日本で受けた刑は本国でも前科になるのか ベトナム語話者へ
2026/09/03
日本で刑事事件の当事者になった方から、判決の内容そのものよりも先に、この記録は本国にも残るのかと尋ねられることがあります。帰国後の就職や結婚、家族への影響を考えれば、当然の心配です。
この問いは、実は三つの別々の問題が混ざっています。日本国内で記録がどう扱われるか、本国で記録がどう扱われるか、そして日本の在留資格や将来の入国にどう跳ね返るか。この三つは、根拠となる法律も判断する機関も違います。
以下では、ベトナム語を母語とする方に向けて、この三つを分けて整理します。なお、本国での取扱いはその国の法制によりますので、ベトナムの法令に基づく判断については現地の法律家にご確認ください。
日本の判決は本国の記録にそのまま移るのか
日本の裁判所が言い渡した判決は日本の刑事手続上の記録であり、それがそのまま他国の記録になるという仕組みが自動的に働くわけではありません。
もっとも、外国籍の方が身柄を拘束された場合には、領事関係に関するウィーン条約36条に基づいて本国の領事機関に通報される場面があり、領事官との接見も保障されています。この通報を希望するかどうかは、弁護人と相談したうえで判断することになります。
結局、本国でその情報がどのように扱われ、記録として残るのかは、その国の法制の問題です。日本の弁護士が本国法の結論を保証することはできませんので、両方の国の視点から検討する必要があります。
二重処罰という言葉の意味
同じ行為について同じ国が繰り返し処罰しないという考え方は、二重処罰の禁止と呼ばれます。
ここで注意が必要なのは、この考え方が国境を越えて自動的に働くと理解されがちだという点です。外国で処罰を受けた行為について本国がどう扱うかは、その国の法律が定めることであり、日本で判決を受けたという事実だけで、本国での取扱いが一律に決まるわけではありません。
日本の刑事手続の中でも、通訳を介したやり取りの正確さは重要です。刑事訴訟法175条・178条は通訳・翻訳について定め、同法198条4項は供述調書の読み聞けと増減変更の申立てを定めています。最高裁判所の資料『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版によれば、令和5年に通訳を必要とした事件の終局被告人は3,851人で、そのうちベトナム語は40.4%と最も高い割合を占めています。
日本における刑の消滅
日本の刑法34条の2は、刑の消滅について定めています。
一定の期間を経過することにより、刑の言渡しは効力を失うものとされています。ただし、これは日本の法律上の効果であり、他国の記録の扱いや、入管法上の上陸拒否事由の該当性は、これとは別の問題として検討する必要があります。
刑事処分は在留資格にどう跳ね返るのか
本国での扱いより先に現実の問題となるのは、日本の在留資格への影響です。刑事事件の結末は、刑の重さそのものよりも、入管法24条のどの号に当てはまるかという形で跳ね返ります。
24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を挙げますが、但書があり、刑の全部の執行を猶予された場合は除かれます。一部猶予でも実刑部分が1年以下であれば同様です。
これに対し24条4号チは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤等に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を対象とし、罰金でも執行猶予付きでも刑の免除でも該当します。4号リの柱書が、ニからチまでに掲げる者のほか、となっているためです。また24条4号の2は、別表第一の在留資格で在留する方が、強盗、不同意性交等、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)等で拘禁刑に処せられた場合を対象とします。
令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%で、全体の40.38%を上回っています。分母は過失運転致死傷等及び道交違反を除く終局処理人員18,696人です。外国籍だから起訴されにくい、ということはありません。
逆方向の問題 外国での処分が日本の入国に影響する場合
本国での処分歴が日本への入国を左右することもあります。
入管法5条1項5号は薬物に関する上陸拒否事由で、年限がありません。日本の罰金刑でも足り、外国の法令に違反した場合でも足ります。この場合、期間の経過を待つ解決がなく、入国は入管法12条1項の上陸特別許可によることになります。ほかに、1年以上の拘禁刑に処せられた方を対象とする同項4号があります(政治犯罪は除かれます)。
将来の在留と帰化への影響
刑事処分は、その後の在留資格の変更や更新、さらには帰化の判断にも関係します。
国籍法5条1項3号は、帰化の要件として素行が善良であることを定めています。刑事処分の有無や内容は、この判断において考慮される事情の一つです。したがって、日本での生活を長期的に続けることを考えるのであれば、目先の量刑だけでなく、処分の種類そのものを見据えた対応が必要になります。
よくある誤解
- 日本で罰を受けたのだから本国では何も起きない、という理解。本国での取扱いはその国の法制によります。
- 執行猶予なら記録に残らない、という理解。有罪判決である点は変わらず、薬物事犯は24条4号チにより在留資格に影響します。
- 罰金だから軽い、という理解。上陸拒否事由の5条1項5号は罰金でも該当します。
ご本人とご家族が取れる行動
出発点は、身柄が拘束された段階で弁護人を選任し、接見を通じて事実関係を確認することです(刑事訴訟法39条1項)。
取調べでは同法198条2項により黙秘権が告知されます。通訳を介した調書の内容が自分の述べたことと違うと感じたときは、その場で訂正を求めてください。刑事手続で作成された供述調書は、その後の入管手続でも資料になります。一定の事件では同法301条の2により取調べの録音録画が行われます。自由権規約14条3項(a)(f)は、罪の告知を理解する言語で受ける権利と、通訳を無償で付される権利を定めています。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。通訳体制については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しており、ベトナム語を含むその他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分であると考え、不起訴処分を得ることを最優先の目標に置いています。有罪判決そのものが在留資格に影響する類型があるためです。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失を争う視点で検討します。初回のご相談は無料です。
おわりに
前科になるのかという問いは、どの国の、どの制度の話なのかを分けたときに初めて答えられる形になります。日本の記録、本国の記録、在留資格、将来の入国。この四つを分けて考えることが、対応の出発点です。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099371/
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