留置場での生活と健康 タイ語話者とご家族が知っておくこと
2026/09/02
刑事事件の解説は、ふつう手続の話から始まります。しかし、勾留された方の口から最初に出る言葉は、たいてい手続の話ではありません。眠れない。薬が切れる。食事が合わない。この三つが、初回の接見でほぼ必ず出ます。
生活と健康の問題は、法律論の外側にあるように見えて、実際には事件の帰結に直結します。体調を崩せば取調べで正確に話せなくなり、供述調書に誤りが残ります。その調書は、後の裁判でも入管の手続でも使われます。この記事では、留置場での生活の実際と、健康や信仰に関する配慮の求め方、そしてそれが在留資格にどうつながるかを整理します。
留置場と拘置所はどう違うのか
逮捕された方の多くは、まず警察署内の留置場に入ります。起訴後や事件の性質によっては、拘置所に移ることもあります。どちらにいるかで、面会や差入れの受付時間、購入できる物品、医療の体制が変わります。
ご家族がまず確認すべきなのは、どの施設にいるかという一点です。移送があっても通知が届くとは限らず、前の施設に足を運んで初めて分かるということが起こります。弁護人が付いていれば、この情報を把握できます。
食事と一日の流れ
食事は施設が用意するものが基本で、内容を自分で選ぶことはできません。宗教や体質に合わない食材が含まれることもあります。日課はおおむね決まっており、起床、点呼、食事、運動、就寝の時刻が定められています。自由に横になれる時間は限られています。
差入れについては、施設ごとに受け付けられる物と数量が定められています。現金の差入れは、施設内で購入できる物品の代金や、後の手続で必要になる費用に充てられます。何が差し入れられるかは施設に確認するのが確実です。
体調を崩したとき 診察と持病の薬
体調不良を感じたときは、我慢せず、その場で申し出ることが原則です。診察の求めは、留置担当の職員に伝えることで始まります。伝え方が曖昧だと記録に残らないため、症状、いつからか、これまでの治療内容を、できるだけ具体的に述べる必要があります。
持病の薬については、外から持ち込んだものをそのまま服用できるとは限りません。施設側で内容を確認し、医師の判断を経る手順になるのが通常です。だからこそ、ご家族の側で、薬の名称、処方した医療機関名、服用量を記した資料を用意しておくことが役に立ちます。お薬手帳の写しがあれば、それが最も早い経路になります。
言葉の壁は、医療の場面で最も深刻に現れます。痛みの部位や程度は、通訳を介しても伝わりにくい情報です。弁護人を通じて症状を書面で伝えるという方法が有効な場面があります。
宗教上の配慮はどこまで求められるか
信仰に関する事柄は、申し出なければ配慮の対象になりません。食事に関する制約、礼拝の時間、所持したい書物などは、具体的に何が必要かを述べる必要があります。すべてが認められるわけではありませんが、伝えなければ検討さえされません。
タイ仏教の実践、イスラームの戒律、いずれについても、施設側が事情を把握していない場合があります。ご家族から弁護人へ、弁護人から施設へという経路で、書面として伝えるのが確実です。
弁護人という通路と領事接見
刑事訴訟法39条1項は、身体を拘束された被疑者・被告人が、弁護人または弁護人になろうとする者と立会人なしに接見し、書類や物の授受をすることを認めています。接見禁止が付されてご家族と会えない事件でも、弁護人との接見は別枠です。生活や健康の問題を外に伝える唯一の確実な通路になります。
また、領事関係に関するウィーン条約36条は、拘禁された外国人の要請に基づく領事通報と領事接見を定めています。領事官は弁護人の役割を担うものではありませんが、旅券や身分に関する事項では助けになる場面があります。
通訳については、刑事訴訟法175条が国語に通じない者に陳述をさせる場合の通訳を定めています。最高裁判所『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版によれば、通訳を必要とした事件の終局被告人は令和5年に3,851人で、タイ語は7.3パーセントでした。
生活の問題が在留資格に跳ね返る場面
身体拘束が長引くこと自体が、在留に影響します。入管法22条の4は、正当な理由なく3か月以上その在留資格に応じた活動を行わないでいることを取消事由の一つとしています。また、入管法19条の16および19条の17は、所属機関等に関する届出を14日以内に行うことを求めており、拘束中も期限は進みます。
刑事処分の側では、入管法24条4号リが、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行猶予が付された場合は除外されます。他方、同条4号チは薬物関係の法令違反で有罪の判決を受けた者を挙げ、罰金でも執行猶予でも該当し、在留資格の別を問いません。
よくある誤解
体調が悪いと言うと心証が悪くなる、という心配をよく聞きます。そのようなことはありません。むしろ、症状を抱えたまま取調べに応じて、正確でない供述が記録されることのほうが、はるかに重い問題を残します。
差入れをすれば必ず本人に届く、という理解も見られます。施設ごとに受け付けられる物と数量が定められており、届かないこともあります。事前に確認してから持参するほうが確実です。
当事務所の対応
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見に直接出向きます。体調や食事、信仰に関する要望は、接見で聞き取ったうえで、必要に応じて書面で施設側に伝えます。生活面の問題を放置しないことは、取調べでの供述の正確さを守ることでもあります。
通訳体制については、中国語は外国人事件専属の通訳が常駐しています。タイ語を含むその他の言語は、事案に応じて通訳人を手配します。弁護方針としては、執行猶予判決ではなお不十分と考え、不起訴処分を最優先の目標とします。刑事の供述調書が後の違反審査や口頭審理の資料になるため、刑事事件と入管手続は一体として設計します。初回相談は無料です。微信のIDは matsumura1119 です。
おわりに
眠れない、薬が切れる、食事が合わない。この三つは、法律相談の本題から外れた話に見えます。しかし、そこを整えることが、結果として供述の正確さと在留の維持につながります。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事のタイ語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099049/
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