起訴前に保釈がない理由と代用監獄 勾留理由開示という手段
2026/09/02
日本の刑事手続を英語圏の依頼者に説明するとき、最も驚かれるのが二つあります。ひとつは、起訴されるまで保釈の制度がないこと。もうひとつは、勾留された人が拘置所ではなく警察署の留置施設に置かれることです。
この二つは、実は同じ問題の裏表です。捜査を担当する組織と、身柄を管理する組織が近い場所にあるという構造が、取調べの時間と密度に影響します。本稿では、この構造を条文に即して説明し、そこで使える手段を示します。
起訴前に保釈がないという構造
日本では、保釈は起訴された後の被告人にだけ認められる制度です。逮捕から起訴までの最長23日間には、保釈の申請という選択肢そのものがありません。
この期間に身柄の解放を求めるには、勾留を請求しないよう検察官に働きかける、勾留の決定に対して不服を申し立てる、勾留の理由や必要性が失われたことを示して取消しを求めるといった方法によることになります。いずれも時期を逃すと効果が薄れるため、逮捕直後からの活動が重要になります。
留置施設に置かれることが取調べに与える影響
勾留された人の多くは、拘置所ではなく警察署の留置施設で過ごします。取調べは同じ建物の中で行われ、生活の時間帯も捜査の都合に左右されやすくなります。
この環境の下では、供述の任意性が問題になりやすくなります。刑事訴訟法301条の2は、一定の事件について取調べの録音録画を義務づけており、後から取調べの状況を検証する手がかりになります。また刑事訴訟法198条4項は、供述調書について増減変更の申立てができると定めています。調書は日本語で作成され、通訳を介して読み聞かされますから、訳し方に納得がいかないまま署名しないことが大切です。
勾留理由開示という手段
身柄の解放を直ちに実現できない場合でも、刑事訴訟法82条以下の勾留理由開示という手続があります。請求があれば、裁判官は公開の法廷で勾留の理由を述べなければなりません。
この場では弁護人が意見を述べ、ご家族が傍聴することもできます。捜査機関の主張する罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれが、どのような具体的事情に基づくのかを明らかにさせる意味があり、その後の勾留取消しや準抗告の材料にもなります。
通訳と言語の権利
言語の問題は、手続全体の公正さに関わります。裁判所法74条は裁判所では日本語を用いると定め、刑事訴訟法175条および178条が通訳と翻訳の根拠になります。捜査段階の通訳人は捜査機関が手配し、弁護人との打合せの通訳は弁護人側が確保します。
自由権規約14条3項(a)および(f)は、理解できる言語で罪の性質と理由を告げられる権利と、無償で通訳の援助を受ける権利を定めています。最高裁判所の『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版によれば、令和5年に要通訳事件で終局した被告人は3,851人でした。刑法171条は虚偽の通訳を処罰の対象としており、通訳の正確さは制度上も重視されています。
刑事処分が在留資格に跳ね返る
身体拘束の長さ以上に、最終的な処分の内容が在留を左右します。入管法24条4号リは無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により全部執行猶予が付された場合は除かれます。
これに対し同条4号チの薬物犯罪は、罰金でも執行猶予でも有罪判決であれば該当し、在留資格の別表を問いません。入管法5条1項5号により上陸拒否には年限がなく、再入国は12条1項の上陸特別許可によるほかありません。さらに同条4号の2は、強盗、不同意性交等、危険運転致死傷等で拘禁刑に処せられた者のうち別表第一の在留資格の者を対象とします。令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28パーセントで、全体の40.38パーセントを上回っています。起訴前の段階で不起訴を目指すことの意味は、この点にあります。
よくある誤解
第一に、保釈金を用意すればすぐ出られるという理解です。起訴前には保釈の制度がありません。第二に、大使館が弁護士を選任してくれるという理解です。領事関係に関するウィーン条約36条に基づく領事接見や通報は行われますが、弁護活動そのものは領事の任務ではありません。第三に、黙秘すれば不利になるという理解です。黙秘権は刑事訴訟法198条2項で告知される権利であり、行使したこと自体を不利益に扱うことは予定されていません。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が留置施設での接見に直接足を運び、取調べの状況を継続的に確認します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、英語を含むその他の言語については事案に応じて通訳人を手配します。
執行猶予判決でも在留への影響が残る場面があるため、不起訴処分の獲得を最優先の目標とします。刑事の供述調書が入管の違反審査や口頭審理の資料になることを踏まえ、刑事事件と入管手続を一体として設計し、退去強制事由の該当性についても故意や過失の有無を含めて争います。初回相談は無料で、微信IDはmatsumura1119です。
おわりに
制度の構造は変えられなくても、その中で使える手段は複数あります。接見、録音録画の確認、勾留理由開示、そして不起訴に向けた働きかけは、いずれも起訴前の段階でこそ意味を持ちます。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事の英語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099011/
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