日本で違法になる海外の処方薬|ADHD治療薬と覚醒剤取締法・麻薬及び向精神薬取締法
2026/09/02
母国の医師から処方され、何年も服用してきた薬を、いつもどおりスーツケースに入れて来日した。ところが税関で足止めされ、そのまま任意同行を求められた。ADHDの治療薬をめぐるご相談は、こうした形で始まることが多い。
本人にとっては治療の継続にすぎない行為が、日本では薬物事犯として扱われる。しかも薬物事犯は、在留資格の観点から見ると、他の犯罪とは異なる特別に厳しい仕組みの下に置かれている。本稿では、どの薬がどの法律で規制されるのか、持ち込む前に取るべき手続、そして刑事処分が在留と再入国にどう影響するのかを整理する。
成分によって、適用される法律が変わる
日本では、薬の名称ではなく有効成分によって規制の枠組みが決まる。アンフェタミンやメタンフェタミンを有効成分とする医薬品は、覚醒剤取締法にいう覚醒剤に当たり得る。メチルフェニデートを含む医薬品は、麻薬及び向精神薬取締法の規制対象である。
これらは、母国では通常の処方薬であっても、日本国内では所持・輸入が厳しく制限されている。海外の処方箋があることは、日本の法律上の許可に代わるものではない。名称が同じでも国によって成分が異なる場合があるため、渡航前に成分名で確認する必要がある。
事前の携帯輸入手続という道がある
治療のために必要な薬を日本に持ち込むには、事前に手続を取るという方法がある。麻薬や向精神薬に当たる医薬品を自己の治療目的で携帯して入国する場合には、あらかじめ所管の行政機関に申請し、許可等を得ておく仕組みが設けられている。
手続には、処方した医師の証明書や、薬剤名・数量・服用期間を記載した書面が必要となるのが通例であり、申請から結果が出るまでに一定の期間を要する。出発の直前に気づいても間に合わないことがあるため、渡航が決まった段階で確認することが望ましい。なお、有効成分が覚醒剤に該当する医薬品については、そもそも携帯による持込みが認められない場合がある。この点は自己判断せず、事前に確認する必要がある。
薬物事犯は在留資格の扱いが根本的に異なる
ここが最も重要な点である。入管法24条4号チは、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤等に関する法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由としている。罰金であっても、執行猶予が付いても、刑の免除であっても該当する。在留資格が別表第一か別表第二かも問わない。
入管法24条4号リが無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、全部執行猶予の場合を但書で除外しているのと比べると、扱いの差は明らかである。同号の柱書は、ニからチまでに掲げる者のほか、という書き出しになっており、薬物事犯は4号リの守備範囲の外に置かれている。
さらに、入管法5条1項5号は、薬物関係の法令違反による上陸拒否について期間の定めを置いていない。罰金でも、外国の法令に違反した場合でも足りる。いったんこの条文に該当すると、再入国は同法12条1項の上陸特別許可による以外に道がないことになる。1年、5年、10年といった期間の経過による回復が予定されていないという点で、他の上陸拒否事由とは性質が異なる。
加えて、入管法24条の3の出国命令は、4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことを要件の一つとしているため、薬物事犯に該当する者は出国命令の制度を利用できない。他方、入管法50条1項但書の列挙に4号チは含まれていないため、在留特別許可を求める道自体が閉ざされているわけではない。同条5項の考慮要素に沿った主張立証が重要となる。
よくある誤解
第1に、医師の処方箋があるから合法だという理解である。日本の法律は、外国の処方に基づく所持を当然には適法としていない。
第2に、少量の自己使用だから見逃されるという理解である。数量は量刑上の事情になり得るが、犯罪の成立自体には直結しない。
第3に、罰金なら在留に影響しないという理解である。薬物事犯については、前記のとおり罰金でも入管法24条4号チに該当する。
第4に、指定薬物であれば同じ扱いだという理解である。医薬品医療機器等法の規制する指定薬物は、入管法24条4号チの列挙する罪名には当たらない。適用条文の違いによって帰結が変わるため、成分と根拠法令の確認が欠かせない。
止められた場面で取れる行動
取調べでは、刑事訴訟法198条2項により供述を拒むことができる旨が告げられる。調書の内容が説明と異なるときは、同条4項に基づき増減変更を申し立てることができる。日本語での聴取に不安があるときは、刑事訴訟法175条・178条の通訳・翻訳の手続がある。自由権規約14条3項(a)及び(f)は、理解する言語で罪の性質を告げられる権利と通訳の無償の援助を保障し、領事関係に関するウィーン条約36条は、自国の領事官への通報と接見について定めている。弁護人との接見交通権は刑事訴訟法39条1項に基づく。
資料としては、処方箋、診断書、薬剤情報提供書、服用歴、これまでの渡航時の対応の記録が重要である。参考として、犯罪白書によれば、令和6年の麻薬に関する事件の起訴猶予率は15.9%である。治療目的であったことを裏づける資料をどれだけ具体的に示せるかは、処分の判断に影響し得る。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応する。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語については事案に応じて通訳人を手配する。
方針としては、執行猶予判決では足りないと考え、不起訴処分の獲得を最優先の目標とする。薬物事犯では、有罪判決を受けること自体が入管法24条4号チの該当性を生むため、この目標設定はとりわけ重い意味を持つ。刑事事件と入管手続は一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失の有無を争う視点を維持する。初回相談は無料であり、微信(WeChat)ID matsumura1119 からもご連絡いただける。
おわりに
治療のための薬が刑事事件になるという事態は、本人にとって理解しがたいものである。それでも、日本の制度では成分と手続がすべてを分ける。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談いただきたい。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の英語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099151/
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