令和5年の刑法改正後、「同意していた」という弁解の射程は狭くなった
2026/09/01
取調べで、あるいはご家族に対して、「同意はあった」と述べておられる。この説明が、令和5年の刑法改正の後、以前と同じようには通らなくなっています。改正前の条文は暴行または脅迫を要件としていましたが、改正後は同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にあったかどうかを、具体的な事由の列挙によって判断する構造に変わりました。この記事では、北海道で報じられた事件を手掛かりに、改正で何が変わったのか、致傷が加わると量刑がどう動くのかを整理します。
報じられた事案
UHB北海道文化放送の2025年9月24日報道によれば、北海道小樽市で、不同意性交等致傷の疑いにより中国籍の40代の男性派遣社員が逮捕されました。2025年3月の事案とされ、報道では、行為自体は認めた上で同意があったと述べ、一部を否認していると伝えられています。行為の態様や、被害を受けた方に関する事情は、ここでは一切触れません。この報道は逮捕の段階のものであり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
改正で何が変わったのか
従前の強制わいせつ罪・強姦罪は、暴行または脅迫を手段とすることを要件としていました。そのため、抵抗がなかった、抵抗できたはずだ、という主張が防御の中心に据えられてきました。令和5年7月の改正で新設された不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は、この構造を改めています。暴行や脅迫はいくつかある事由の一つにすぎず、ほかに、心身の障害、アルコールや薬物の影響、睡眠その他意識が明瞭でない状態、予想と異なる事態への恐怖や驚愕、虐待に起因する心理的反応、そして経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力といった事由が列挙され、それらによって同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にあったかが問われます。抵抗の有無を正面から問う構造ではなくなった、ということです。
「同意していた」という説明は、どこで滑るのか
改正後の枠組みでは、同意していたという弁解は、それだけでは争点に届かないことがあります。裁判所が見るのは、当事者の内心そのものではなく、列挙された事由に当たる状況が客観的に存在したかどうかだからです。例えば、相手方が飲酒によってどのような状態にあったか、その場から離れることが現実に可能だったか、断った場合に生活や仕事に不利益が生じる関係だったか。こうした事情は、当日のやり取りの記録、移動の経路、同席者の証言などから積み上げられます。したがって弁護活動も、同意はあったと述べるだけでは足りず、列挙された事由に当たる状況が存在しなかったことを、具体的な事実によって示す作業になります。
致傷が加わると、量刑の枠組みが変わる
この事件で報じられている罪名には、致傷が含まれています。致傷が加わると法定刑の下限が引き上げられ、実務上、執行猶予が付く余地は原則としてなくなります。つまり、有罪の場合はほぼ実刑という前提で防御を組み立てる必要があります。この違いは在留にも直結します。入管法(出入国管理及び難民認定法)24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた方を退去強制事由としており、全部執行猶予の場合は除かれます。致傷の有無が、執行猶予か実刑かを分け、それがそのまま日本に残れるかどうかを分けるという関係になります。傷害の結果が本当に本件の行為から生じたものか、診断の内容と時期は整合しているか。この点の検討は、量刑の問題であると同時に、在留の問題でもあります。
取調べと通訳のこと
この類型では、取調べが長期化し、供述の細部が繰り返し確認されます。通訳を介する場合、日本語で作成された供述調書が読み聞かせられ、内容を確認して署名する流れになります。ここで、自分の述べたつもりの内容と、調書の日本語が食い違うことが起こります。とりわけ、同意という言葉は、日常会話の語感と、法律上の意味とがずれやすい語です。何を了解していたのか、いつの時点のことなのかを、具体的な事実に分解して述べる必要があります。違和感があれば、その場で訂正を求めてください。署名を拒むこともできます。取調べの内容を弁護人に正確に伝えることが、その後の防御方針を左右します。
ご家族が最初にすべきこと
まず、弁護人を選ぶことです。身柄を拘束されている方は、外部と自由に連絡が取れません。弁護人は接見禁止が付いていても接見できます。次に、在留カードと旅券の所在の確認、勤務先への説明の時期の判断、そして帰国した場合に生じる生活上の支障の整理です。この類型では被害を受けた方との示談が成立しないことも多く、その場合でも、贖罪寄付や、被害を受けた方の意向を尊重した対応の記録が、量刑上の資料になります。焦って直接連絡を取ろうとすることは、絶対に避けてください。接触は罪証隠滅と評価され、身柄の解放を遠ざけます。
中文版:令和5年修法之后,“对方是同意的”这个辩解的适用范围变窄了
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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