逮捕されずに捜査が進む在宅事件 呼び出しを軽く見てはいけない理由
2026/09/01
警察に事情を聞かれたが、その日のうちに帰された。押収された物もあるが、その後は何の連絡もない。こうした状態を、日本の実務では在宅事件と呼びます。逮捕されなかったのだから終わったのだろう、と考える方が非常に多いのですが、これは危険な誤解です。在宅のまま捜査は続き、数か月後に起訴されることがあります。この記事では、在宅事件の実際の流れ、呼出しを無視した場合に何が起きるか、そして在留資格の手続との時期のずれをどう扱うかを説明します。
在宅事件とは何か
在宅事件は、被疑者の身体を拘束せずに捜査を進める形態をいいます。逮捕には、逃亡や罪証隠滅のおそれという理由が必要ですから、住居が定まっていて、仕事や学校があり、逃げる見込みが乏しいと判断されれば、逮捕されないまま捜査が進みます。外国籍の方の場合、在留資格があり、勤務先が明確で、家族が日本にいるといった事情が、この判断を支えます。逮捕されなかったことは、嫌疑が晴れたことを意味しません。事件は書類の形で検察官へ送られ、そこで起訴か不起訴かが判断されます。
時間の流れがまったく違う
身体を拘束された事件では、逮捕から最長でも二十三日ほどで起訴か不起訴かが決まります。在宅事件にはこの期限がありません。数か月、事案によっては一年を超えて動きがないこともあります。その間に警察や検察から呼出しがあり、二度、三度と取調べを受けます。連絡が途絶えたからといって終わったわけではなく、忘れたころに検察庁から出頭の通知が届く、というのが典型的な経過です。何も起きていない期間こそ、弁護人を選任して被害弁償や示談の交渉を進める時間として使うべき期間です。
呼出しを無視するとどうなるか
呼出しに応じない、連絡先を変えて所在が分からなくなる、という対応を取ると、逃亡のおそれがあると評価され、それまで不要だった逮捕状が請求されることがあります。在宅で進んでいた事件が身柄事件に変わる典型的な引き金がこれです。仕事の都合で行けない日があるのは当然のことですから、その場合は日程の調整を申し出てください。無視ではなく調整であることが伝われば、直ちに不利益にはつながりません。転居や帰国の予定があるときは、必ず事前に相談してください。とりわけ、事件が終わらないうちに出国すると、公訴時効が停止する取扱いがあり(刑事訴訟法255条1項)、時間が経てば消えるという期待は成り立ちません。
在宅でも起訴される。略式命令という道もある
在宅事件の終わり方は三つに分かれます。不起訴、略式命令、公判請求です。略式命令は、比較的軽い罰金相当の事件について、本人の同意のもとに書面審理で罰金を科す手続で、法廷に出る必要はありません。手続としては簡便ですが、罰金も刑罰であり、前科として記録に残ります。ここが外国籍の方にとって重要な分岐点です。「法廷に行かずに済むから」と安易に同意するのではなく、罰金を受けることが在留にどう響くかを確認してから判断すべき場面です。法務省『令和7年版犯罪白書』によれば、令和6年の来日外国人被疑事件の起訴率は44.28%、起訴猶予率は48.35%でした。約半数は起訴猶予、すなわち不起訴となっています。
在留手続との時期のずれが問題になる
刑事手続と入管手続は別々に進みます。ここでずれが生じます。在宅事件が続いている間に在留期間の更新時期が来ることは珍しくありません。在留期間の更新は法務大臣の裁量に委ねられており、素行が考慮されます。捜査中で処分が決まっていない段階では、入管がその点をどう評価するかは事案によって異なり、審査が長引くこともあります。更新申請の際に係属中の事件について尋ねられたときに、虚偽の説明をすることは絶対に避けてください。出入国在留管理庁の統計では、令和7年の在留資格取消件数は1,446件と過去最高で、その69.1%は住居地の届出義務違反等(入管法22条の4第1項第6号)でした。手続上の不誠実が独立した不利益を生むことを示す数字です。
今日から準備できること
在宅事件の期間は、実は最も弁護活動の効き目が大きい時間帯です。被害者のいる事件であれば、被害弁償の原資を確保し、弁護人を通じて謝罪と示談の申入れを行うことができます。身体を拘束されていないため、勤務先の上申書、家族の身元引受書、税や社会保険の納付状況、通院の記録といった資料を、本人が自分で集められます。これらは不起訴を求める意見書の中身になり、その後に入管手続が必要になった場合にもそのまま使えます。何もしないで待っていた数か月と、材料を積み上げた数か月とでは、結論が変わり得ます。
ご家族と勤務先・学校への説明
在宅事件では、いつ勤務先や学校に伝えるかという判断が難しくなります。伝えるのが早すぎれば処遇に影響し、遅すぎれば隠していたと受け取られます。一般論として、起訴されて公判が開かれる見込みが出た段階では、勤務先に説明し、就労の継続について合意を得ておくほうが、その後の在留資格の手続に耐えられる形になります。判断に迷うときは、事件の見通しと合わせて弁護人に相談してください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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