中国人の薬物事件は執行猶予でも強制送還になりますか|大麻の法改正と入管法24条4号チ
2026/09/05
薬物事件のご相談で最も多い誤解は、執行猶予がつけば日本に住み続けられるというものです。他の罪名では、その理解が当てはまる場面もあります。しかし薬物だけは構造が違います。入管法は、薬物関係の法令に違反して有罪の判決を受けたこと自体を退去強制事由と定めており、刑の重さも、在留資格の種類も問いません。罰金でも、執行猶予でも、永住者でも同じです。ご本人が留置場にいる間に、ご家族が知っておくべきことを条文に即して整理します。
本記事の要点
- 入管法24条4号チは、薬物関係法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由とし、罰金・執行猶予・刑の免除であっても該当します。
- 同号は在留資格の種類を問わないため、永住者、定住者、日本人の配偶者等であっても対象になります。
- 令和6年12月12日の法改正により、大麻は麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬として扱われ、使用罪も設けられました。
- 薬物事件の該当者は、自ら出頭しても出国命令(入管法24条の3)を選べず、上陸拒否には期間の定めがありません(同法5条1項5号)。
- 24条4号チは有罪判決を要件とするため、不起訴又は無罪であれば該当しません。当事務所が起訴前の活動を最優先する理由はここにあります。
薬物事件で執行猶予がついても、なぜ強制送還されるのですか
条文の作りが他の罪名と違うからです。24条4号チは、麻薬及び向精神薬取締法、あへん法、覚醒剤取締法、麻薬特例法、刑法第2編第14章(あへん煙に関する罪)等の薬物関係法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由としています。刑の免除を受けた場合を含みます。
他の号と比べると違いがはっきりします。同条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますが、ただし書により全部執行猶予は除かれます。同条4号の2は別表第一の在留資格者が窃盗・詐欺・傷害等の列挙された罪により拘禁刑に処せられた場合を対象とし、こちらは執行猶予でも該当しますが、別表第二の方には適用されません。これに対し4号チには、執行猶予を除く旨の定めも、在留資格による限定もありません。要件は有罪判決を受けたこと、それだけです。
したがって、大麻の所持で罰金となった方、覚醒剤の自己使用で執行猶予付き判決を受けた方、いずれも同号に該当します。永住者であっても同じです。刑事裁判で執行猶予を勝ち取ることは、薬物事件では入管上の勝利を意味しません。
令和6年12月の法改正で、大麻の扱いはどう変わりましたか
大麻は麻薬になりました。令和6年12月12日に施行された法改正により、従来の大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」に改められ、大麻は麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬として位置づけられています。
実務上の変化は二つあります。第一に、これまで大麻には使用罪がないと説明されてきましたが、麻薬としての使用罪(麻薬及び向精神薬取締法66条の2。7年以下の拘禁刑)が適用されることになりました。尿検査の結果のみで立件され得る点で、以前とは前提が異なります。第二に、単純所持の法定刑も7年以下の拘禁刑となりました。税関の公表資料でも「麻薬である大麻」という表記が用いられており、2025年12月に那覇空港で大麻2.85グラム等を隠匿していたとして中国籍の女性と台湾籍の男性が検察庁に告発された事案が公表されています。
| 事案 | 主に適用される法令 | 24条4号チへの該当 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 覚醒剤の所持・使用 | 覚醒剤取締法 | 該当する | 罰金・執行猶予・刑の免除でも同じ |
| 大麻の所持・使用(令和6年12月12日以降) | 麻薬及び向精神薬取締法 | 該当する | 使用罪が設けられた |
| 麻薬・向精神薬の所持・譲渡 | 麻薬及び向精神薬取締法 | 該当する | 医師等による営利目的譲渡も同様 |
| 薬物の営利目的輸入 | 覚醒剤取締法・麻薬特例法・関税法 | 該当する | 実刑が長期に及べば同条4号リにも重ねて該当 |
| 指定薬物(いわゆる危険ドラッグ) | 医薬品医療機器等法 | 該当しない | 同法は列挙されていない。1年を超える実刑なら4号リ |
最後の行は見落とされやすい点です。指定薬物は医薬品医療機器等法で規制されており、この法律は4号チにも4号の2にも列挙されていません。実際、令和7年に大分地裁で言い渡された指定薬物の輸入事案では、中国籍の男性らに拘禁刑2年6月・執行猶予4年が言い渡されたと報じられていますが、法令が異なれば入管法上の帰結も異なります。罪名の確定は、在留の帰趨を左右する作業です。
永住者や日本人の配偶者でも、強制送還されますか
該当します。24条4号チは在留資格による限定を置いていないため、別表第二である永住者、定住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等のいずれも対象になります。窃盗や傷害であれば別表第二の方は4号の2の適用を受けず、1年を超える実刑でなければ退去強制事由に当たりませんが、薬物にはこの安全弁がありません。
