「日本人と結婚すれば在留資格がもらえる」という誤解|婚姻と在留は、別々に審査される
2026/07/20
在留資格に不安を抱えた状態で、日本人の方との結婚を考えていらっしゃる方から、「結婚すれば在留資格は出ますか」というご質問をよくいただきます。結論から申し上げますと、婚姻が成立したからといって、在留資格が当然に与えられるわけではございません。この誤解は、時に取り返しのつかない選択につながることがございますので、その構造を整理してまいります。
婚姻の成立と、在留資格の付与は別の話
婚姻の成立は民法上の問題であり、在留資格の付与は入管法上の問題でございます。日本人と婚姻すれば「日本人の配偶者等」の在留資格に該当し得る地位は生じますが、それは在留資格が認められるための必要条件にすぎず、十分条件ではございません。入管は、婚姻の実態が伴っているか、これまでの在留状況に問題がなかったか、生計を維持する能力があるかといった点を、別途審査いたします。婚姻届が受理されたことと、在留が認められることの間には、なお高い壁がございます。
すでに退去強制事由がある場合、話はさらに複雑になる
不法残留の状態にある方が日本人と婚姻された場合、退去強制事由(入管法24条4号ロ等)が消えるわけではございません。この場合に問題となるのは、在留資格の変更ではなく、退去強制手続の中での在留特別許可(入管法50条)でございます。令和5年改正入管法により、申請の手続が法定され、考慮事情が同条5項に明示されました。婚姻の実態、日本国籍を有する子の有無、在留の期間、発覚の経緯が出頭申告か摘発か、素行といった事情が、総合的に判断されることになります。婚姻はこの中の一要素であって、決め手として単独で働くものではございません。
この誤解が招く、最も危険な選択
もっとも危険なのは、この誤解が「形だけでも婚姻すればよい」という判断に傾く場合でございます。婚姻の意思を欠く届出は、公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)に該当し得るほか、それを前提とした在留資格の取得は、偽りその他不正の手段による許可として、より重い評価を受けます。在留資格を得ようとした行為が、かえって退去強制と刑事責任の双方を招く結果となる。この逆転は、実務で現実に起きております。
では、婚姻には意味がないのか
そのようなことはございません。実態のある婚姻は、在留特別許可の判断において重要な考慮事情でございます。申し上げたいのは、婚姻が「自動的な解決」ではなく、「主張と立証を要する事情の一つ」であるということでございます。同居の実態、家計の状況、交際に至る経緯、周囲の方々の認識といった事柄を、資料に基づいて具体的に示していく作業が、そこには必要になります。入管庁が公表している過去の許可事例を年度をまたいで分析し、同種の事情について許可の実績があることを示す手法も、有効な場面がございます。
当事務所のご案内と解決事例
当事務所は、婚姻・認知といった身分関係の問題と、在留資格・刑事手続とが絡み合う事案を、数多く取り扱ってまいりました。
たとえば、観光目的で来日された方が日本人女性との間にお子様を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案がございます。婚姻と認知の手続が未了であったため当局から一旦は受理されない状況にございましたが、憲法的な観点から当局と交渉して手続を実現させ、刑事裁判では在留を見据えた被告人質問と証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど得られない中で有利な証拠を積み上げ、過去の許可事例を分析した結果、在留特別許可を一度の申請で獲得しております。
また、不法就労助長の罪に問われ強制退去の危機に立たされた女性の事案では、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた従来の実務そのものを問う訴訟を、現在係争中でございます。行政処分であることを理由に責任の要素を一切問わない扱いが、憲法の要請に照らして許されるのかという問題提起でございます。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更につきましても、提携の行政書士と連携し、ワンストップでご相談をお受けしております。
おわりに
在留資格の不安を抱えながら結婚を考えるというのは、それ自体が重いご事情でございます。安易な近道をお示しすることはいたしませんが、正面から通る道が本当にないのかを、資料に基づいて一緒に検討させていただくことはできます。
なお、本記事は令和8年7月時点の法令に基づく一般的な解説であり、個別の事案につきましては弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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