中国人の不法就労・資格外活動・オーバーステイ|刑事手続と入管手続はどう進みますか
2026/09/05
入管の関係する事件でご家族が戸惑われるのは、同じ一つの出来事について、警察と入管という二つの役所が別々に動くという点です。刑事事件のほうが不起訴で終わっても、入管の手続はそのまま進みます。逆に、刑事事件にならなくても退去強制事由に該当することがあります。この二重構造を理解しないまま時間が過ぎると、後から取り返せない場面が出てきます。本稿では、資格外活動、オーバーステイ、不法就労助長の各類型について、二つの手続がどのように交錯するのかを整理します。
本記事の要点
- 刑事手続(警察・検察・裁判所)と入管手続(違反調査・違反審査・口頭審理・異議申出)は別個の手続であり、一方の結論が他方を拘束するとは限りません。
- 不法就労助長は、入管法24条3号の4により、刑事処罰を受けていなくても行為があれば退去強制事由に該当します。
- 自ら出頭して出国命令(同法24条の3)を受けられれば、収容を経ずに出国でき、上陸拒否期間は原則1年です。ただし薬物等の事由がある方は対象外です。
- 在留特別許可の申請権は収容令書により収容された方と監理措置の決定を受けた方に限られ、退去強制令書が発付された後は申請できません(同法50条2項・3項)。
- 当事務所は起訴前の不起訴処分の獲得を最優先としつつ、退去強制事由の判断についても故意・過失を問うべきであるとの主張を展開しており、この論点は係争中です。
刑事手続と入管手続は、どう違うのですか
目的も、判断者も、要件も違います。刑事手続は犯罪の成否と刑罰を決める手続で、警察が捜査し、検察官が起訴するかどうかを決め、裁判所が判断します。入管手続は在留を認めるかどうかを決める手続で、入国警備官が違反調査を行い、入国審査官が違反審査をし、不服があれば特別審理官の口頭審理、さらに法務大臣への異議申出へと進みます。
典型的な入管法違反の罪と、それに対応する退去強制事由を並べると次のようになります。
| 類型 | 刑事上の主な罪と法定刑 | 退去強制事由 |
|---|---|---|
| 不法残留(オーバーステイ) | 入管法70条1項5号。3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又は併科 | 同法24条4号ロ |
| 資格外活動(専ら行っている場合) | 同法70条1項4号。3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又は併科 | 同法24条4号イ |
| 資格外活動(専らとまではいえない場合) | 同法73条。1年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金、又は併科 | 同法24条4号ヘ(拘禁刑以上に処せられた場合。執行猶予は除く) |
| 不法就労助長(雇う側) | 同法73条の2。5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又は併科。法人にも罰金が科される両罰規定がある | 同法24条3号の4 |
ここで注意すべきは24条3号の4です。この号は、不法就労助長の行為があれば足り、刑事処罰を受けたことを要件としていません。刑事事件が不起訴で終わっても、入管手続では別途この号の該当性が判断されるという構造になっています。逆に、資格外活動の罪(73条)の場合は、拘禁刑以上に処せられたことが4号ヘの要件であり、執行猶予の場合は除かれます。号ごとに要件が違うため、ご自身の事案がどの号の問題なのかを最初に特定する必要があります。
不起訴になれば、入管の手続も終わりますか
終わるとは限りません。不起訴は検察官の判断であって、入管を拘束するものではないからです。とりわけ不法残留は、刑事処分の内容にかかわらず、期限を超えて在留している事実そのものが24条4号ロに該当します。
留学生のアルバイトが週28時間を超えると、どうなりますか
直ちに退去強制になるわけではありませんが、在留期間の更新と在留資格の取消しの双方で問題になります。
留学の在留資格そのものには就労が含まれていません。アルバイトをするには資格外活動許可を受ける必要があり、包括的な許可の場合は原則として週28時間以内、在籍する教育機関の長期休業期間中は1日について8時間以内とされています。これを超えて働いた場合、専ら就労していると評価されれば入管法70条1項4号の罪と24条4号イの退去強制事由に、そこまで至らなければ同法73条の罪と4号ヘの問題になります。
雇う側にとっても他人事ではありません。技術・人文知識・国際業務の在留資格を持つ方を飲食店のホールで働かせた、資格外活動許可のない特定技能の方を接客に従事させた、といった事案では、雇用主が不法就労助長罪で立件されています。2026年2月に東京都台東区の中華料理店で経営者と従業員がともに摘発された事案では、経営者が在留資格の種類は分かっていたが違法とは思わなかったと説明したと報じられています。不法就労・オーバーステイの類型は別のページでも扱っています。
自分から入管に出頭したほうがよいですか
事案によります。ただし、要件を満たすのであれば、出国命令の制度を検討する価値は大きいと申し上げます。
出国命令(入管法24条の3)は、不法残留の方が自ら入管に出頭した場合に、収容を経ずに出国を命じる制度です。主な要件は、速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留に該当し、かつ同法24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないこと、過去に退去強制されたことや出国命令により出国したことがないこと、そして速やかに出国することが確実と見込まれることです。薬物事件で有罪判決を受けた方(4号チ)は二つ目の要件を満たさないため、この制度を使えません。
