略式命令の罰金は前科になるのか 同意する前に考えておくこと
2026/09/01
警察署や検察庁で、書類にサインをすれば罰金を払って早く終わる、と説明を受けることがあります。これは略式手続への同意を求められている場面です。早く身柄が解かれるという言葉に安心して署名してしまう方は少なくありません。しかし、罰金は前科であり、外国籍の方にとっては在留資格に影響し得る処分です。この記事では、略式手続とは何か、同意にどういう意味があるのか、罰金が在留にどう関わるのか、そして納得できないときに正式裁判を求める道があることを説明します。判断の材料を持たないまま署名しないでください。
結論。罰金も前科である
まず結論をはっきりさせます。罰金は刑罰です。刑罰である以上、有罪の裁判を受けたことになり、いわゆる前科になります。不起訴とはまったく違います。中国語圏の方の中には、罰金を行政上の過料や違反金のようなものと理解している方がいらっしゃいますが、日本の刑事手続における罰金は、拘禁刑と並ぶ刑罰の一種です。略式命令によって科される場合でも、それは裁判所が出す有罪の判断であって、内容としては刑事裁判を受けたことと変わりません。ですから、早く終わるという利点だけを見て決めてよい問題ではないのです。とりわけ、後の在留資格の審査や、将来の再入国の場面で、この処分の存在が問われる可能性があります。
略式手続とは何か。同意は何に対する同意か
略式手続は、比較的軽微で争いのない事件について、公開の法廷を開かずに、書面の審理だけで一定額以下の罰金または科料を科す手続です。手続が短く済み、身柄が解かれるのが早いという利点があります。この手続を進めるには被疑者の同意が必要で、同意は、公開の法廷で審理を受ける権利を行使しないことに対する同意という意味を持ちます。したがって、同意した時点で、法廷で事実関係を争う機会を自ら手放すことになります。法務省『令和7年版 犯罪白書』によれば、令和6年に来日外国人について略式命令請求がされたのは836人で、公判請求7,153人と合わせた起訴人員の一部を占めています。決して珍しい処理ではありませんが、珍しくないことと、自分の事件でそれを選ぶべきかは別の問題です。
罰金と在留資格の関係。罪名によって意味が変わる
ここが最も重要な部分です。出入国管理及び難民認定法(入管法)の退去強制事由のうち、24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますから、罰金はこれに当たりません。しかし、24条4号チの薬物関係は、有罪判決のみで足り、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、在留資格の別表を問いません。つまり、薬物事犯で罰金を受け入れることは、退去強制事由に自ら当たりに行くことを意味し得ます。さらに、上陸拒否についても、入管法5条1項5号の薬物関係には九号のような年限がなく、期間の定めのない上陸拒否となります。罰金でも該当し、外国の法令に違反した場合も含まれます。再入国するには上陸特別許可(12条1項)によるほかありません。同じ罰金でも、罪名によって重みがまるで違うのです。
薬物以外でも、罰金が響く場面がある
薬物以外にも注意すべき場面があります。資格外活動については、入管法24条4号ヘが、73条の罪で拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としています。不法残留罪は70条1項5号で、法定刑は柱書により三年以下の拘禁刑もしくは三百万円以下の罰金、またはその併科とされており、罰金となることもあります。また、罰金それ自体が退去強制事由に当たらない場合でも、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が考慮されますから、処分の存在が評価の対象になります。出国命令の要件についても、24条の3第3号は一定の罪で拘禁刑に処せられていないことを求めており、4号リのような執行猶予の除外規定がない点に注意が必要です。自分の罪名がどの規定に結び付くのかを、同意の前に確認する必要があります。
納得できないときは、正式裁判を求めることができる
略式命令を受けた後でも、その内容に納得できない場合には、正式な裁判を求めることができます。これを正式裁判の請求といい、公開の法廷で審理を受け直すことになります。ただし、請求できる期間は法律で定められており、非常に短いものです。告知を受けたその場で、いつまでに請求できるのかを必ず確認してください。期間を過ぎると略式命令は確定し、以後は争えなくなります。外国籍の方の場合、告知の書面が日本語で届き、内容を理解しないまま期間が過ぎてしまう危険があります。書類を受け取ったら、内容が分からなくても捨てずに保管し、直ちに弁護士に見せてください。そして、そもそも同意を求められた段階で弁護人に相談していれば、この局面自体を避けられることが多いのです。
同意してよい場合と、慎重に考えるべき場合
整理します。同意を検討してよいのは、事実関係に争いがなく、罪名が在留に直接響く類型ではなく、早期に身柄が解かれること自体に大きな価値がある場合です。他方、慎重に考えるべきなのは、事実関係に争いがある場合、薬物関係など罪名自体が退去強制事由や期間の定めのない上陸拒否に結び付く場合、そして永住申請や在留資格の変更を控えている場合です。判断の前に確認すべきことは四つあります。罪名は何か、その罪名が入管法のどの規定に結び付くか、自分の在留資格は別表第一か別表第二か、そして請求期間はいつまでか。中国語圏のご家族から、後になって、あのとき署名しなければよかったというご相談を受けることがあります。署名の前に一度、弁護士に確認する時間を取ってください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------