日本の有罪率が高いという話 その数字は何を意味しているのか
2026/09/01
日本で起訴されたら終わりだ、有罪率が極めて高いから争っても無駄だ。中国語圏のインターネットでよく見かける言い方であり、ご家族から実際にこの言葉を聞かされることもあります。この記事では、その数字が何を測っているのかを整理し、起訴に至るまでに何が起きているのか、罪名によって起訴のされやすさがどれほど違うのか、そして起訴された後に争うことにどんな意味があるのかを、公的統計を示しながら説明します。なお、しばしば引用される具体的な有罪率の数値については、年次と出典を当事務所として確認できたものに限って扱う方針のため、本記事では数値そのものを掲げません。代わりに、その数字が生まれる仕組みを説明します。
有罪率が高いという現象は、公判の前で作られている
日本の刑事手続では、検察官が起訴するかどうかを決める段階で、相当に絞り込みが行われます。証拠が十分でない事件、処罰の必要が高くないと判断された事件は、公判に持ち込まれません。その結果、起訴された事件だけを分母にすると、有罪の割合が高くなります。これは公判で何でも有罪になるという意味ではなく、公判に来る前の段階でふるいにかけられているという構造の反映です。ですから、この構造を前提にすれば、弁護の重心がどこに置かれるべきかがはっきりします。起訴された後に争う場面ももちろんありますが、より多くの事件では、起訴されるかどうかが決まる前の段階、すなわち逮捕から最大20日ほどの勾留期間が勝負どころになるのです。
起訴の前に何が起きているか。数字で見る
法務省『令和7年版 犯罪白書』によれば、令和6年の来日外国人の検察庁終局処理人員は1万8,696人でした。その内訳は、公判請求7,153人、略式命令請求836人、起訴猶予7,478人、その他の不起訴2,576人、家庭裁判所送致653人です。起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%となります。つまり、検察庁で処理された事件のうち、約半数が起訴猶予という形で不起訴になっているのです。日本人を含む総数の起訴率は40.38%ですから、来日外国人の起訴率はこれを3.9ポイント上回っています。なお、起訴率は起訴人員を起訴と不起訴の合計で割ったもの、起訴猶予率は起訴猶予人員を起訴と起訴猶予の合計で割ったもので、家庭裁判所送致は分母から除かれます。分母の取り方を変えると数字は変わりますので、他所で見た数字と食い違うときは、まず分母を確認してください。
罪名によって起訴率はまったく違う
起訴率という一つの数字で語ると見誤ります。同じ令和6年の来日外国人について罪名別に見ると、窃盗は52.53%(全体は44.84%)、詐欺は53.35%、殺人は65.85%、強盗は56.58%、文書偽造は59.18%です。特別法犯では、覚醒剤取締法が71.88%、関税法が76.21%と高く、入管法は47.75%、大麻取締法は45.19%、銃刀法は20.57%です。他方で、傷害(暴行等を含む)は25.69%、横領(遺失物等横領を含む)は4.61%と低くなっています。この差は、事案の性質、被害弁償や示談が可能かどうか、被害の程度、そして常習性の有無などを反映しています。ご自身の事件がどの罪名で扱われているかによって、起訴猶予を目指す現実的な余地の大きさが違うということです。
起訴された後に争うことの意味
起訴されたら何をしても同じ、ということはありません。第一に、無罪を争う場面は現に存在します。事実関係に争いがある事件、故意の有無が問題になる事件、共犯としての関与の程度が争われる事件では、公判で主張すべきことがあります。第二に、有罪であることを前提としても、量刑を争う実益は非常に大きいのです。犯罪白書によれば、令和6年の被告人通訳事件の有罪人員は4,388人(前年比23.3%増)で、全部執行猶予率は全罪名で85.3%、入管法違反を除くと74.8%でした。実刑と執行猶予の差は、外国籍の方にとっては在留の帰趨に直結します。第三に、公判で認定される事実の内容自体が、後の入管手続で在留を判断する際の前提になります。何をどう認定されるかは、刑の重さだけの問題ではないのです。
統計を読むときに間違えやすい三つの点
第一に、来日外国人という統計上の区分は、在留外国人一般ではありません。警察庁の定義では、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者、在日米軍関係者、在留資格不明者を除いた外国人を指します。令和7年末の在留外国人統計では中国籍の在留者は930,428人ですが、うち永住者357,565人と永住者の配偶者等21,762人、特別永住者610人は、そもそもこの統計の母集団に入っていません。第二に、検挙人員の増加をそのまま治安の悪化と読むのは誤りです。令和6年の来日外国人の検挙件数は前年比20.5%増ですが、同じ時期に在留外国人数も外国人入国者数も大きく増えています。母数の変化を無視した比較は成り立ちません。第三に、統計表には長期の時系列を保つために古い刑名の表記が残っている箇所がありますが、令和4年改正刑法により、現在の自由刑は拘禁刑に一本化されています。
今日、家族ができること
数字を眺めて絶望する必要はありませんし、逆に楽観する必要もありません。実務的に言えば、やるべきことは起訴前と起訴後で違います。起訴前であれば、被害弁償の原資の確保、身元引受人の確保、勤務先や学校との調整、そして弁護人による検察官への働きかけです。起訴された後であれば、保釈の準備、公判で何を争うのかの整理、そして判決後に続く入管手続への備えです。中国語圏のご家族から見て分かりにくいのは、日本の手続では時間の区切りが厳格で、区切りを過ぎると選択肢が消えるという点だと思います。逮捕から72時間、勾留10日、延長10日という枠は待ってくれません。数字を調べる時間があれば、まず弁護人に事件の現在地を確認してください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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