日本の取調べに通訳は必ず付くのか 捜査段階の通訳と法廷通訳はどこが違うのか
2026/09/01
日本で逮捕されたご本人が日本語を十分に話せないとき、ご家族が最初に心配されるのは「言葉が通じないまま調べられているのではないか」という点です。実際、日本の刑事手続では、捜査の段階と法廷の段階とで通訳の位置づけが大きく異なります。この記事では、捜査の通訳を誰が手配し費用を負担するのか、法廷通訳とどこが違うのか、通訳を介して作られた供述調書がなぜ危ういのか、訳が違うと感じたときにその場で何ができるのかを整理します。
捜査の取調べに通訳は必ず付くのか
結論から述べます。日本語を解しない被疑者を取り調べる場面で、通訳を介さずに取調べを行うことは事実上できませんので、実務上はほぼ必ず通訳人が入ります。もっとも、それは「本人が選んだ通訳が付く」という意味ではありません。憲法は刑事手続について適正な手続の保障を定め、日本が批准している国際人権規約B規約は、刑事上の罪の告知を理解できる言語で受ける権利と、法廷で無料で通訳の援助を受ける権利を定めています(同規約14条3項)。これらは通訳が付くことの根拠になりますが、捜査段階でどのような資格の者を通訳に選ぶかまでは定めていません。
捜査の通訳は誰が手配し、誰が費用を負担するのか
捜査段階の通訳は、警察や検察が自ら手配し、費用も捜査機関が負担します。ここに構造的な問題があります。通訳人は取調べを行う側から依頼を受けて席に着いているのであって、被疑者の代理人ではありません。国家資格の制度もなく、能力の担保は各機関の名簿と運用に委ねられています。中国語といっても、普通話のほかに広東語、福建語、上海語、東北の方言があり、本人が最も楽に話せる言語と通訳人の得意な言語がずれることもあります。「通訳の人が自分の言いたいことを短くまとめてしまう」「質問の内容が変わって伝わっている気がする」という不安は、決して珍しいものではありません。
法廷の通訳は何が違うのか
法廷の通訳は、裁判所が選任し、宣誓をしたうえで訳します。刑事訴訟法は、国語に通じない者に陳述をさせる場合には通訳人に通訳をさせなければならないと定めています(同法175条)。訳の適否は法廷で争うことができ、弁護人が異議を述べる場面もあります。規模も相当なもので、法務省『令和7年版犯罪白書』によれば、令和6年の被告人に通訳を要する事件の通常第一審終局人員は4,649人、通訳言語は計41言語に及びました。言語別ではベトナム語1,794人(38.6%)が最も多く、中国語は726人(15.6%)で第2位です。中国語が最多だという理解は誤りで、ベトナム語が中国語の約2.5倍にのぼります。
通訳を介して作られた供述調書がなぜ危ういのか
供述調書は、本人が話した中国語をそのまま文字にしたものではありません。捜査官が、通訳を介して聞き取った内容を、日本語の一人称の文章にまとめます。逐語録ではなく要約であり、しかも整った日本語で書かれるため、読むと本人が自ら進んで詳細に語ったかのような印象を与えます。あとの公判で「そんな言い方はしていない」と述べても、残っているのは日本語の文章と本人の署名押印だけです。訳の段階で一度、要約の段階でもう一度、本人の言葉から離れる。この二重の距離が、通訳事件の供述調書の最大の弱点です。
訳が違うと感じたとき、その場で何ができるか
できることは三つあります。第一に、調書ができあがると読み聞かせが行われますので、その際に「ここは違う」と述べて、内容の増減変更を申し立てることができます。訂正されたかを通訳人に確認してください。第二に、内容に納得できなければ署名と押印を拒むことができます。署名押印のない調書は、原則として証拠として使えません。拒んだことを理由に不利益な取扱いをされる筋合いはありません。第三に、次に弁護人と接見したとき、いつ、どの取調べで、どの部分の訳がおかしかったのかを具体的に伝えてください。弁護人は取調べの録音・録画の有無を確認し、必要に応じて記録の保全を求めることができます。
母語が普通話でない方、方言の方はどうすればよいか
本人が普通話に不慣れであったり、方言でなければ細かい事情を説明できない場合には、その旨を最初にはっきり伝えてください。「だいたい分かる」と答えてしまうと、その後は普通話で手続が進み、微妙な言い回しが落ちていきます。理解できていないのに黙ってうなずくことは、後で最も高くつきます。分からないときは「分かりません」「もう一度言ってください」と繰り返してよく、それによって不利になることはありません。
ご家族ができること
ご家族は取調べに立ち会えませんが、できることがあります。弁護人を選任し、中国語で意思疎通ができる体制を早く作ること。本人の出身地と話せる言語を弁護人に伝えること。本人が日本語をどの程度理解するかを、来日時期や学歴、職場での使用状況から具体的に説明することです。「日常会話はできる」と「取調べの日本語を理解できる」とは全く別の水準であり、その違いを示す材料は外にいるご家族の手元にあります。
中文版:在日本接受讯问时一定有翻译吗?侦查阶段与法庭翻译有何不同
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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