できる可能性は大きく高まります。ただし捜査を受けた事実は記録に残り、更新・変更や次回の上陸審査で経緯を尋ねられることがあります。隠さず説明する資料とともに申請するほうが有利に働くのが通例です。
執行猶予がついても帰国しなければなりませんか
罪名と在留資格によります。不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は4号の2の列挙外であり、執行猶予付きなら同号にも4号リにも該当しません。しかし住居侵入を伴う撮影のように列挙された章の罪が含まれる場合は、別表第一の方について4号の2に該当し得ます。退去強制事由に当たらなくても、更新が認められず在留を失う経路があります。
被害者と直接連絡を取って謝りたいのですが
お勧めできません。連絡先は弁護人限りで開示されるのが通常であり、直接接触すれば罪証隠滅のおそれと評価され、勾留や保釈の判断に響きます。謝罪の意思は弁護人を通じて伝えるのが確実です。
永住者でも退去強制の対象になりますか
4号の2は別表第一の方のみを対象とするため永住者には適用されませんが、4号リは永住者にも適用されます。不同意性交等罪は法定刑の下限が高く、実刑となれば同号に該当します。その場合でも定着性や家族関係は在留特別許可の重要な考慮要素ですが、許否は個別の事情によります。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119