偽造の台湾免許で翻訳文を申し込んだ なぜ公文書偽造ではないのか
2026/09/01
日本では、一定の国・地域で発行された運転免許証を持つ人が、指定された団体の作成した日本語の翻訳文を携帯していれば、日本で自動車を運転できる制度があります。手続が簡便であるため、この制度を悪用した事件が摘発されています。この記事では、偽造された外国免許証を使って翻訳文の作成を申し込んだとされる事件を素材に、なぜ罪名が公文書偽造ではないのか、そして偽造と思わなかったという否認がどう扱われるのかを説明します。
報じられている事件
朝日新聞及び読売新聞が2025年9月26日に報じたところによれば、警視庁交通捜査課は、台湾など六つの国・地域の免許保持者が翻訳文の携帯によって日本での運転が可能となる制度を悪用し、中国の通販サイトで入手した偽造の台湾免許証を用いて、日本自動車連盟のオンライン申請フォームから翻訳文の作成を申し込んだ疑いで、中国籍の30代から40代の男女2人を私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで摘発しました。報道によれば、うち30代の男性は日本でレンタカーを運転していたとみられ、2人は「偽造とは思わなかった」と否認し、免許証の購入価格は1件約16万円だったとされています。疑いで摘発されたと報じられているにとどまり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
公文書偽造にならない理由
公文書偽造の罪は、公務所または公務員が作成すべき文書について成立します。ところが、外国免許の翻訳文を作成しているのは、行政機関ではなく、指定を受けた私的な団体です。したがって、その団体が管理する申請システムに虚偽の情報を入力して電磁的記録を作らせた行為は、公文書に関する罪ではなく、私的な団体の事務処理に用いる電磁的記録を不正に作らせ、これを使わせた行為として構成されます。これが、報道で罪名が私電磁的記録不正作出・同供用とされている理由です。名称は聞き慣れないかもしれませんが、法定刑は決して軽いものではありませんし、この罪が成立すれば、その翻訳文を使って運転した行為について無免許運転も別に問題になります。
偽造と思わなかったという否認の組み立て方
この類型で決定的なのは、免許証が偽造であることの認識です。通販サイトで購入したこと自体は、それだけでは認識を意味しません。しかし捜査機関は、購入の経緯、支払った金額、販売者とのやり取り、商品の説明文、届いた免許証の状態、本人が台湾で実際に免許を取得した事実の有無から、認識を推認していきます。台湾で免許を取得した経験がまったくないのに、免許証だけが手元にあるという状況は、説明が困難です。他方で、代行業者に手続を依頼しただけで、正規の取得手続が行われていると信じていたという事案もあり得ます。その場合は、依頼時のやり取り、支払の名目、業者側の説明資料が防御の中心になります。通信記録を削除してしまうと、この防御は成り立ちません。
制度そのものを正しく理解しておく
翻訳文の制度は、対象となる国・地域が限られています。中国本土で発行された免許証は、この制度の対象ではありません。中国の免許をお持ちの方が日本で運転するには、外国免許からの切替えの手続を経て、日本の免許を取得する必要があります。この点を誤解したまま運転すると、それ自体が無免許運転になります。制度の対象国であるかどうかを、渡航前に確認してください。なお、日本の在留外国人統計では台湾は中国とは別に掲げられており、令和7年末で7万3,256人です。台湾の免許と中国本土の免許は、日本の制度上、扱いがまったく異なります。
在留資格への影響
私電磁的記録に関する罪も無免許運転も、入管法24条4号の2に列挙された特定の犯罪には含まれていません。ただし、1年を超える実刑(全部執行猶予の場合を除きます)であれば入管法24条4号リの問題になり、在留資格の別表を問わず退去強制事由となり得ます。実刑に至らない場合でも、文書や記録の真正に関わる事件は、在留期間更新や在留資格変更、永住許可の審査における素行の評価に響きます。短期滞在で来日中の方の場合は、次回以降の上陸審査での説明を想定しておくべきです。
ご家族が今日できること
まず、免許証をどこから、いくらで、誰を通じて入手したのかを裏づける資料を保全してください。購入サイトの画面、決済の記録、配送の記録、業者とのやり取りです。記録の削除は避けてください。次に、ご本人が台湾または他国で実際に免許を取得した経緯があるのであれば、その国の当局が発行した記録の取得を検討します。海外からの資料取得には時間がかかりますから、勾留の20日間を意識して早く着手する必要があります。中国語の通訳を伴う接見を早期に行い、認識の有無について不正確な供述が固まってしまう前に、事実を整理してください。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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