弁護人を付けずに裁判を受けるとどうなるか。必要的弁護事件とは何か
2026/09/01
費用のことが心配だから、あるいは通訳が付くのだから、弁護士を頼まずに裁判を受けようと考える方がいます。中国語圏のご相談でも、法廷で通訳が付くなら自分で説明できるのではないか、というお尋ねをよくいただきます。日本の刑事手続には、重い罪については弁護人がいなければ審理を開けないという仕組みがあります。しかし、その仕組みが働かない事件も数多くあり、そこにこそ落とし穴があります。この記事では、弁護人が必要とされる事件の範囲、弁護人がいないまま進む手続の危うさ、そして通訳が弁護人の代わりにならない理由を説明します。
弁護人がいなければ開廷できない事件があります
日本の刑事訴訟法は、死刑または無期もしくは長期3年を超える拘禁刑に当たる罪の事件について、弁護人がいなければ審理を開くことができないと定めています。これを必要的弁護事件と呼びます。窃盗、詐欺、傷害、覚醒剤取締法違反、入管法違反の多くはこの範囲に入ります。被告人が弁護人を選ばない場合には、裁判所が国選弁護人を付けます。つまり、重い事件については、頼まなくても弁護人が付く仕組みになっています。
危ないのは、その仕組みが働かない手続です
問題は、必要的弁護の枠に入らない手続です。第1に、身柄が拘束されない在宅事件。呼び出しを受けて取調べに応じ、そのまま起訴されることがあります。第2に、略式手続です。検察官が請求し、本人が書面で同意すると、法廷を開かずに書面審理だけで罰金の命令が出ます。手続が短く、その場で終わる印象を与えますが、罰金であっても有罪の裁判であり、前科として記録に残ります。外国籍の方にとっては、この記録が後の在留期間の更新や在留資格の変更の審査で素行の評価に影響し、罪名によっては上陸拒否の判断にも関わります。内容をよく理解しないまま同意書に署名してしまうことが、実務で最も多い後悔の一つです。
通訳人は、あなたの味方として働く人ではありません
法廷の通訳人は、裁判所が公正な訴訟のために選任する中立の立場の人であり、被告人の利益のために弁論をしたり証拠を集めたりする役割は負っていません。取調べに付く通訳も同じです。法務省『令和7年版犯罪白書』によれば、令和6年の被告人に通訳を要した通常第一審の終局人員は4649人で、通訳言語は41言語に及び、そのうち中国語は726人(15・6%)と第2位です。最多はベトナム語の1794人で、中国語のおよそ2・5倍にあたります。通訳の需要は大きい一方で、言葉が通じることと、法律上の主張が組み立てられることはまったく別です。
弁護人がいるかどうかで実際に変わること
弁護人がいる場合に動く場面は、法廷の外に多くあります。
- 勾留の裁判に対する不服申立て(準抗告)や、勾留の期間延長への意見
- 被害者との示談交渉。被害者の連絡先は通常、本人には知らされません
- 検察官に対する不起訴の働きかけ。来日外国人の起訴猶予率は令和6年で48・35%(法務省『令和7年版犯罪白書』)であり、起訴前の活動には意味があります。なお、統計にいう来日外国人とは、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者、在日米軍関係者、在留資格が不明な方を除いた外国人をいい、在留外国人一般とは母集団が異なります
- 起訴後の保釈請求と、証拠に対する意見の組立て
- 刑事処分の後に続く入管手続を見越した資料の確保
本人が拘束されている状態で、これらを自分で行うことは事実上できません。
国選と私選の使い分け
資力が一定の基準に満たない場合には、勾留された段階から国選弁護人を請求できます。費用を理由に弁護人を付けないという選択をする前に、まず国選の制度を使えないかを確認してください。そのうえで、中国語での意思疎通、入管手続まで見通した方針、示談交渉の進め方を重視するのであれば、私選の弁護人を検討する余地があります。どちらを選ぶにせよ、弁護人が付かないまま手続が進む状態を放置しないことが出発点です。
ご家族が最初にできること
本人が拘束されている場合、配偶者や親、兄弟姉妹などのご家族は、本人に代わって弁護人を選任することができます。逮捕から勾留請求までの時間は限られていますので、連絡がついた時点で、留置されている警察署名、逮捕された日、罪名、在留資格の種類と在留期限、勤務先または学校をまとめておいてください。この5点が分かれば、弁護士は初回の接見までに準備すべきことを判断できます。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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