中国人経営者が刑事事件で問われたとき「経営・管理」の在留資格はどうなりますか
2026/09/05
会社を経営していれば、自分が手を下していない出来事でも責任を問われることがあります。雇った従業員の在留資格、税務の処理、労働時間の管理、取引先とのやり取り。そのいずれかが刑事事件になったとき、日本人の経営者であれば刑事処分だけで済むところ、外国人の経営者は「経営・管理」の在留資格まで同時に失いかねません。しかも令和7年10月16日施行の基準省令改正で、更新のハードルは以前と同じではなくなりました。
本記事の要点
- 経営者が問われやすいのは、不法就労助長、在留資格に関する虚偽申請への関与、税のほ脱、労働法令違反、詐欺(給付金等)の五類型です。
- 不法就労助長は、刑事処罰を受けなくても退去強制事由(入管法24条3号の4)に該当し得る点で、他の犯罪と構造が違います。
- 「経営・管理」は別表第一の在留資格であるため、詐欺・文書偽造・窃盗等では執行猶予付きの判決でも退去強制事由(同法24条4号の2)に該当します。
- 令和7年10月16日施行の基準省令改正により、資本金3,000万円以上、常勤職員1人以上等が求められるようになりました(経過措置があります)。
- 刑事処分・在留資格取消し・更新不許可は別の手続であり、どれか一つを免れても在留が守られるとは限りません。
経営者が問われやすい刑事事件にはどのような類型がありますか
相談として多いのは次の五類型です。いずれも在留への波及の仕方が異なるため、罪名ではなく波及経路で整理する必要があります。
| 類型 | 主な根拠 | 在留への主な影響 |
|---|---|---|
| 不法就労助長 | 入管法73条の2 | 行為があれば退去強制事由(24条3号の4)。刑事処罰は要件ではない |
| 在留資格の虚偽申請への関与 | 入管法上の罪、私文書偽造等 | 申請した本人の在留資格取消しにも波及する |
| 税のほ脱 | 法人税法・所得税法・消費税法 | 列挙罪ではないが更新の素行要件で強く不利に働く |
| 労働法令違反 | 労働基準法・最低賃金法等 | 同上。許認可や入札にも影響し得る |
| 詐欺(給付金・取引) | 刑法246条 | 執行猶予付きでも24条4号の2に該当し得る |
「不法就労だと知らなかった」という説明は通りますか
不法就労助長罪は、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定められています(入管法73条の2)。実務では、在留カードの原本を確認したか、資格外活動許可の有無と就労内容の対応を確かめたか、専門家に相談したかが問われます。画像データを送らせただけで原本を見ていない、就労資格を知りながら業務内容を確認していないといった事情があると、知らなかったという説明はかえって不利に働きます。
もっとも、確認を尽くしていたのに偽造在留カードを見抜けなかった場合まで当然に責任を負うわけではありません。当事務所は、この類型では確認の履歴を再現することを弁護の中心に据えます。加えて、退去強制事由の判断にも故意・過失の要件が及ぶべきであるという主張を展開しています。不法就労助長罪が認定された事件で在留特別許可を得た実績がありますが、結果は個別の事情によります。不法就労・オーバーステイもあわせてご覧ください。
有罪になると「経営・管理」の在留資格はどうなりますか
「経営・管理」は入管法別表第一の在留資格です。別表第一の在留資格で在留する方が、刑法の一定の章の罪(窃盗・強盗、詐欺・恐喝、盗品等、文書偽造、支払用カード電磁的記録、住居侵入、傷害等)により拘禁刑に処せられた場合、執行猶予付きであっても退去強制事由に該当します(同法24条4号の2)。永住者や日本人の配偶者等であればこの号は適用されませんが、経営・管理の方には適用されます。
他方、税のほ脱や労働法令違反は列挙されていません。この場合、1年を超える実刑でなければ退去強制事由(同法24条4号リ。全部執行猶予は除かれます)には当たりませんが、在留期間更新の素行要件で不利に働き、更新不許可という形で在留を失うことがあります。どの号に触れるかで結論が変わるため、罪名を聞いた段階で号を特定することが出発点になります。
令和7年10月16日施行の基準省令改正は更新にどう影響しますか
「経営・管理」の上陸許可基準を定める省令が改正され、令和7年10月16日から、資本金又は出資の総額が3,000万円以上であること、日本に居住する常勤職員を1人以上雇用すること、申請人本人に3年以上の事業の経営・管理の経験又はこれに相当する学位があること、申請人本人又は常勤職員に一定水準以上の日本語能力があること、事業計画について第三者の評価を受けることといった要件が求められるようになりました。従前の資本金500万円という水準からは、大きな変更です。
