労災事故で現場責任者になっていた外国人の刑事責任と在留資格
2026/09/02
建設現場や工場で事故が起きた直後、真っ先に事情を聴かれるのは、その日の作業を仕切っていた人です。日本語で書かれた作業手順書に署名し、朝礼で人員を割り振っていた。それだけで、班長・職長として刑事責任の対象になり得ます。技能実習や特定技能で来日した方が、数年のうちに現場責任者の立場に置かれている例は珍しくありません。
ここで扱うのは三つです。労働災害が起きたときに現場責任者が問われる業務上過失致死傷罪の考え方、逮捕されないまま進む書類送検という手続の実際、そして刑事処分が在留資格にどう跳ね返るか。加えて、受入企業と本人の利害がどこでずれるのかについても率直に書きます。
労災事故で現場責任者が刑事責任を問われる場面
労災事故で現場責任者が処罰されるのは、事故を予見でき、かつ結果を回避する措置を取れる立場にあったと認められる場合に限られます。刑法211条の業務上過失致死傷罪は、業務上必要な注意を怠って人を死傷させたときに成立し、法定刑は5年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金です。ここでいう業務とは、反復継続して行う社会生活上の活動を指し、資格の有無や肩書とは一致しません。
したがって、名義だけの職長であっても、現実に作業を指示し危険を除去できる立場にあれば対象になります。逆に、肩書はあっても指示権限も是正権限も与えられていなければ、責任は否定され得ます。捜査で実際に争点になるのは、危険の予見可能性、結果回避の可能性、そして権限が名目だけだったのか実質を伴っていたのかという三点です。結論は、事故後に本人が説明できるかどうかで変わります。
書類送検はどう進むのか
労災事件の多くは身柄を拘束されないまま書類送検されますが、刑事処分としての重みは逮捕された事件と変わりません。労働基準監督署の労働基準監督官は司法警察員としての権限を持ち、警察と並行して、あるいは分担して事件を扱います。事故現場の実況見分、作業手順書や安全衛生教育の記録の押収、関係者の取調べが順に行われます。
逮捕されないため軽い話だと受け止められがちですが、送致を受けた検察官が起訴か不起訴かを判断する点は同じです。取調べでは刑訴法198条2項により黙秘権が告げられ、供述調書については同条4項で読み聞けと増減変更の申立ての機会が与えられます。日本語が十分に分からないまま署名した調書が、後に入管の違反審査や口頭審理で資料として使われることがあります。通訳が付いても、専門用語や過失の法的意味まで理解できるとは限りません。
受入企業と自分の利害は一致しないことがある
会社が手配した弁護士は会社の利益を守る立場であり、現場責任者個人の利益と常に一致するわけではありません。労働安全衛生法には法人も処罰する両罰規定があるため、会社は法人としての責任を小さく見せようとします。その過程で、原因は現場の判断ミスだったという説明が選ばれることがあります。監理団体や登録支援機関が間に入る場合も構図は同じです。
自分の刑事責任と在留資格が懸かっている以上、自分のための弁護人を選ぶことができます。身体を拘束された場合には刑訴法39条1項により、立会人なしで弁護人と接見できます。在宅で捜査が進む事件でも弁護人の選任は可能で、取調べに先立って方針を決めておくことに意味があります。
刑事処分が在留資格に跳ね返る仕組み
業務上過失致死傷罪で在留資格が直ちに失われるわけではありませんが、実刑となれば入管法24条4号リが視野に入ります。同号は無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書があり、全部執行猶予が付された場合は除外されます。一部猶予の場合も実刑部分が1年以下であれば除外されます。執行猶予判決なら4号リに該当するという説明は誤りです。
もっとも、罰金や執行猶予でも影響が皆無というわけではありません。在留期間の更新や在留資格の変更は法務大臣の裁量に委ねられ、素行は判断要素になります。国籍法5条1項3号の帰化の素行要件にも影響します。さらに、一度出国して再び入国する場面では、入管法5条1項4号が1年以上の拘禁刑に処せられた者を上陸拒否事由としています。
事故をきっかけに実習先や就労先を離れてしまうと、別の問題が生じます。入管法22条の4は、正当な理由なく3か月以上その在留資格に応じた活動を行わないで在留していることを取消事由としています。出入国在留管理庁の令和7年の統計では、在留資格の取消しは1,446件で、在留資格別では技能実習が973件、留学が343件でした。事故後の身の振り方は刑事手続と切り離せません。
事故直後に本人と家族ができること
最も価値があるのは、記憶が薄れる前に事実を母語で書き留めておくことです。具体的には次のような作業です。
- 当日誰が何を決めたか、作業指示は誰から出たかを時系列で記録する
- 安全設備の状態、直前に変更された手順、人員配置の変更点を書き出す
- 作業手順書、安全衛生教育の受講記録、雇用契約書、給与明細の写しを手元に置く
- 取調べで分からない日本語は分からないと言い、調書の読み聞けの際に違う箇所は訂正を求める
- 被害者やご遺族への対応は弁護人を通じて行い、直接の申し入れは避ける
ご家族が在留カードと旅券の写し、住居の状況を整理しておくと、弁護人が動く速度が変わります。
よくある誤解
誤解の多くは、刑事手続と入管手続を別々のものと考えるところから生じます。よく聞くものを挙げます。
- 逮捕されていないから前科にならない。書類送検の後に略式命令で罰金となれば前科です。
- 執行猶予なら退去強制になる。入管法24条4号リの但書により、全部執行猶予は除外されます。
- 会社が責任を取ると言ったから大丈夫。刑事責任は個人ごとに判断されます。
- 通訳が付いたから内容は正確なはずだ。裁判所法74条により手続は日本語で行われ、通訳人は訳す役割です。刑法171条の虚偽通訳罪はありますが、通常の誤訳は当事者が気づいて指摘しなければ直りません。
最高裁判所の資料によれば、要通訳事件の終局被告人は3,851人で、そのうちベトナム語が40.4パーセントを占めています。出典は最高裁判所『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版で、令和5年のデータです。通訳が必要な事件は例外ではありません。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語については事案に応じて通訳人を手配します。
労災事件では、執行猶予判決が得られれば足りるとは考えません。刑事処分が在留に及ぼす影響を考えれば、不起訴処分を最優先の目標として弁護方針を組み立てます。刑事事件と入管手続は一体として設計します。刑事の供述調書が違反審査や口頭審理の資料になるため、取調べ段階での説明の仕方が入管手続の結論に影響するからです。退去強制事由への該当性そのものについても、過失の有無や権限の実質を争う視点を持ちます。初回相談は無料です。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
おわりに
労災事故の後に現場責任者が置かれる立場は、本人が思っている以上に不安定です。会社の説明をそのまま受け入れる前に、自分の権限が実際にどこまであったのかを整理してください。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099195/
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