日本の警察の取調べで黙秘できるのか 署名押印を拒めるのか
2026/09/01
「日本の警察に調べられているが、黙っていてよいのか」「サインを求められたが、断れるのか」。中国語圏の相談サイトで最も多く投げかけられる問いの一つです。答えは、黙秘することはできますし、署名押印を拒むこともできます。しかし、これらは使い方を誤ると身体拘束を長引かせる原因にもなります。この記事では、黙秘権、署名押印を拒む権利、調書の増減変更を申し立てる権利という三つの武器を、実際の取調室でどう使うのかという水準まで具体的に説明します。
黙秘できるのか。まず結論
できます。日本国憲法は、何人も自己に不利益な供述を強要されないことを定め、刑事訴訟法は、被疑者を取り調べるにあたり、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないと定めています。この告知は、日本語を解しない被疑者に対しては通訳を介して行われます。告知を受けたのに意味が分からなかった、という事態は珍しくありませんので、「今の説明の意味が分かりません。もう一度説明してください」と述べてください。黙秘は、質問のすべてに答えないことも、特定の質問にだけ答えないことも含みます。
黙秘したら不利になるのか
黙秘したこと自体を理由に有罪と推認することは許されません。ただし、現実の身体拘束の場面では別の作用が働きます。事実関係を争う姿勢を示すと、検察官は罪証を隠滅するおそれがあると主張しやすくなり、勾留や勾留延長、接見等禁止が付きやすくなる傾向があります。つまり、黙秘は法的には安全でも、身柄の面では代償を伴い得ます。他方で、言葉の通じない状況で不正確な供述を残せば、その一枚の書面が公判まで生き続けます。どちらの不利益を取るかは事案によって異なりますから、方針は必ず弁護人と決めてください。初回の接見までは、何も答えずに待つという選択が、多くの場合、最も安全です。
署名押印は拒めるのか
拒めます。供述調書は、捜査官が作成した文章に、本人が署名し押印して初めて完成します。刑事訴訟法は、被疑者が署名押印を拒んだ場合にはこれを求めることができないという趣旨の規定を置いており、署名押印のない供述調書は、原則として証拠として用いることができません。したがって、内容に納得できないのであれば署名しないという判断は、法的に完全に正当です。拒否を理由に処分が重くなるという仕組みは存在しません。もっとも、取調室では「サインしないと今日は終わらない」といった働きかけがなされることがあります。そのときは「弁護士と相談してから決めます」と述べ、その日は署名しないことです。
調書の増減変更を申し立てる
署名する前に、調書は必ず読み聞かせられます。通訳事件では、通訳人が日本語の調書を口頭で訳して聞かせる形になります。ここで「この部分は言っていない」「ここは順序が違う」と述べて、内容の追加、削除、変更を申し立てることができます。これは権利であって、お願いではありません。実際の使い方としては、抽象的に「違います」と言うのではなく、「三行目の、私が最初から知っていたという部分は言っていません。知ったのは当日の夕方です」というように、どこをどう直すのかを特定して述べます。訂正がされたら、その部分をもう一度訳して読み上げてもらい、直っていることを確認してから署名してください。
もう署名してしまった場合はどうなるか
署名してしまった調書は、それだけで公判の結論を決めるものではありません。弁護人は、その調書が任意に作成されたものか、内容が信用できるかを争うことができます。争う材料として重要なのは、取調べの日時と時間の長さ、通訳人の入れ替わり、体調、取調官の言動、そして本人が当時どう理解していたかという具体的な記憶です。接見の際に、日付ごとに何を聞かれ何を答えたかを話してください。書面に書けない状況であれば口頭で構いません。後から作る記憶より、その週のうちに語られた記憶のほうがはるかに強い証拠になります。
通訳を介する場合の追加の注意
捜査段階の通訳は捜査機関が手配します。通訳人は本人の味方として席にいるわけではありません。訳がおかしいと感じたら、その場で「今の訳は私の言ったことと違います」と述べてください。遠慮する必要はありません。また、法務省『令和7年版犯罪白書』によれば、令和6年に被告人へ通訳を要した通常第一審の終局人員は4,649人、言語は計41言語に及び、中国語は726人(15.6%)で第2位でした。通訳を要する事件はこれだけの規模で存在し、訳の正確性を争うことは決して例外的な行動ではありません。
ご家族が支えられること
ご家族は取調室に入れませんが、弁護人を選任することはできます。ご本人が身体を拘束されている場合、ご家族からの依頼で弁護人が接見に行くことができます。あわせて、本人の日本語の理解度を示す材料(来日時期、学歴、職場での使用状況)、在留カードと旅券の所在、在留期限、勤務先や学校への説明の段取り、被害弁償に充てられる資金の有無を整理しておいてください。取調べに対する方針は、これらの情報が揃って初めて現実的なものになります。
中文版:面对日本警察的讯问,可以保持沉默吗?可以拒绝在笔录上签名吗
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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