中国人の方が日本で逮捕されてから起訴・不起訴が決まるまで|72時間と23日間の流れ
2026/09/05
日本で暮らすご家族が、ある日突然警察に連れて行かれる。電話はつながらず、どこの警察署にいるのかも分かりません。中国本土のご家族のもとに日本の捜査機関から連絡が入ることは、まずないからです。それでも、この最初の数日の動き方で事件の結論は変わります。逮捕の瞬間から起訴・不起訴が決まるまでの流れを、時間の単位で追って整理します。
本記事の要点
- 逮捕から72時間以内に勾留を請求するかどうかが決まり、そこから最長20日の勾留を経て、逮捕から通算23日以内に起訴・不起訴が決まります。
- 起訴前にご本人と立会人なしで会えるのは弁護人だけであり、接見等禁止決定が付くとご家族は面会も手紙もできません。
- 令和6年の来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35%で、およそ半数は起訴されずに終わっています。
- 日本には起訴前の保釈がなく、中国の取保候審に相当する制度は捜査段階にありません。
- 身柄拘束が続く間に在留期限が到来すると、刑事事件とは別に不法残留の問題が生じます。
逮捕された直後の72時間には何が起きますか
最初の72時間で決まるのは、ご本人が釈放されるか、勾留されて長期の身柄拘束に入るかです。警察は逮捕から48時間以内に事件と身柄を検察官に送り(刑事訴訟法203条1項)、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に、裁判官に勾留を請求するか釈放するかを決めます(同法205条1項)。
この間、ご本人は警察署の留置施設に置かれ、連日取調べを受けます。捜査機関がご家族や勤務先に連絡する義務はありません。勤務先の同僚や同居のご友人から「連絡が取れない」と伝わって初めて事態が分かる、という経過をたどることが少なくありません。
この段階で最も有効なのは、弁護人を選任して接見してもらうことです。弁護人は回数や時間の制限なく、立会人なしでご本人と会えます(同法39条1項)。勾留が決まるまでの間に外へ情報を出し、外から情報を届けられる経路は、弁護人以外にありません。
勾留が決まると、身柄拘束はいつまで続きますか
勾留は原則10日間、やむを得ない事由があると認められればさらに最長10日間延長されます(刑事訴訟法208条1項・2項)。逮捕からの通算では最長23日間です。この日数の中で捜査が終わり、検察官が終局処分を決めます。
| 段階 | 法律上の期限 | この段階で起きること |
|---|---|---|
| 逮捕 | 48時間以内に検察官へ送致 | 取調べが始まる。捜査機関に家族へ通知する義務はない |
| 検察官への送致 | 受領から24時間以内、かつ逮捕から72時間以内 | 釈放するか、裁判官に勾留を請求するかが決まる |
| 勾留質問 | 勾留請求の当日または翌日 | 裁判官がご本人に事情を聞き、勾留するかどうかを判断する |
| 勾留 | 原則10日間 | 連日の取調べ。共犯事件では接見等禁止決定が付くことが多い |
| 勾留の延長 | さらに最長10日間 | やむを得ない事由があると認められたとき |
| 終局処分 | 逮捕から通算23日目まで | 公判請求、略式命令請求、または不起訴が決まる |
勾留の裁判に不服があるときは準抗告を申し立てることができ(同法429条1項2号)、勾留の理由を公開の法廷で明らかにするよう求めることもできます(同法82条)。いずれも弁護人が動く必要があり、ご家族だけでは進められません。
家族にはいつ連絡が来て、いつ面会できますか
「何時間以内に家族へ通知する」という規定は日本にはありません。ご家族が状況を知る現実的な経路は、弁護人を通じる方法か、ご本人が留置施設から出す手紙です。手紙は検閲を経るため日数がかかります。
さらに、共犯者がいる事件では、裁判官が勾留と同時に接見等禁止決定を出すことがあります(同法81条、207条1項による準用)。この決定が付くと、弁護人以外は面会も手紙も差入れもできません。令和6年中の来日外国人の刑法犯における共犯事件率は41.1%で、日本人の12.5%の約3.3倍です(警察庁「令和6年における組織犯罪の情勢」)。特殊詐欺、資金洗浄、不法就労、薬物の運搬といった類型では、接見等禁止が付くことを前提に考えておくのが安全です。
なお、逮捕された外国人には、自国の領事機関への通報と領事による接見を求める権利があります(領事関係に関するウィーン条約36条1項(b))。もっとも領事は弁護活動をする立場にはありません。刑事手続と在留手続の関係は外国人の刑事事件と在留のページで整理しています。
この23日間に、ご家族には何ができますか
できることは多くあります。むしろ、この期間にご家族が動けるかどうかで、不起訴を求める材料がそろうかどうかが決まります。
第一に、留置されている警察署と罪名の確認です。この二つが分かれば、弁護人は接見に向かえます。第二に、被害者のいる事件では示談と被害弁償の準備です。中国本土からの送金は外貨管理上の手続に日数を要するため、着手が遅れると23日間に間に合いません。第三に、在留カード、旅券、雇用契約書または在学証明書、住居や家族関係の資料の収集です。これらは勾留を争う場面でも、検察官に不起訴を求める場面でも、後の在留手続でも使います。
第四に、身元引受人の確保です。会社の上司、学校の関係者、日本に住むご親族など、監督を引き受け書面で意思を示せる方の有無は、勾留や保釈の判断に影響します。第五に、事件の内容を通信アプリでやり取りしないことです。関係者との連絡は罪証隠滅のおそれがあると評価されかねません。
取調べでは何に気をつければよいですか
供述するかどうかはご本人が決められます。憲法38条1項は自己に不利益な供述を強要されない旨を定め、刑事訴訟法198条2項は取調べに先立って供述を拒むことができる旨を告げなければならないと定めています。