施行前から在留している方には経過措置が設けられています。ご自身の更新にどの基準が適用されるかは、在留期限と経過措置の内容を個別に確認する必要があります。刑事事件との関係で重要なのは、事件を機に事業規模を縮小したり、従業員を失ったりすると、素行の問題とは別に、新しい基準への適合そのものが危うくなるという点です。刑事弁護の方針を決める段階から、事業をどう維持するかを同時に考えなければなりません。
在留資格の取消しと更新の不許可はどう違いますか
在留資格取消し(入管法22条の4)は、偽りその他不正の手段で許可を受けた場合や、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合等に、期間の途中で在留資格を失わせる制度です。刑罰ではありません。出入国在留管理庁の統計によれば、令和7年の在留資格取消しは1,446件で過去最高となり、うち「経営・管理」は5件でした。件数は多くありませんが、事業の実体が失われれば対象になり得ます。
更新不許可は、在留期限が来たときに次の期間を認めないという判断です。取消しのように途中で切られるわけではありませんが、結果として在留を失う点は同じです。刑事処分、取消し、更新不許可は別々の手続であり、不起訴になっても事業実体がなければ取消しの問題は残ります。外国人の刑事事件と在留の全体像もご確認ください。
会社そのものも処罰されますか
されることがあります。不法就労助長罪をはじめ、行為者を罰するほか法人にも罰金刑を科す両罰規定が置かれている罪では、代表者個人の刑事責任と法人の刑事責任が並行して問題になります。法人が処罰されれば、許認可、金融機関との取引、取引先との契約に影響が及びます。経営者個人の在留と、会社の存続は連動しているため、弁護方針もこの二つを同時に扱う必要があります。
弁護活動としては何を優先しますか
第一に、起訴前の段階で不起訴処分を目指します。執行猶予付きの判決でも別表第一の在留資格は失われ得るため、有罪判決そのものを作らないことが最も確実な防御になります。第二に、刑事と入管を同じ弁護士が担当し、受任時に入管法24条のどの号が問題になるかを特定して、在留特別許可や更新の準備を刑事弁護と並行して進めます。第三に、事業の維持です。従業員の雇用、事務所の賃貸借、取引先への説明をどう保つかは、後の更新審査の材料になります。松村大介弁護士本人が全工程を直接担当し、外国人事件専属の中国語通訳が在籍しています。微信で中国のご家族や本社と直接連絡を取ることもできます。ご相談はお問い合わせから。
よくある質問
従業員が勝手に他店でも働いていた場合、経営者の責任はどうなりますか
自社での就労が資格の範囲内であれば、他社での資格外活動について当然に責任を負うわけではありません。ただし、掛け持ちを知りながら黙認していた、労働時間の管理を放置していたといった事情があると、認識の有無が争点になります。
罰金で終われば、在留への影響はありませんか
罰金は拘禁刑ではないため、24条4号の2・4号リには該当しません。しかし不法就労助長は行為自体が退去強制事由になり得ますし、罰金前科が更新の素行要件で不利に働くことはあります。影響がないとは言えません。
会社をたたんで別の在留資格に変更することはできますか
就労系の資格への変更は、受入企業と職務内容が要件を満たすかで判断されます。刑事事件があると素行の面で審査は厳しくなります。事業を閉じる判断は、変更の見通しを確認してからにしてください。
永住許可を申請中に刑事事件になったらどうなりますか
素行が善良であることが要件とされているため、審査に影響します。手続の進行と処分の見通しを踏まえ、申請を維持するか取り下げるかを検討することになります。
中国本社から派遣された立場でも同じですか
在留資格が別表第一である限り、24条4号の2の適用は同じです。企業内転勤等でも構造は変わりません。本社への報告と日本での弁護方針が食い違わないよう、早い段階で整理してください。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。結論は罪名、在留資格、事業の状況その他の事情によって変わります。具体的なご事情は弁護士にご相談ください。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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