入管法24条4号ロ・ハの構造|不法残留と資格外活動は、なぜ刑の軽重を問わないのか
2026/07/20
当ブログでは、これまで入管法24条4号リ(無期又は1年を超える拘禁刑)と同号チ(薬物関係等)の構造を取り上げてまいりました。本記事では、実務上もっとも数の多い類型でありながら、その構造が正確に理解されていない4号ロ及びハを扱います。この二つの号は、リ・チとは根本的に異なる論理で組み立てられており、その違いを踏まえずに見通しを立てることはできません。
刑罰型の号と、状態型の号
24条4号の各事由は、性質の異なるものが並んでおります。リやチは、刑事裁判で一定の刑に処せられたことを要件とする、いわば刑罰型の号でございます。これに対し、ロ及びハは、刑事処分を経ているかどうかを問わず、在留の状態そのものを要件とする、状態型の号でございます。この区別は、実務上決定的な意味を持ちます。刑事事件で不起訴となっても、退去強制事由が残る場合があるのは、この構造によるものでございます。
4号ロ(不法残留)の構造
4号ロは、在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者を、退去強制事由として定めております。ここには、刑に処せられたという要素は一切含まれておりません。在留期間が経過し、なお在留しているという客観的な状態が認定されれば、それだけで該当いたします。したがって、不法残留について起訴されず、あるいは罰金にとどまった場合であっても、退去強制事由としては存続いたします。「刑事は終わったのに、なぜ入管の手続が続くのか」という疑問は、ここに由来するものでございます。
4号ハ(資格外活動)の構造
4号ハは、資格外活動許可を受けないで、専ら在留資格に属さない収入を伴う事業を運営し又は報酬を受ける活動を行って在留する者を、退去強制事由といたします。ここで注意を要するのは、「専ら」という文言でございます。本来の在留活動を行いつつ、その傍らで許可の範囲を超える就労をした場合と、本来の活動を実質的に行わず就労に終始した場合とでは、評価が分かれ得ます。留学の在留資格をお持ちの方が学業を継続しているかどうかが、実務上しばしば問題となるのは、この文言に理由がございます。この点は、争う余地の残された論点でございます。
状態型の号に対して、どう向き合うか
刑罰型の号であれば、不起訴を獲得することで該当性そのものを回避できます。しかし状態型の号については、その道が使えません。ここでの防御は、二段構えになります。第一に、該当性を争う。特にハについては、「専ら」の要件を満たすかを条文に即して争う余地がございます。第二に、該当性を前提としたうえで、在留特別許可(入管法50条)を求める。令和5年改正により、考慮事情が同条5項各号に明示されましたので、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留の期間、退去強制の理由といった各号を逐一トレースして主張を組み立てることが、現在の実務における基本形でございます。
なお残る、根本的な問題提起
状態型の号は、行為者の認識や落ち度を要件としておりません。在留資格の更新申請が受理されないまま期間が経過した、勤務先の説明を信じて許可の範囲外の業務に従事していた、といった事情があっても、条文上は該当してしまいます。行政処分であることを理由に、責任の要素を一切問わないというこの構造が、憲法の要請に照らして本当に許容されるのか。当事務所は、不法就労助長の事案において、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとしてきた従来の実務そのものを問う訴訟を、現在係争中でございます。刑事事件の段階から故意・過失を丁寧に争っておくことは、その後の入管手続における主張の基礎を成すものでございます。
当事務所のご案内と解決事例
当事務所は、入管の実務において「当然の前提」とされてきた枠組みを、条文と憲法に立ち返って問い直すことを、弁護活動の柱の一つとしてまいりました。
たとえば、不法就労助長の罪に問われ強制退去の危機に立たされた女性の事案において、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする従来の実務を覆すべく、責任主義の射程を問う訴訟を係争中でございます。行政処分であれば責任の要素を問わなくてよいという理解が、憲法31条や13条の要請に照らして維持できるのかという問題提起でございます。
また、ストーカー規制法に基づく警告の取消しを求めた控訴事件では、警告は単なる行政指導にとどまらず法的な効果を持つとして、警察側の主張が排斥された判決を得ております(令和6年6月26日大阪高裁判決)。行政実務上「処分ではない」と扱われてきたものの性質を、正面から問い直した事案でございます。
在留特別許可の局面では、入管庁が公表する過去の許可事例を年度をまたいで分析し、同種の事情について許可の実績があるにもかかわらず本件のみ不許可とすることは、合理的な理由のない別異の取扱いであると主張する手法を用いております。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更につきましても、提携の行政書士と連携し、ワンストップでご相談をお受けしております。
おわりに
条文の構造を正確に押さえることは、悲観するためではなく、どこに争う余地が残されているかを見極めるために必要な作業でございます。号ごとの違いを踏まえた見通しを立てることから、方針は具体的になってまいります。
なお、本記事は令和8年7月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別の事案につきましては弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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