傷害・暴行で逮捕されたら示談と在留資格はどうなりますか|中国籍の方の事件
2026/09/05
職場での口論から手が出た、酒席でつかみ合いになった、施設の従業員と押し合いになった。傷害・暴行の疑いで逮捕された中国籍の方のご相談で最初に整理すべきは、示談をどう進めるかと、その結果が在留資格にどう跳ね返るかの二点です。この二つは別の問題に見えて、実際には一本の線でつながっています。示談の成否が起訴・不起訴を分け、拘禁刑の判決を受けたときに在留資格の種類で結論が大きく変わるからです。
本記事の要点
- 暴行罪も傷害罪も刑法第2編第27章の罪であり、入管法24条4号の2が列挙する章に含まれます。
- そのため、別表第一の在留資格(留学、技術・人文知識・国際業務、家族滞在等)の方が拘禁刑に処せられた場合は、執行猶予付きであっても退去強制事由に該当します。
- 罰金にとどまれば同号には該当しません。拘禁刑と罰金の境目が、在留の分かれ目になります。
- 示談は起訴・不起訴を分ける最大の要素であり、被害者の方が外国人である場合には言語・送金・帰国の三点に固有の難しさがあります。
- 当事務所は起訴前の不起訴処分の獲得を最優先の目標に置き、刑事弁護と入管手続をひとつの事件として扱います。
暴行罪と傷害罪はどう違いますか
けがを負わせたかどうかで分かれます。相手の身体に不法な有形力を加えれば暴行罪が成立し、その結果として傷害の結果が生じれば傷害罪になります。刑法208条の暴行罪は2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料、204条の傷害罪は15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。死亡の結果が生じれば傷害致死罪となり、法定刑は3年以上の有期拘禁刑です。
実務では、診断書に何が書かれているかが処分を大きく左右します。全治数日の打撲であれば示談による不起訴が十分に見込めますが、骨折や後遺症を伴えば見通しは変わります。凶器を用いた場合や複数人で加えた場合には暴力行為等処罰法の適用が問題となり、量刑は一段重くなります。
法務省の令和7年版犯罪白書によれば、令和6年の来日外国人の傷害(暴行等を含む)の終局処理人員は1,519人、起訴率は25.69%でした。日本人を含む全体の28.86%より低く、他の罪名と比べても起訴されない事件の割合が高い類型です。裏を返せば、起訴前の弁護活動が最も結果に反映されやすい分野だということです。
示談はどのように進めればよいですか
被害者の方の連絡先は、多くの場合、捜査機関から弁護人にのみ、しかも被害者の方の同意を得たうえで伝えられます。ご本人やご家族が独自に連絡を取ろうとすれば、罪証隠滅のおそれと評価され、勾留や保釈の判断に直接響きます。まず弁護人を選任することが、示談の入口になります。
示談書には、弁償額のほか、宥恕の意思、接触しない旨の約束、口外しない旨の合意を、被害者の方の意向に沿って盛り込みます。とりわけ宥恕文言、すなわち処罰を求めないという意思の記載は、起訴猶予の判断で大きな意味を持ちます。傷害罪・暴行罪は親告罪ではないため告訴の取消しだけでは終わりませんが、被害者の方が処罰を望まないことは重い事情として扱われます。
令和6年の来日外国人の被疑事件の起訴猶予率は48.35%で、およそ半数が起訴されずに終わっています(令和7年版犯罪白書)。この半数に入れるかどうかを決めるのは、勾留期間という限られた時間のなかで、弁償の原資を用意し、被害者の方の納得を得られるかどうかです。ご家族が中国におられる場合は、送金に要する日数を逆算して動く必要があります。
被害者が外国人の場合、何が違いますか
三つの点で難しさが増します。第1に言語です。日本語だけの示談書では、被害者の方が内容を理解できず後日の紛争の種になります。当事務所は日本語と中国語を併記した示談書を用い、通訳を介して条項の意味を確認したうえで署名をいただいています。
第2に送金です。被害者の方が既に帰国していれば弁償金を国外へ送ることになりますが、銀行の確認手続に時間を要します。手渡しや第三者名義の口座を使う方法は、後の証明が困難になるうえ別の問題を招きかねません。正規の経路を用い、送金記録を証拠として残します。
第3に帰国です。被害者の方が技能実習生や留学生であれば、在留期限や実習期間の関係で早期に帰国することがあります。帰国後は連絡が取りにくくなり、示談の機会そのものが失われます。逆に当事者双方が同じ職場である場合には、実習や就労の継続が事実上困難となり、失職から在留資格に対応する活動を行っていない状態に陥る危険もあります。職場内の暴力は、刑事と在留の双方に同時に及びます。
有罪になると在留資格はどうなりますか
刑の種類と在留資格の種類の組合せで決まります。暴行罪・傷害罪・傷害致死罪はいずれも刑法第2編第27章の罪であり、入管法24条4号の2が列挙する章に含まれます。同号は、別表第一の在留資格をもって在留する方が列挙された章の罪により拘禁刑に処せられたことを要件とし、執行猶予付きであっても該当します。他方、別表第二の在留資格者と永住者は同号の対象外です。
| 刑の種類 | 別表第一(留学・技術人文知識国際業務・家族滞在等) | 別表第二(永住者・日本人の配偶者等・定住者) |
