起訴猶予とは何か 同じ不起訴でも中身が違うことを知っておく
2026/09/01
弁護人から「起訴猶予を目指しましょう」と言われたけれど、それが何を意味するのかよく分からない。中国語の情報では暫緩起訴と訳されることが多く、中国の制度と同じものだと思って理解が食い違うこともあります。この記事では、日本の起訴猶予とは何か、どのくらいの割合で用いられているのか、検察官は何を見て判断するのか、示談と身元引受はその中でどう位置づけられるのか、そして起訴猶予になった後に何が残るのかを説明します。目指すべき結論を正確に理解することは、限られた時間を何に使うかを決めることでもあります。
起訴猶予は、不起訴の一種である
起訴猶予とは、検察官が、犯罪の嫌疑は認められるけれども、諸般の事情を考慮して起訴しないと判断することです。不起訴処分の一つの類型であり、裁判は開かれず、有罪判決も刑罰もありません。中国の制度における暫緩起訴のように、一定期間の考察を経て改めて判断する仕組みではなく、その時点で終局的に起訴しないと決める処分です。取消しや再起の可能性が法律上まったくないわけではありませんが、実務上は事件が終わる処分として扱われます。ここが中国語圏の方に誤解されやすい点で、猶予という語感から、期間中に何かあれば起訴されるのだろうと考えてしまう方がいます。基本的には、その事件はそこで終わると理解して差し支えありません。
どのくらいの割合で使われているのか
法務省『令和7年版 犯罪白書』によれば、令和6年の来日外国人の起訴猶予率は48.35%でした。終局処理人員1万8,696人のうち、起訴猶予は7,478人です。外国人全体では起訴猶予率48.92%、起訴猶予は9,348人でした。長期的に見ると、来日外国人の起訴猶予率は平成15年の27.93%から平成26年の58.48%まで上昇し、その後は令和4年50.04%、令和5年51.80%、令和6年48.35%と推移しています。起訴率のほうは平成13年の68.74%から令和6年の44.28%へと長期的に低下しました。約半数が起訴猶予になっているという事実は、起訴前の弁護活動が結果を左右する余地が現に存在することを示す、最も重要な数字です。
検察官は何を見て判断するのか
判断の枠組みは、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重と情状、そして犯罪後の状況を総合するものです。実務に引き直すと、次のような点が問題になります。行為そのものの重さ、すなわち被害の大きさ、計画性の有無、凶器の使用、組織的な形態への関与の程度。次に、前科・前歴の有無と、同種事案を繰り返していないか。そして犯罪後の事情として、被害が回復されているか、被害者の処罰感情はどうか、本人が事実を認め反省しているか、再び同じことをしない環境が整えられているか。外国籍の方の場合には、身元を引き受ける人がいるか、住居と収入が安定しているか、在留資格が有効かといった点も、逃亡や再犯の可能性を測る材料として見られます。これらは、家族が動くことで変えられる要素を多く含んでいます。
示談と被害弁償の位置づけ
被害者のいる事件では、被害弁償と示談が判断を大きく動かします。理由は明快で、刑罰を科す必要性を測るうえで、被害が現実に回復されたかどうかが重い意味を持つからです。示談で宥恕、すなわち被害者が許すという意思が示されれば、その意味はさらに大きくなります。ただし、宥恕が得られなくても弁償には意味があります。被害の回復という事実自体が考慮されるからです。被害者が特定できない類型の事件や、被害者が受け取りを拒む場合には、贖罪寄付や供託といった方法を検討します。時間の制約も忘れないでください。勾留は最大20日であり、その枠内で交渉をまとめる必要があります。中国のご家族が資金を用意する場合は、送金に要する日数を逆算して早く動く必要があり、この点は別の記事で詳しく説明しています。
身元引受と生活環境の整備
身元引受人とは、本人の生活を監督し、手続に応じさせることを約束する人です。日本にいる配偶者、親、勤務先の上司、学校の教職員などが引き受けることがあります。書面で、誰が、どこに住まわせ、どのように監督し、収入をどう確保するのかを具体的に示します。外国籍の方の場合、勤務先が事件を理由に退職扱いにしてしまうと、在留資格に応じた活動を継続していない状態に近づき、入管法22条の4第5号の取消事由が視野に入ってきます。刑事のためだけでなく在留のためにも、勤務先や学校との関係をどう保つかは早い段階で考える必要があります。いつ、誰が、何を説明するかは弁護人と相談して決めてください。先に説明したほうがよい場合と、処分が決まるまで待つべき場合があります。
起訴猶予になった後に残るもの
起訴猶予は有罪判決ではありませんから、前科にはなりません。しかし、事件があったという記録は捜査機関に残ります。そして、入管の判断は刑事とは別に行われます。起訴猶予は嫌疑が認められることを前提とする処分ですから、嫌疑がないことを理由とする不起訴とは、在留資格の更新や変更の審査における意味合いが異なり得ます。この違いについては、三つの不起訴を扱う記事で詳しく説明しています。実務的には、起訴猶予を得た後に、不起訴処分の告知を検察官に請求して書面を確保し、在留期間の満了日を確認し、勤務先や学校との関係を回復し、入管から説明を求められた場合に備えることが必要です。刑事が終わった時点が、入管対応の始まりだと考えてください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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