在留申請書の虚偽記載は何罪になるのか 在留資格等不正取得罪と在留資格の取消し
2026/09/02
書類を提出したあとになって、あの書き方でよかったのかと気になり始める。そういう段階での問い合わせが一定数あります。過去の事件のことを書かなかった。実際には辞めている勤務先を在職中として書いた。すでに別居している配偶者と同居していると書いた。こうした記載は、どこから先が犯罪になるのでしょうか。
入管法は、単に不正確な申請を不許可にするだけの法律ではありません。不正な手段で許可を得る行為そのものを犯罪として処罰する規定を置き、さらに得られた在留資格を後から取り消す仕組みも用意しています。二つは別々の制度で、片方だけを心配していると足元をすくわれます。
本記事では、いわゆる在留資格等不正取得罪の輪郭、書かなかった場合と事実と異なることを書いた場合の違い、そして取消制度との関係を条文に沿って整理します。
処罰されるのは偽りその他不正の手段で許可を受ける行為である
結論として、この罪の中心にあるのは「偽りその他不正の手段により許可を受けた」という点であり、単なる書き損じや記憶違いとは区別されます。上陸の許可、在留資格の変更、在留期間の更新といった許可を、事実を偽って得た場合が対象になります。
入管法70条1項に定められた罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科です。罰金で終わることもありますが、罰金であっても有罪の確定判決である以上、その後の在留審査に長く残ります。
なお、ここでいう不正の手段は、申請人本人が書いた内容に限られません。第三者に依頼して虚偽の在職証明書や送金記録を作らせた場合、その関与の態様によっては、より重い評価を受けることがあります。
書かなかった場合と、事実と異なることを書いた場合の差
結論として、両者は法的な評価の出発点が違いますが、結果として同じ帰結に至ることもあります。
事実と異なる積極的な記載は、それ自体が偽りの申告であり、評価が明快です。他方、記載しなかっただけの場合は、その事項について申告義務があったか、そして黙っていたことが許可の判断を誤らせる性質のものだったかが問われます。申請書が明示的に尋ねている事項について答えないまま提出し、許可を得たのであれば、単なる不記載として片づけられるとは限りません。
実務上の分かれ目になりやすいのは、故意の有無です。事実を知りながら隠したのか、質問の意味を取り違えたのか、翻訳の過程で正確に伝わらなかったのか。ここは争える領域であり、最初の説明の仕方が結論を左右します。
刑事責任と並行して在留資格の取消しがある
結論として、刑事事件にならなくても、在留資格そのものが取り消されることがあります。
入管法22条の4は在留資格の取消事由を列挙しており、虚偽の申請によって在留資格を取得した場合のほか、3か月以上その在留資格に応じた活動を行わないで在留している場合、住居地の届出義務に違反した場合なども含まれます。取消しは在留期間の途中でも行われうる措置で、更新の不許可とは性質が異なります。
出入国在留管理庁の令和7年の統計では、在留資格の取消件数は1,446件でした。取消しは例外的な処理ではなく、現に一定の規模で運用されている制度です。
有罪となった場合、在留資格にどこまで跳ね返るか
結論として、跳ね返り方は刑の重さと罪名によって段階的に異なります。
| 刑の内容 | 入管法上の位置づけ |
|---|---|
| 罰金 | 24条4号リには当たらない。ただし素行の評価として更新・永住・帰化の審査に影響する |
| 1年を超える拘禁刑で全部執行猶予 | 24条4号リの但書により退去強制事由から除外される |
| 1年を超える拘禁刑の実刑 | 24条4号リの退去強制事由に該当する |
| 薬物犯罪での有罪 | 罪名が異なるが、24条4号チにより罰金でも刑の免除でも該当する |
ここで押さえておきたいのは、4号リには但書があり、刑の全部の執行猶予が付された場合は除外されるという点です。執行猶予なら常に退去強制になるという説明は正しくありません。もっとも、執行猶予でも有罪判決であることに変わりはなく、その後の申請では素行の評価に必ず現れます。だからこそ、執行猶予を得ることではなく、不起訴を目指すことに意味があります。
疑いを向けられたときにできること
結論として、最初の取調べで何をどう述べるかが、その後の刑事処分と入管手続の両方を規定します。
- 取調べにあたって黙秘権が告げられます(刑訴法198条2項)。言いたくないことを述べない自由は最初から認められています。
- 供述調書は読み聞け又は閲覧の機会を与えられ、内容に誤りがあれば増減変更を申し立てることができます(同条4項)。署名する前に必ず確認してください。
- 身体を拘束されている場合、弁護人との接見交通権が保障されています(同法39条1項)。家族からの依頼でも弁護人を選任できます。
- 通訳を通じた取調べでは、訳し方によって意味が変わることがあります。理解できない表現があればその場で言い直しを求めてください。
ご家族としては、本人が何を聞かれ何を答えたかをできる限り具体的に把握し、申請時に提出した書類の控えを集めておくことが実際的な助けになります。
よくある誤解
結論として、この分野の誤解は、行政の不利益と刑事責任を混同することから生じます。
第一に、不許可になっただけなら犯罪ではないという理解です。不許可と処罰は別の判断であり、不許可になった事案が捜査に発展することも、許可された事案が後から問題になることもあります。第二に、行政書士や知人に任せたので自分は関係ないという理解です。申請の名義人は本人であり、内容の責任から自動的に解放されるわけではありません。第三に、取り消されたらまた申請すればよいという理解です。取消しの経緯は記録として残り、その後の審査で必ず参照されます。第四に、罰金なら軽いという理解です。金額の問題ではなく、有罪判決が残るかどうかが問題です。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見や打合せに直接対応します。通訳については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語は事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決では十分でないと考え、不起訴処分の獲得を最優先の目標に置きます。申請書の記載をめぐる事件では、そもそも偽りその他不正の手段といえるのか、故意があったのか、翻訳や代理人を介する過程で生じた齟齬ではないのかという点を具体的に検討します。刑事手続で作成された供述調書は違反審査や口頭審理の資料になりうるため、刑事事件と入管手続は一体のものとして設計します。初回相談は無料で、微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご連絡いただけます。
おわりに
申請書に何を書いたかは、提出した瞬間に固定される事実です。しかし、それがどのような経緯で書かれたのかは、後から丁寧に説明する余地が残されています。説明の順序と資料の裏づけが結論を変えることは、実務ではしばしばあります。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の簡体字中国語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099083/
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