逮捕されたら必ず起訴されるのか 来日外国人の起訴率と起訴猶予率を読む
2026/09/01
「日本で逮捕されたら、もう終わりだ」という言葉を、中国語圏の掲示板でよく見かけます。実際の数字はどうなのでしょうか。この記事では、法務省『令和7年版犯罪白書』(対象年次は令和6年)と警察庁の統計に基づいて、来日外国人の起訴率と起訴猶予率を、年次と出典を明示しながら読み解きます。あわせて、この種の数字が誤って引用されやすい点、とりわけ「来日外国人」という言葉の定義について注意を促します。
まず結論。約半数は起訴猶予である
法務省『令和7年版犯罪白書』によれば、令和6年の検察庁における来日外国人被疑事件の終局処理人員は18,696人でした。その内訳は、公判請求7,153人、略式命令請求836人、起訴猶予7,478人、その他の不起訴2,576人、家庭裁判所送致653人です。ここから、起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%となります。逮捕されたら必ず起訴されるわけではなく、むしろ約半数が起訴猶予、つまり不起訴で終わっているというのが実際の姿です。
日本人を含む全体との比較
同じ令和6年、日本人を含む総数の起訴率は40.38%でした。来日外国人の44.28%は、これを3.9ポイント上回っています。この差をどう読むかは慎重を要します。罪名の構成が異なること、身体拘束の状況が異なること、示談の成立しやすさが異なることなど、複数の要因が絡みます。少なくとも、国籍そのものが起訴の判断基準になっているという読み方はできません。ただし、外国籍の方の事件のほうが、示談や環境の整備といった不起訴に向けた活動を早く始める必要があるという実務的な含意はあります。
罪名によって大きく違う
同白書の罪名別の数字を見ると、来日外国人の起訴率は罪名によって大きく変わります。窃盗は52.53%(全体は44.84%)、詐欺は53.35%(全体51.42%)、傷害等は25.69%(全体28.86%)、覚醒剤取締法違反は71.88%(全体74.20%)、関税法違反は76.21%(全体66.92%)、遺失物等横領を含む横領は4.61%(全体22.22%)です。薬物や関税の事件では大半が起訴され、傷害や横領では起訴されない割合が高い。「逮捕された」という一語では見通しは立たず、罪名ごとに見なければ意味がありません。
統計の定義に注意する
ここで重要な注意点があります。警察庁がいう「来日外国人」とは、日本に存在する外国人のうち、永住者、永住者の配偶者等、特別永住者といった定着居住者、在日米軍関係者、在留資格不明者を除いた者をいいます。つまり、永住者の方の事件は、この統計の母集団に入っていません。在留外国人統計(令和7年12月末)によれば、中国籍の在留者は930,428人で国籍別の第1位ですが、そのうち永住者は357,565人です。この層は「来日外国人」統計の外側にいます。数字を引用するときは、どの母集団の数字なのかを必ず確認してください。
起訴率と起訴猶予率は分母が違う
もう一つの落とし穴が分母です。起訴率は、起訴人員を、起訴人員と不起訴人員の合計で割ったものです(家庭裁判所送致は除きます)。起訴猶予率は、起訴猶予人員を、起訴人員と起訴猶予人員の合計で割ったものです。分母が違いますから、両者を足しても100%にはなりません。「不起訴率」と言い換えると数値が変わってしまいます。ネット上の記事では、この二つが混同されていることが少なくありません。
長期の推移も見ておく
来日外国人の起訴猶予率は、平成15年に27.93%でしたが、平成26年には58.48%まで上昇し、令和4年50.04%、令和5年51.80%、令和6年48.35%と推移しています。起訴率は平成13年の68.74%から令和6年の44.28%へと長期的に低下しました。二十年前と現在とでは、外国人被疑事件に対する検察の処理は大きく変わっています。古い時期の体験談や、二十年前の情報をもとにした助言は、現在の実務には当てはまりません。
数字を自分の事件に活かすには
起訴猶予率が約半数であるということは、起訴されるかどうかが、事件そのものだけでなく、起訴前の活動によって左右される余地が大きいということを意味します。被害者のいる事件であれば被害弁償と示談、生活環境については身元引受人と住居の確保、就労状況の証明、再発防止の具体策。これらを、勾留期間という限られた時間の中でそろえられるかどうかが分かれ目になります。そして、不起訴となれば有罪判決を前提とする退去強制事由の問題は生じません。統計は、あきらめる理由ではなく、急ぐ理由として読むべきものです。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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