舟渡国際法律事務所

取調べの通訳は誰のための通訳か|外国人刑事事件で一語の訳が結論を変える理由

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取調べの通訳は誰のための通訳か|外国人刑事事件で一語の訳が結論を変える理由

取調べの通訳は誰のための通訳か|外国人刑事事件で一語の訳が結論を変える理由

2026/09/05

取調室に通訳人がいれば安心だ、と考えておられる方は少なくありません。しかし外国人の刑事弁護を続けていて痛感するのは、通訳が入っていることと、ご本人の言い分が正確に記録されていることは、別の話だという事実です。誰が通訳人を選び、誰が費用を払い、訳された言葉がどのような書面になって残るのか。この構造を知っておくことは、取調べにどう臨むかを決めるうえで欠かせません。

本記事の要点

  • 捜査段階の通訳人は、捜査機関が手配し、捜査機関が費用を負担します。ご本人の側に立って助言する立場ではありません。
  • 供述調書は中国語ではなく日本語で作られます。中国語で話した言葉そのものは、原則として記録に残りません。
  • 日本の供述調書は問答をそのまま書き取る方式ではなく、取調官が要旨を文章にまとめる方式が一般的です。訳と要約が二重にかかります。
  • 取調べの録音・録画が法律上義務づけられているのは一部の事件に限られており、多くの外国人事件は対象外です。
  • 調書の内容に納得できなければ、訂正を求めることも、署名押印を拒むこともできます(刑事訴訟法198条)。

取調べの通訳人は、誰が選び、誰のために働くのですか

捜査段階の通訳人を手配するのは、警察や検察といった捜査機関です。費用も捜査機関が負担します。通訳人は職務として正確に訳すことを求められる立場ですが、ご本人の利益のために助言したり、不利になりそうな質問を止めたりする立場にはありません。この点で、弁護人が同行する通訳とは役割が根本的に異なります。

もう一つ知っておいていただきたいのは、日本には法廷通訳人や捜査通訳人になるための国家資格が存在しないことです。裁判所は法廷通訳人の候補者名簿を作り、研修も行っていますが、資格試験に合格した者でなければ通訳できないという制度ではありません。法律用語の正確な訳し分け、たとえば故意と過失、共謀と黙認、所持と保管といった区別は、日常会話の語学力とは別の技能です。

加えて中国語には方言の問題があります。普通話の通訳人が付いても、日常的に広東語や福建語、上海語などをお使いの方にとっては、微妙な言い回しを普通話で表現し直す負担が重なります。令和6年の被告人通訳事件の通常第一審終局人員は4,649人で、通訳言語は41言語に及び、中国語は726人(15.6%)で第2位でした(法務省「令和7年版犯罪白書」)。数のうえでは中国語の通訳は珍しくありませんが、事件の性質に見合った経験を備えた通訳人が常に付くとは限りません。

通訳を介した供述調書は、どのように作られますか

供述調書は日本語で作成されます。ご本人が中国語で話した言葉そのものは、録音されていない限り、記録として残りません。これが最も重要な構造です。

段階言語担い手生じ得るずれ
本人が事情を話す中国語本人方言・法律用語の理解の差
日本語に訳す日本語捜査機関が手配した通訳人訳し落とし、意訳、語感の強弱
調書にまとめる日本語取調官要旨の取捨選択、表現の置き換え
読み聞かせる中国語通訳人逐語ではなく要約になり得る
署名押印する本人中国語の原供述は残らない

日本の供述調書は、問答をそのまま書き取る形ではなく、取調官がご本人の供述の要旨を一人称の文章にまとめる方式で作られるのが一般的です。つまり、訳という工程と、要約という工程が二重にかかります。しかも、できあがった日本語の文章をご本人が自分で読んで確かめることはできず、通訳人が口頭で訳して読み聞かせるのを聞いて判断することになります。

誤訳や訳し落としは、なぜ結論を変えるのですか

刑事事件の結論は、しばしば一語の違いで動くからです。頼まれて荷物を運んだという説明と、中身を知りながら運んだという説明とでは、故意の有無が変わります。誘われて断り切れなかったという説明と、一緒にやろうと決めたという説明とでは、共謀の評価が変わります。日本語に訳す段階で語感が少し強まるだけで、供述の意味は動きます。

外国人事件では、この一語が在留にも波及します。たとえば別表第一の在留資格の方が窃盗・詐欺・傷害等の列挙罪で拘禁刑に処せられれば、執行猶予付きでも退去強制事由(入管法24条4号の2)に該当します。薬物事件は有罪判決を受けたこと自体で同条4号チに該当し、罰金でも執行猶予でも、永住者を含む全ての在留資格が対象です。刑事の結論が在留の結論に直結する以上、供述の一語の重みは日本人の事件よりも大きいと言わざるを得ません。関係は外国人の刑事事件と在留のページで整理しています。

