被害者が示談に応じてくれないとき 贖罪寄付と供託という選択肢
2026/09/01
刑事事件で処分を軽くしたいと考えたとき、最も効果があるのは被害者との示談です。しかし現実には、被害者が話し合いそのものを拒む、連絡先が分からない、そもそも特定の被害者がいない、という場面が少なくありません。この記事では、示談ができないときに残されている手段として、供託と贖罪寄付を取り上げ、それぞれが量刑や処分の判断でどこまで評価されるのか、どこからは評価されないのかを、率直に説明します。中国から資金を送るご家族に向けて、段取りの注意点も書きます。
示談ができない場面を、三つに切り分ける
ひとくちに示談ができないと言っても、中身は三つに分かれます。第1は、被害者の連絡先が分からない場面です。第2は、連絡は取れるが、被害者が謝罪も弁償も受け取らないと明言している場面です。第3は、そもそも特定の被害者が存在しない事件、たとえば薬物事犯や入管法違反、道路交通法違反などの場面です。どの場面かによって、次に取るべき手段が変わります。第1と第2では供託が視野に入り、第3では贖罪寄付が中心になります。第2の場面でも、被害感情が極めて強い事件では、無理に接触を試みること自体が逆効果になりますので、弁護人が慎重に見極めます。
被害者の連絡先が分からないときはどうするのか
捜査機関は、被害者の氏名や住所を被疑者側に自由に教えるわけではありません。実務では、弁護人が検察官に対し、示談交渉のために連絡先を教示するよう求め、検察官が被害者に意向を確認したうえで、弁護人限りで開示するという扱いが行われます。被害者が開示を望まなければ教えてもらえません。この場合、弁護人を通じて検察官に「弁償の意思があること」「金額を用意していること」を伝え、その経過を書面に残しておくことに意味があります。用意していたのに受け取ってもらえなかったという事実と、初めから何もしていなかったという事実は、量刑の判断で同じには扱われません。
供託は、受け取ってもらえない弁償を形に残す方法です
供託は、弁償金を法務局の供託所に預ける制度です。被害者が受領を拒んでいる、あるいは被害者の所在が分からないといった事情があるときに用います。供託をすると、いつ、いくらを、誰のために用意したのかが公的な記録として残り、その書面を裁判所に提出できます。ただし、供託は示談と同じではありません。示談には、被害者が処罰を求めないという意思表示(宥恕)が伴うことがあり、これが不起訴や執行猶予の判断に大きく働きます。供託にはその意思表示がありませんので、評価の重みは示談に及びません。それでも、弁償の原資を実際に用意し、相手方のために確保したという事実は、反省が言葉だけでないことを示す資料になります。
贖罪寄付は何のために行い、どこまで評価されるのか
贖罪寄付は、弁護士会や公益的な団体に対して寄付を行い、その受領証明を提出するものです。被害者のいない事件で用いられることが多く、被害者がいる事件でも、示談も供託もできない場合の補充として行われます。寄付先は、弁護士会が行っている法律援助事業のように、寄付金の使途が公益に充てられることが明らかな団体を選びます。評価の重みは示談や供託より軽く、それ自体で処分が変わるものではありません。位置づけとしては、被害の回復に代わる負担を自ら引き受けた事実として、反省の内容を裏づける一資料です。金額の多寡だけを強調しても意味は薄く、収入や資力との釣り合い、寄付に至った経緯、その後の生活の立て直しの計画と併せて示すことで、初めて説得力を持ちます。
被害者に直接連絡してはいけない理由
ご家族が善意から被害者に直接連絡を取ろうとする例がありますが、これは避けてください。示談を求める接触は、事件によっては罪証を隠滅する行為、あるいは被害者を威迫する行為と評価される危険があります。その結果、保釈が認められなくなったり、勾留が続いたりすることがあります。被害者との連絡は、一律に弁護人を通して行ってください。この点は、中国での慣行と日本の刑事手続の運用が最も食い違いやすいところです。
ご家族が今日から準備できること
弁償や寄付には現金が要ります。中国からの送金は着金までに日数がかかり、金額によっては銀行から資金の出所の説明を求められます。判決の期日が決まってから動くのでは間に合わないことがあるため、事件の見通しが立った段階で、日本国内の口座に原資を用意しておくことをお勧めします。あわせて、勤務先の在籍証明、住居の賃貸借契約書、家族関係を示す資料も、早めに集めておくと、弁護人が量刑の資料として組み立てやすくなります。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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