日本の窃盗の量刑を左右するもの 示談・被害弁償・前科・常習性
2026/09/01
日本の量刑には、中国の量刑指導意見のような数値化された基準表が公開されていません。そのため「いくら盗んだら何年」という換算を探しても見つかりません。もっとも、裁判所が何を見ているかには明確な型があります。この記事では、窃盗の量刑を実際に動かしている要素を、被害弁償と示談、同種前科、常習性の認定、余罪の扱いという四つに整理し、それぞれがどの段階で効くのかを説明します。中国籍の方のご家族が、どの順番で動けばよいかが分かるように書きました。
量刑は「行為」と「行為者」の二つの軸で決まる
日本の量刑判断は、まず犯情、すなわち行為そのものの重さを見て大枠を定め、次に一般情状、すなわち行為者側の事情で幅の中の位置を調整するという順序で行われます。犯情に属するのは、被害額、手口の計画性、侵入の有無、共犯者内での役割、被害の回復状況です。一般情状に属するのは、前科前歴、反省、就労状況、家族の監督、再犯防止の具体策です。順序が大切です。どれほど熱心に反省文を書いても、犯情が重い事件の大枠は動きません。逆に、犯情が軽い類型では、一般情状の充実が起訴猶予や執行猶予を引き寄せます。
被害弁償と示談は、いつ、どの段階で効くのか
被害弁償が最も効くのは起訴前です。逮捕から起訴・不起訴の判断まで最大23日という短い期間に弁償と示談が成立すれば、検察官は起訴猶予を選びやすくなります。法務省『令和7年版犯罪白書』(対象年次は令和6年)によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35%でした。起訴後であっても、示談は量刑上有利に働き、執行猶予の可否を左右します。実務上の分岐は、金額よりも時期です。判決直前に持参された弁償は、間に合ったとしても評価が下がります。示談書には、被害の弁償が済んだこと、被害者が処罰を求めないこと、この件について他に請求しないことを明記します。被害者が氏名や連絡先を知られたくない場合には、弁護人が窓口となって匿名のまま処理する方法があります。
同種前科の重みと、常習性の認定
前科の中でも、同種前科は突出して重く評価されます。同じ類型を繰り返しているという事実は、再犯のおそれという判断に直結するからです。さらに、盗犯等の防止及び処分に関する法律には、常習として窃盗を繰り返した者を加重して処罰する規定があり、一定の前科要件を満たすと法定刑の下限が引き上げられます。この規定が適用されると、被害額が小さくても執行猶予に届かせることが難しくなります。加えて、前の裁判の執行猶予期間中の再犯では、刑法26条による執行猶予の必要的取消しの問題が生じます。この場合、新しい事件の刑と、取り消された前の刑とを合わせて服役することになりかねません。
立件されていない余罪はどう扱われるのか
複数の窃盗が同時に起訴された場合は併合罪として処理され、最も重い罪の刑が一定の範囲で加重されます。問題は、起訴されていない余罪の扱いです。日本の判例実務では、起訴されていない犯罪事実を実質的に処罰する趣旨で量刑に用いることは許されないとされる一方、被告人の性格や常習性を判断する資料として考慮することは否定されていません。この境界は微妙で、取調べで安易に多数の余罪を認める供述をすると、常習性の認定に使われることがあります。他方、後から余罪で再逮捕されれば身柄拘束は長期化します。何を認め、何を争うかは、事件全体の見通しを立てたうえで決めるべき事柄であり、単独の判断で答えるべきではありません。
数字で見る、動ける余地
同じ白書によれば、窃盗の起訴率は来日外国人52.53%、全体44.84%で、来日外国人の終局処理人員は3,890人でした。ここでいう来日外国人は、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者等を除く統計上の概念です。また、通訳を要する被告人の第一審有罪人員4,388人のうち、全部執行猶予の割合は全罪名で85.3%、入管法違反を除くと74.8%でした。約半数が起訴猶予で終わり、起訴された場合でも多くが執行猶予である。この二つの数字は、起訴前の弁護活動に投じた労力が結果に反映されうることを示しています。
在留資格への波及と、ご家族の準備
量刑は、そのまま在留の帰趨に接続します。入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑を退去強制事由としますが、但書により全部執行猶予は除かれます。したがって、執行猶予を得られるかどうかは、在留の可否を分ける実務上の分水嶺になります。ご家族には、弁償の原資を早く用意すること、身元引受人を決めること、住居と就労先または通学先が維持されていることを示す資料を集めること、そして勤務先や学校への説明の時期を弁護人と相談してから決めることをお願いしています。準備が整っている事件ほど、限られた23日を有効に使えます。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------