| 項目 | 出国命令(24条の3) | 退去強制 |
|---|---|---|
| 対象 | 不法残留のみで、4号ハからヨまでの事由がない方 | 制限はない |
| 端緒 | 自ら入管に出頭すること | 摘発、通報、刑事手続からの引継ぎ |
| 身柄 | 収容されずに手続を進めるのが原則 | 収容令書による収容が原則。監理措置の余地がある |
| 上陸拒否期間 | 原則として1年 | 原則として5年。退去強制歴があれば10年 |
| 在留特別許可 | 求める場面ではない | 手続の中で求める余地がある |
もっとも、日本での生活を続けたい方にとって、出国命令は出国を前提とする制度ですから選択肢になりません。日本人の配偶者や日本で育った子がいる、長期にわたり平穏に生活してきた、といった事情がある方は、退去強制手続の中で在留特別許可を求めることになります。この場合、出頭申告という経緯自体が入管法50条5項の考慮要素として意味を持ちます。どちらの道を選ぶかは、在留の基礎となる事情、家族関係、資料の有無を踏まえて決める必要があり、出頭してしまってからでは修正が難しくなります。出頭の前にご相談いただきたい理由はここにあります。
従業員を雇う側は、どのような責任を負いますか
当事務所は、退去強制事由の判断においても故意・過失の有無を問うべきであるとの立場から、責任主義の射程を制裁的な行政処分に及ぼすべきことを主張してきました。この論点は現在も係争中です。関連して、不法就労助長罪が認定された事件で在留特別許可を得た実績がありますが、結果は個別の事情によります。
在留特別許可を求めることはできますか
できます。ただし時期の制限が厳格です。令和5年改正入管法により申請手続が法定化され、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、法的地位、退去強制の理由、人道上の配慮といった考慮要素が入管法50条5項に明示されました。不許可の場合には理由を付した書面が交付されます(同条10項)。他方、申請できるのは収容令書により収容された方と監理措置の決定を受けた方に限られ(同条2項)、退去強制令書が発付された後は申請できません(同条3項)。
令和7年の出入国管理統計では、在留特別許可は審査段階824人、口頭審理29人、異議申出177人の計1,030人でした。同じ年の退去強制令書発付は7,725人ですので、容易ではありませんが、現に許可されている方がいることも事実です。許否は個別の事情によって判断されますので、許可されると申し上げることはできません。
当事務所はどのように対応しますか
- 不起訴処分を最優先目標とする弁護方針。執行猶予判決でも在留を失う類型があることを前提に、起訴前の23日間に活動を集中させます。
- 刑事弁護と入管手続のワンストップ対応。受任時に入管法24条のどの号が問題になるかを特定し、刑事段階から在留特別許可の主張を支える資料を集め始めます。
- 退去強制事由についても故意・過失を争う。制裁的な行政処分に責任主義の射程が及ぶべきであるとの主張を展開しており、係争中の論点です。
- 松村大介弁護士本人が全工程を直接担当し、外国人事件専属の中国語通訳が在籍します。
- 微信(WeChat ID:matsumura1119)で中国本国のご家族と直接連絡できます。
過去には、観光目的で来日した方が在留資格を失い不法残留で起訴された事案について、婚姻と認知の手続を整えたうえで入管の過去の許可事例を分析し、在留特別許可を得た事例があります。事件ごとに事情が異なり、同じ結果を保証するものではありません。関連する解説はオーバーステイ及び外国人刑事・在留Q&Aにもまとめています。ご相談はお問い合わせから承ります。
よくある質問
オーバーステイで捕まると、罰金はいくらになりますか
不法残留の法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。実際の処分は在留期間を超えた長さ、就労の有無、発覚の経緯によって異なり、略式命令による罰金で終わる事案もあれば、公判請求される事案もあります。金額を一律に申し上げることはできません。
刑事事件が不起訴になりました。入管はどうなりますか
不法残留であれば、不起訴であっても入管法24条4号ロの退去強制事由には該当します。不法就労助長についても、同法24条3号の4は刑事処罰を要件としていません。刑事の結論とは別に、入管手続への対応を組み立てる必要があります。
出国命令で帰国した場合、いつから日本に来られますか
出国命令により出国した方の上陸拒否期間は原則として1年です。退去強制の場合の原則5年、退去強制歴がある場合の10年と比べて短いことが、この制度の実際上の利点です。
収容されると、いつまで出られないのですか
令和5年改正により監理措置が導入され、収容によらずに手続を進める道が開かれました。監理人となる方の確保、住居の安定、出頭の確実性を示す資料が用意できるかどうかが実際上の分かれ目になります。3か月ごとの収容の見直しも制度化されています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは在留資格、在留歴、家族関係、発覚の経緯その他の事情によって大きく変わります。具体的なご事情は弁護士に直接ご相談ください。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119