|---|---|---|
| 不起訴 | 退去強制事由に非該当 | 退去強制事由に非該当 |
| 罰金 | 非該当。更新・変更の素行要件で不利 | 非該当 |
| 拘禁刑・執行猶予付き | 24条4号の2に該当 | 非該当。更新の素行要件では不利 |
| 実刑・1年以下 | 24条4号の2に該当 | 非該当。ただし更新は困難 |
| 実刑・1年を超える | 24条4号の2及び4号リに該当 | 4号リに該当。定着性による在留特別許可の余地は相対的に大きい |
この表から読み取っていただきたいのは、別表第一の方にとって、実刑か執行猶予かではなく、拘禁刑か罰金かが分かれ目になるという点です。傷害事件で執行猶予判決を得て安心していたところ、判決確定後に入管から呼出しを受けるという経過は、決してまれではありません。より詳しい枠組みは外国人の刑事事件と在留のページで整理しています。
在留期間の更新には影響しますか
退去強制事由に該当しない場合でも、在留期間の更新・在留資格の変更の審査では素行が善良であることが求められます。罰金前科であっても、反復した事案や態様が重い事案では不利に働き、更新が認められないことがあります。更新が認められなければ、在留期間の満了によって在留を失うという、退去強制とは別の経路が動きます。
あわせて注意が必要なのは、事件をきっかけに職や在学の身分を失う場合です。出入国在留管理庁の統計によれば、令和7年の在留資格取消件数は1,446件で過去最高となり、うち留学が23.7%を占めました。刑事事件そのものよりも、事件に伴う身分の喪失が在留を失わせることがあるのです。外国人の傷害・暴行事件のページもご覧ください。
短期滞在中に事件を起こした場合はどうなりますか
身柄拘束が長期化しやすい点に注意が必要です。日本国内に住居も身元引受人もない場合、逃亡のおそれがあるとして勾留が認められやすく、保釈も通りにくくなります。報道によれば、令和8年7月にRecord Chinaが伝えた福岡市の事案では、短期滞在中の中国籍の男性が商業施設で従業員と口論となり暴行の疑いで現行犯逮捕され、押し返しただけだと否認していると報じられました。逮捕の報道であり、有罪が確定したものではありません。
短期滞在の方は、暴行罪で罰金となっても退去強制事由には当たりません。しかし次に入国しようとする際の上陸審査で前科の有無を申告する場面が生じます。旅行者だからこそ、早期の示談と帰国の見通しを同時に立てる必要があります。
当事務所はどのように対応しますか
当事務所は執行猶予判決ではなく、起訴前の不起訴処分の獲得を最優先の目標に据えています。別表第一の在留資格の方にとって、傷害・暴行は執行猶予でも退去強制事由となる類型だからです。刑事弁護と入管手続をひとつの事件として扱い、刑事段階のうちから在留手続に必要な資料を整えます。逮捕直後の接見から在留手続まで松村弁護士本人が一貫して対応し、外国人事件専属の中国語通訳が接見に同行します。微信(WeChat ID:matsumura1119)で中国本国のご家族とも直接やり取りでき、弁償金の準備や身元引受けの相談を時差なく進められます。
ご相談の窓口は中国人の刑事事件・在留のご相談、関連する疑問は外国人刑事・在留Q&Aにまとめています。本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。
よくある質問
示談ができれば不起訴になりますか
そうとは限りません。傷害罪も暴行罪も親告罪ではないため、被害者の方が処罰を望まないと述べても検察官は起訴できます。もっとも示談の成立と宥恕の意思は起訴猶予の判断で大きな比重を占め、けがの程度が軽く前科がない事案では、結論を左右する要素になります。
執行猶予がついても帰国しなければなりませんか
別表第一の在留資格の方は、傷害・暴行で拘禁刑に処せられた場合、執行猶予付きであっても入管法24条4号の2に該当します。別表第二の在留資格者と永住者は同号の対象外ですが、1年を超える実刑であれば4号リに該当します。該当した場合でも在留特別許可を求めることはできますが、許否は個別の事情によります。
被害者が帰国してしまいました。示談はもうできませんか
できないわけではありません。連絡先が判明していれば、通訳を介した電話や書面のやり取りで交渉を進め、弁償金を送金したうえで示談書を郵送で取り交わす方法があります。時間がかかるため、帰国の予定が判明した時点で速やかに着手することが重要です。
正当防衛を主張できますか
相手から先に手を出された事案では検討に値します。もっとも、応戦の程度が反撃として必要な範囲を超えていれば過剰防衛にとどまり、双方が殴り合った経過であれば喧嘩闘争として正当防衛が認められにくくなります。現場の防犯カメラ映像や目撃者の確保が早期にできるかどうかが結論を分けます。
永住者でも退去強制されることがありますか
入管法24条4号の2は別表第一の方のみを対象とするため、永住者には適用されません。したがって傷害罪で執行猶予付き判決を受けても、同号によって退去強制の対象となることはありません。他方、1年を超える実刑を定める4号リは永住者にも適用されます。退去強制・在留特別許可・監理措置のページもご覧ください。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119