外国人事件で特に問題になるのは通訳です。取調べの通訳は捜査機関が手配します。共謀の有無や認識の程度を詰める場面では、言い回しの違いが調書の意味を変えてしまうことがあり、内容を十分に理解しないまま署名すれば、後から覆すことは容易ではありません。調書は訂正を求めることができ、署名押印そのものを拒むこともできます。
令和6年の被告人通訳事件の通常第一審終局人員は4,649人、通訳言語は41言語に及び、中国語は726人で全体の15.6%でした(法務省「令和7年版犯罪白書」)。当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、捜査機関の通訳とは別に、ご本人のために動く立場の通訳が接見に同席します。
23日目には、どのような結論が出ますか
結論は大きく三つに分かれます。公判請求、略式命令請求、そして不起訴です。
| 終局処分 | 内容 | 身柄と在留への影響 |
|---|---|---|
| 公判請求 | 公開の法廷で審理される。身柄拘束は判決まで続くのが原則 | 有罪判決の内容によって退去強制事由への該当が問題になる |
| 略式命令請求 | 100万円以下の罰金・科料の事件で、ご本人の同意を前提に書面審理で終わる | 罰金は拘禁刑ではないが、薬物事件は罰金でも退去強制事由に該当する |
| 起訴猶予 | 嫌疑はあるが、事情を考慮して起訴しない処分(刑事訴訟法248条) | 有罪判決が存在しないため、刑罰を要件とする退去強制事由には該当しない |
| 嫌疑不十分・嫌疑なし | 証拠上、犯罪の証明が困難な場合の不起訴 | 同上 |
令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%でした(法務省「令和7年版犯罪白書」)。日本人を含む総数の起訴率40.38%を上回る一方で、およそ半数は起訴されずに終わっています。ここが外国人刑事事件の主戦場です。詳しくは外国人刑事・在留Q&Aもご覧ください。
この期間の対応は、在留資格にどう影響しますか
刑事手続の結論は、そのまま在留資格の帰趨につながります。入管法24条は退去強制事由を号ごとに定めており、有罪判決があることを要件とする号と、実刑でなければ該当しない号があります。薬物事件は有罪判決を受けたこと自体で該当し(24条4号チ)、罰金でも執行猶予でも、在留資格の種類を問いません。別表第一の在留資格の方が窃盗、詐欺、傷害等の列挙された罪で拘禁刑に処せられた場合は、執行猶予が付いても該当します(同条4号の2)。
不起訴であれば有罪判決が存在しないため、これらの号にはいずれも該当しません。当事務所が執行猶予判決ではなく不起訴処分の獲得を最優先の目標に据えているのは、この構造があるからです。刑の種類と在留資格の組合せごとの帰結は退去強制・在留特別許可・監理措置のページで整理しています。
見落とされやすいのが在留期限です。身柄拘束が続く間に在留期間が満了すると、更新を申請できないまま不法残留(同条4号ロ)の状態に陥ります。令和7年の退去強制令書発付は単独事由の集計で7,722人、うち5,778人が不法残留です(出入国在留管理庁「出入国管理統計」)。刑罰そのものより、身柄拘束の副次的な結果として在留を失う方が数の上では多いのです。
よくある質問
逮捕されたことは会社や学校に知られますか
捜査機関が勤務先や学校に通知する義務はありません。もっとも身柄拘束が長引けば欠勤や欠席が続くため、事実上知られることは避けにくくなります。在留資格の基礎が雇用契約や学籍にある方は、この点が後の更新にも影響します。
当番弁護士や国選弁護人ではいけませんか
いずれも有用な仕組みです。ただ当番弁護士の接見は原則として一回であり、被疑者国選弁護人が選任されるのは勾留が決まった後です。逮捕直後の72時間に動くこと、中国語の通訳を弁護人側で確保すること、中国本土のご家族と直接連絡を取り合うことを重視される場合は、私選での対応に意味があります。
起訴される前に保釈で出ることはできますか
できません。保釈を請求できるのは起訴された後であり、中国の取保候審に相当する制度は日本の捜査段階にはありません。起訴後は、権利保釈の除外事由(刑事訴訟法89条)に当たらなければ保釈が認められ、当たる場合でも裁量保釈(同法90条)の余地があります。外国人の事件では、住居と身元引受人の疎明が結論を左右しやすくなります。
中国本土にいる家族でも弁護士に依頼できますか
できます。ご家族が窓口となって手配を進め、最終的にご本人が委任の意思を示す形をとります。当事務所は微信(WeChat ID:matsumura1119)でご家族と直接やり取りしており、来日が難しい方からのご依頼にも対応しています。中国語での説明は中文页面をご覧ください。
不起訴になれば、すぐに帰国できますか
刑事手続からは解放されますが、在留資格の状況次第では入管の手続が残ります。在留期限が切れている場合や、資格外活動が問題になっている場合には、釈放後に入国管理の手続へ移ることがあります。釈放の見込みが立った段階で、その後の見通しも併せて確認しておくことをお勧めします。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。見通しは罪名、在留資格、在留歴、家族関係などの事情によって変わります。具体的なご事情はお問い合わせからご相談ください。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆:松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/登録番号59077)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)代表。外国人の刑事事件と在留(退去強制・在留特別許可)を主たる注力分野とし、中国語圏の依頼者の事件を数多く取り扱う。外国人事件専属の中国語通訳が在籍し、逮捕直後の接見から在留手続まで弁護士本人が一貫して対応する。
舟渡国際法律事務所
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