一度日本を出たあと、また日本に来ることはできますか
薬物事件では、他の類型より格段に難しくなります。ここが最も誤解されている点です。
退去強制を受けて出国した方は原則として出国の日から5年、過去に退去強制を受けたことがある方は10年、上陸が拒否されます(入管法5条1項9号)。この事由は期間の経過によって消滅します。ところが薬物については、同項5号が別に定めており、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する日本又は外国の法令に違反して刑に処せられた方は上陸を拒否されるところ、この号には期間の定めがありません。罰金でも該当し、日本の法令でなく外国の法令違反でも足ります。
期間の経過によって自動的に解消されないため、再び入国するには法務大臣の上陸特別許可(同法12条1項)を得るほかありません。中国のご家族に会いに来ることも、仕事で来日することも、この許可を経なければできないという状態が続きます。薬物事件で不起訴を目指す意味は、目の前の退去強制を避けることにとどまらず、将来の再入国の可能性を残すことにもあります。
中身を知らずに荷物を運んだ場合はどうなりますか
薬物事件の弁護で最も争点になるのが、この故意の有無です。頼まれて預かった、報酬の額を不審に思わなかった、中身を確認しなかった、という説明は、それ自体では無罪の理由になりません。裁判所は、報酬の額、依頼者との関係、渡航経路の不自然さ、荷物の重量や隠匿の態様といった間接事実から、未必の故意を推認します。
それでも、争う実益は大きいと申し上げます。24条4号チは有罪判決を要件としますので、無罪又は不起訴であれば、そもそも同号に該当しません。刑事手続における故意の争いが、そのまま入管手続の防御になるという構造は、他の号にはない特徴です。当事務所には、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠の分析と被告人質問・反対尋問を通じて無罪判決を得た事例があります。事件ごとに事情は異なり、同じ結果を保証するものではありませんが、争点の立て方によって結論が変わり得ることは申し上げておきます。
当事務所は、退去強制事由の判断についても故意・過失の有無を問うべきであるとの主張を展開しており、この論点は現在も係争中です。刑事段階から故意に関する証拠を丁寧に残しておくことは、後の入管手続における主張の基礎にもなります。外国人の薬物事件の考え方は別のページにもまとめています。
当事務所はどのように対応しますか
薬物事件では、刑事と入管を一体として設計しなければ意味がありません。当事務所は次の方針で対応しています。
- 不起訴処分を最優先目標とする弁護方針。執行猶予では在留を維持できないという前提から出発し、起訴前の23日間に活動を集中させます。
- 刑事弁護と入管手続のワンストップ対応。受任時に入管法24条4号チの該当性と在留特別許可の申請時期を確認し、収容後の手続まで同じ弁護士が担当します。
- 退去強制事由についても故意・過失を争う。制裁的な行政処分に責任主義の射程が及ぶべきであるとの主張を展開しており、係争中の論点です。
- 松村大介弁護士本人が全工程を直接担当し、外国人事件専属の中国語通訳が在籍します。薬物事件では供述の微妙な言い回しが結論を分けるため、ご本人のために動く立場の通訳が同席する意味は大きいと考えています。
- 微信(WeChat ID:matsumura1119)で中国本国のご家族と直接連絡できます。
不法就労助長罪が認定された事件で在留特別許可を得た実績もありますが、結果は個別の事情によります。刑事と在留の関係は外国人の刑事事件と在留、収容や在留特別許可の手続は退去強制・在留特別許可をご覧ください。ご相談はお問い合わせから承ります。
よくある質問
不起訴になれば、在留資格は残りますか
不起訴であれば有罪判決が存在しませんので、入管法24条4号チには該当しません。ただし在留期間の更新や在留資格の変更の審査では、事件の経緯が素行の評価として考慮されることがあります。事実を隠すよりも、経緯を説明する資料を添えて申請するほうが有利に働く場面が多いと考えています。
大麻を少し持っていただけで、本当に帰国させられますか
有罪判決を受ければ、量の多寡にかかわらず入管法24条4号チに該当します。令和6年12月12日以降、大麻は麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬として扱われ、使用罪も適用されます。少量だから大丈夫という説明は、現在の法律には合致しません。
観光で来日した友人が空港で捕まりました。短期滞在でも同じですか
同じです。在留資格の種類を問わない条文ですので、短期滞在であっても該当します。加えて、入管法5条1項5号の上陸拒否には期間の定めがないため、その後の来日は上陸特別許可を得なければできません。
執行猶予の判決を受けました。今から何かできることはありますか
あります。退去強制手続の中で在留特別許可を求める余地が残されています。ただし申請できるのは収容令書により収容された方と監理措置の決定を受けた方に限られ、退去強制令書が発付された後は申請できません(入管法50条2項・3項)。時期の問題が最も大きいため、判決後すぐにご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは薬物の種類、量、営利目的の有無、在留資格その他の事情によって大きく変わります。具体的なご事情は弁護士に直接ご相談ください。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119