日本で家族が逮捕された 本国の家族が最初の72時間にできること
2026/09/02
深夜に本国の実家へ、息子が日本の警察に連れて行かれたという短い連絡だけが入る。どこの警察署にいるのかも分からず、電話をかけても本人は出ない。こうした場面でまず検索されるのは、いつ会えるのか、いつ帰れるのか、そして今なにをすればよいのか、というごく素朴な三つの疑問です。
この記事は、その三つに順に答えます。逮捕直後の72時間に日本の刑事手続で何が進行するのか、本国にいるご家族がその時間内に現実に動ける範囲はどこまでか、そして刑事処分がその後の在留資格にどう跳ね返るのかを、条文に沿って整理します。
最初の72時間で決まるのは身体拘束の入口である
最初の72時間は、長期の身体拘束に入るかどうかの入口が決まる期間です。警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官へ送致し、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内に、裁判官へ勾留を請求するかどうかを判断します。合わせて72時間という計算になります。
この間に勾留請求がされなければ本人は釈放されます。請求が認められると、原則として10日間、さらに延長されればもう10日間、身体拘束が続きます。つまり最初の3日間と、その後の最大20日間という二段構えの時間割の中で、起訴か不起訴かが決まります。様子を見て考える余裕は、実際にはほとんどありません。
日本の警察は本国の家族へ通知する義務を負わない
日本の警察には、逮捕の事実を本国のご家族へ知らせる法律上の義務がありません。連絡が来ないことは、事件が軽いことも、本人が無事であることも意味しません。
本人と外部をつなぐ制度が領事ルートです。領事関係に関するウィーン条約36条は、本人が希望した場合に、当局が遅滞なく本国の領事機関へ通報し、領事官が本人と面会し連絡を取り合うことを保障しています。ただし大使館や領事館ができるのは、通訳人や弁護士に関する一般的な情報提供、ご家族との連絡の仲介、処遇についての申入れまでです。弁護人として捜査機関と交渉することはできません。
本国の家族が72時間以内に着手できること
本国にいるご家族でも、弁護人を選ぶこと、資料を集めること、連絡の取り方を誤らないことの三つは、今日から着手できます。
- 日本にいる親族、知人、勤務先、監理団体、学校を通じて、どの警察署に留置されているかを確認する
- 私選弁護人を選任する。弁護人は刑事訴訟法39条1項により、立会人を付けられずに本人と接見できる立場にあり、事件の内容と見通しを本人から直接聞き取れる唯一の存在です
- 在職証明、在学証明、住居、家族構成、生活費の送金記録など、本人の生活の実体を裏づける資料を集める
- 事件関係者へ直接連絡を取らない。口裏合わせと受け取られれば、罪証隠滅のおそれとして勾留や接見等禁止の理由に使われます
通訳が付く場面と、その限界を知っておく
捜査段階の通訳と法廷の通訳は、制度上まったく別のものです。裁判所法74条は裁判所では日本語を用いると定め、刑事訴訟法175条および178条が通訳と翻訳の根拠になります。他方、取調べに立ち会う通訳人は捜査機関が手配するもので、供述調書は日本語で作成され、通訳を介して読み聞けられます。刑事訴訟法198条4項は、調書の内容について増減変更の申立てができると定めており、訳し方に違和感があれば署名前に申し立てる必要があります。
最高裁判所の広報資料である『あなたも法廷通訳を ごぞんじですか』令和7年1月版によれば、令和5年に要通訳事件で終局した被告人は3,851人で、そのうちベトナム語が40.4パーセントを占めています。自由権規約14条3項(a)および(f)も、理解できる言語で罪を告げられる権利と、無償で通訳を付される権利を定めています。
刑事処分が在留資格に跳ね返る仕組み
在留への影響は、判決を受けたかどうかではなく、刑の重さと罪名によって適用条文が切り替わります。まず入管法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書があり、全部執行猶予が付された場合は除かれます。
これに対して同条4号チは、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤等に関する法令違反で有罪の判決を受けた者を対象とし、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。在留資格の別表を問わない点も重要です。さらに入管法5条1項5号により、薬物関係では期間の定めのない上陸拒否となり、再入国は12条1項の上陸特別許可によるほかありません。薬物該当者は入管法24条の3の出国命令も利用できません。
| 条文 | 対象 | 執行猶予の扱い |
|---|---|---|
| 入管法24条4号リ | 無期または1年を超える拘禁刑 | 全部執行猶予は但書で除外 |
| 入管法24条4号チ | 薬物犯罪で有罪判決 | 罰金でも執行猶予でも該当 |
| 入管法24条の2の次に置かれた4号の2 | 強盗、不同意性交等、危険運転致死傷等で拘禁刑 | 別表第一の在留資格の者が対象 |
退去強制手続に進んだ場合でも、入管法50条の在留特別許可という道は残ります。同条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に在留することとなった経緯、在留期間その他の事情を考慮要素として定め、10項は不許可の場合に理由を付記した書面を交付すべきことを定めています。もっとも、そもそも有罪判決を受けないことが最も確実な防御です。令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28パーセントで、全体の40.38パーセントより高くなっています。
よくある三つの誤解
誤解の多くは、早く帰国したいという思いから生まれます。第一に、認めれば早く帰れるという理解です。認否は処分の重さに直結し、調書はその後の違反審査の資料にもなります。
第二に、執行猶予なら在留は安全だという理解です。薬物事件では執行猶予でも入管法24条4号チに該当します。第三に、家族が謝罪と送金をすれば終わるという理解です。被害弁償は重要ですが、送金の原資の説明を求められることもあり、弁護人を通すのが安全です。
当事務所の対応
当事務所では、松村大介弁護士が接見と打合せに直接対応します。中国語については外国人事件専属の通訳が常駐しており、その他の言語については事案に応じて通訳人を手配します。
弁護方針としては、執行猶予判決ではなお在留への影響が残る場面があることを踏まえ、不起訴処分の獲得を最優先の目標に据えます。刑事事件と入管手続は切り離さず、供述調書が後の違反審査や口頭審理で使われることを見越して一体で設計します。退去強制事由の該当性についても、故意や過失の有無を含めて争う視点を持ち続けます。初回相談は無料です。微信IDはmatsumura1119です。
おわりに
逮捕の連絡を受けた直後は、情報が少なく、時間だけが過ぎていきます。それでも、留置先を特定し、弁護人を選び、本人の生活の実体を示す資料を集めるという三つの作業は、本国にいながら進められます。本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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この記事のベトナム語版はこちらです:https://matsumura-lawoffice.jp/blog/detail/2026099001/
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