検察官の処分 起訴・起訴猶予・嫌疑不十分はどう違うのか
2026/09/03
不起訴になりましたと伝えると、ご家族から必ずといってよいほど三つの質問が返ってきます。それは無罪ということですか。前科は残りますか。在留資格は大丈夫ですか。三つの答えは同じではありません。
検察官の処分は、起訴か不起訴かという二分法だけでは説明しきれません。不起訴の中にも理由の違いがあり、その違いは前科の有無にとどまらず、後の在留審査でどこまで説明ができるかにも関わります。この記事では、起訴、起訴猶予、嫌疑不十分がそれぞれ何を意味し、在留資格にどう跳ね返るのかを整理します。
検察官の終局処分は三つの型に分かれる
検察官が事件について下す終局処分は、公判請求、略式命令請求、不起訴の三つに大きく分かれます。
公判請求は、法廷を開いて審理してほしいという請求で、一般に起訴と呼ばれるものです。略式命令請求は、被疑者が異議を述べないことを前提に、書面審理で罰金または科料を言い渡してもらう手続で、これも起訴の一種です。罰金であっても有罪の裁判であり、前科として残ります。不起訴は、その事件について裁判を求めないという判断です。
ここで大切なのは、略式命令は軽い処分だから在留には響かない、という理解が成り立たない場面があることです。薬物事件では、罰金であっても退去強制事由に該当し得ます。
不起訴の理由は同じではない
不起訴という結論が同じでも、その理由が嫌疑なしなのか、嫌疑不十分なのか、起訴猶予なのかによって、意味はまったく違います。
嫌疑なしは、犯罪の疑いがないと判断された場合です。嫌疑不十分は、疑いは残るが有罪の立証に足りる証拠がないという判断です。起訴猶予は、犯罪の成立自体は認められるが、事案の性質、被害の程度、示談の有無、反省の状況、前科の有無などを考慮して、あえて起訴しないという判断です。
いずれの場合も裁判は行われませんから、有罪判決は存在せず、前科にはなりません。しかし記録の上では、起訴猶予は犯罪事実があったことを前提とする処分です。この差が、後の手続で表に出てきます。
起訴猶予と嫌疑不十分の差は在留審査で効いてくる
出入国管理及び難民認定法24条が定める退去強制事由の多くは、有罪の裁判を前提としているため、不起訴であればその条文には該当しません。
たとえば同条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とします。同号には但書があり、刑の全部の執行猶予が付された場合は除かれます。同条4号チは、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤などの法令違反で有罪の判決を受けた者を対象とし、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当しますが、これも有罪判決があってはじめて働きます。不起訴を獲得することの意味は、まずここにあります。
ただし、刑事処分と無関係に働く条文もあります。同条4号ロの不法残留は、在留期間を経過して在留していること自体が事由です。同条3号の4の不法就労助長行為は、行為があれば足り、刑事処罰を要しません。刑事事件が不起訴で終わっても、これらの事由は別に検討されます。
また、在留特別許可を求める局面では、同法50条5項が考慮要素を法定しています。在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間などです。素行の評価において、嫌疑不十分で終わった事件と、犯罪事実を前提に起訴を見送られた事件とでは、説明の組み立てが変わってきます。
起訴された場合に何が変わるか
起訴されると、身柄の拘束は被告人としての勾留に切り替わり、判決までの期間が長期化します。
公判で有罪となり、無期または1年を超える拘禁刑の実刑となれば24条4号リに該当します。強盗、不同意性交等、危険運転致死傷、盗難特定金属製物品処分防止法違反など一定の重大犯罪については、同条4号の2により、別表第一の在留資格をもって在留する者が拘禁刑に処せられた場合が対象とされています。薬物事件では、前述のとおり刑の重さを問わず4号チが働きます。
数字で見る 外国人の起訴率は全体より高い
令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28パーセントで、全体の40.38パーセントを上回っています。
この数値の分母は、過失運転致死傷等および道路交通法違反を除いた終局処理人員1万8,696人です。罪名別に見ると差はさらに大きく、文書偽造は来日外国人59.18パーセントに対し全体33.72パーセント、窃盗は52.53パーセントに対し44.84パーセントとなっています。外国人だから大目に見てもらえるという前提は、統計の上では成り立ちません。
不起訴に向けて実際にできること
処分が決まる前の期間にどれだけ材料を出せるかが、結論を左右します。
- 被害者がいる事案では、弁護人を通じた示談交渉を早期に始める。宥恕の意思が示されるかどうかは起訴猶予の判断に影響します。
- 供述調書の内容を確認する。刑事訴訟法198条4項は読み聞けと増減変更の申立てを定めており、事実と違う記載を残さないことが後の判断材料になります。
- 身元引受人、就労先、家族関係など、生活の基盤を示す資料を整える。
- 取調べで話す範囲を弁護人と決める。同法198条2項は、自己の意思に反して供述をする必要がない旨の告知を定めています。
よくある誤解を整理する
不起訴になれば入管の手続も自動的に終わる、という理解は誤りです。
刑事の処分と退去強制手続は別の制度であり、不法残留や資格外活動の事実があれば、刑事が不起訴でも入管の手続は進みます。また、略式命令の罰金なら記録に残らないという理解も正しくありません。罰金は有罪の裁判です。逆に、起訴猶予は有罪と同じだという理解も行き過ぎで、裁判を経ていない以上、有罪判決とは法的に別物です。
当事務所の対応
当事務所では、弁護士松村大介が接見と打合せに直接対応し、処分が決まる前の限られた期間に何を提出するかを具体的に組み立てます。言語については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しています。その他の言語については、事案に応じて通訳人を手配します。
方針として、執行猶予判決を得ることをもって十分とは考えず、不起訴処分の獲得を最優先の目標とします。刑事の結論が在留資格の帰趨を左右する以上、刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由への該当性についても故意や過失の有無を含めて争う視点を持ちます。初回のご相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 からもご連絡いただけます。
おわりに
起訴か不起訴かという一語の裏には、理由の違いという第二の層があり、その層こそが在留資格の議論を左右します。処分の通知を受け取ったら、結論だけでなく理由を確認してください。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のタガログ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099237/
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