通訳の正確さを、後から検証できますか

できる場合と、できない場合があります。分かれ目は録音・録画の有無です。

刑事訴訟法301条の2は、裁判員裁判の対象事件と検察官が自ら捜査した事件について、身柄拘束下の被疑者取調べの全過程を録音・録画することを義務づけています。逆に言えば、外国人事件で数の多い窃盗、入管法違反、大麻・覚醒剤の所持といった類型の多くは、法律上の義務の対象外です。記録が残っていなければ、後から訳の正確さを突き合わせる素材そのものがありません。

もっとも、手立てが全くないわけではありません。公判では通訳人を証人として尋問することができ、通訳及び翻訳については鑑定に関する規定が準用されます(刑事訴訟法178条)。法律により宣誓した通訳人が虚偽の通訳をしたときは、偽証と同様に処罰されます(刑法171条)。また、そもそも調書ができあがる前の段階で、読み聞かせを受けて内容に納得できなければ、訂正や追加を求めることができますし、署名押印そのものを拒むこともできます(刑事訴訟法198条)。署名した調書を後から覆すのは容易ではありませんから、その場で止める意味は大きいのです。

自分の側で通訳を用意することに、どんな意味がありますか

取調室の外に、自分の言葉で話せる場を確保できるという意味があります。弁護人との接見には立会人が付かず、内容が捜査機関に伝わることもありません(刑事訴訟法39条1項)。弁護人が通訳を同行すれば、その場は捜査機関の手配した通訳を通さずに事情を説明できる唯一の機会になります。

ここで整理した事実関係は、取調べで何をどう説明するかの土台になり、供述調書の内容と食い違いが生じたときに、その食い違いを主張する根拠にもなります。日本の刑事手続では、中国の取保候审にあたる起訴前の保釈がなく、弁護人の取調べ立会いも原則として認められていません。だからこそ、接見の場をどう使うかが結果を左右します。関連する疑問は外国人刑事・在留Q&Aにもまとめています。

私選弁護人はここで何ができますか

当事務所には、外国人事件専属の中国語通訳が在籍しています。捜査機関が手配する通訳とは別に、ご本人のために動く立場の通訳が、接見・打合せ・公判を通じて同席します。松村大介弁護士が初回接見から入管手続まで一貫して担当し、通訳を介した打合せの内容も弁護士自身が把握したうえで方針を立てます。

方針の中心は、起訴前の不起訴処分の獲得です。執行猶予付きの判決を得ても在留を失う類型があるためで、逮捕直後から示談・被害弁償・環境調整を組み立て、検察官に意見書を提出します。退去強制事由の判断についても故意・過失の有無を争うべきであるという主張を展開しており、不法就労助長罪が認定された事件で在留特別許可を得た実績もありますが、結果は個別の事情によります。中国本国のご家族とは微信(WeChat ID:matsumura1119)で直接やり取りしています。ご相談は中国人の刑事事件・在留のご相談から、中国語での説明は中文页面をご覧ください。

よくある質問

取調べで通訳人を替えてほしいと言えますか

制度上の交代請求権が定められているわけではありませんが、訳が理解できない、内容が違うと感じるといった事情は、その都度はっきり伝えるべきです。弁護人からも捜査機関に申し入れます。何も言わないまま調書ができあがると、後から争う手がかりが乏しくなります。

調書に署名しないと、不利になりますか

署名押印は義務ではありません(刑事訴訟法198条)。署名しなかったこと自体が犯罪の証拠になるものでもありません。むしろ、内容に納得していないのに署名してしまうことのほうが、後の手続で重い影響を残します。

弁護人は取調べに立ち会ってくれますか

日本では弁護人の取調べ立会いは原則として認められていません。そのため、取調べの前後に接見を重ね、その日に何を聞かれ、どう答えたかを確認しながら助言を届ける方法をとります。頻繁な接見が重要になる理由がここにあります。

公判の通訳と、取調べの通訳は同じ人ですか

通常は別の人です。公判の通訳人は裁判所が選任します。取調べの段階の訳と公判での訳が食い違うことがあり、その食い違いが供述の信用性を検討する材料になることもあります。

日本語がある程度分かるので、通訳は不要ではありませんか

日常会話ができることと、法律用語の含意を正確に理解できることは別です。故意、共謀、所持といった言葉は、日常語としての意味と法律上の意味がずれます。ご自身の言葉で正確に説明するために、通訳を使うことをお勧めします。

本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。取調べへの対応は、罪名、証拠関係、身柄の状況によって考え方が変わります。具体的なご事情は弁護士に直接ご相談ください。

本記事は2026年9月時点の情報です。

執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。

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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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