自分もけがをして病院へ行った それは救護義務違反にならないのか
2026/09/01
事故を起こした直後に、自分も痛みを感じてその場を離れ、病院に向かった。後日、ひき逃げ、すなわち救護義務違反の疑いで捜査を受ける。日本ではこうした事案が実際にあります。ご本人としては、逃げたつもりはまったくないのに、なぜ責められるのか納得がいかないはずです。この記事では、中国籍の方とご家族に向けて、この弁解がどこまで通用するのか、通用するとしても何が残るのかを、実際に報じられた事件を手掛かりに整理します。
報じられている事件
FNNプライムオンラインが2026年2月10日に報じたところによれば、東京都中央区で、中国籍の41歳の男性が、積雪した橋の上で事故処理中のパトカーに乗用車で衝突し、警察官2人に重傷を負わせた疑いで捜査を受けました。報道によれば、法定速度60キロメートルを大幅に超えて走行していたとみられ、この男性は「けがをして病院に向かうために立ち去った」と説明しているとされています。疑いで捜査を受けていると報じられているにとどまり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
救護義務と報告義務は別々の義務である
道路交通法72条1項は、前段で救護の義務を、後段で警察官への報告の義務を定めています。この二つは並んでいますが、別個の義務です。したがって、救護義務違反の故意が否定されたとしても、報告義務違反が自動的に消えるわけではありません。自分も負傷して病院へ向かったという事情は、救護をしなかったことの説明にはなり得ますが、電話一本で事故の発生と場所を警察に伝えることまで不可能だったのか、という問いには別に答えなければなりません。実際の事件では、救護義務違反が否定されても報告義務違反が残る、という結論になることがあります。この点を最初から見据えて弁解を組み立てないと、否認の全体が信用されなくなります。
負傷を客観的に立証できるかがすべてを分ける
「自分もけがをしていた」という説明は、それだけでは主観の主張にすぎません。決め手になるのは客観的な資料です。すなわち、いつ、どの病院に、どの経路で行ったのか。受診記録の時刻、初診時の主訴、診断書に記載された受傷部位と程度、救急要請の有無、車内の血痕やエアバッグの作動状況。これらが揃って初めて、その場を離れた行動が救護の放棄ではなく、自己の救命のためであったという説明が成り立ちます。逆に、受診が数時間後であったり、自宅に立ち寄ってから受診していたり、診断が軽微であったりすると、説明は一気に弱くなります。ご家族が最初にすべきことは、受診先の特定と、診療記録の保全です。時間が経つほど、記録の取得は難しくなります。
被害者が警察官であることの意味
この事件では、被害者が事故処理中の警察官とされています。被害者が誰であるかによって罪名が変わるわけではありませんが、量刑の場面では、事故処理という職務の遂行中に生じた被害であること、現場に停止していた車両への衝突であることが、注意義務違反の程度として評価されます。あわせて、速度が法定速度を大幅に超えていたとされる点は、過失の内容を重くする方向に働きます。積雪という路面状況は、速度の相当性を判断する前提となり、路面が滑りやすいことを認識しながら速度を落とさなかったのであれば、有利な事情にはなりません。
在留資格への影響
過失運転致傷や道路交通法違反そのものは、入管法24条4号の2に列挙された特定の犯罪には含まれません。危険運転致死傷に該当する場合と、そうでない場合とでは、在留への影響がまったく違います。ここが、この類型で罪名の見極めが決定的である理由です。もっとも、1年を超える実刑(全部執行猶予の場合を除きます)となれば、在留資格の別表を問わず入管法24条4号リの問題になります。また、実刑や長期の身柄拘束によって、勤務先を失えば、就労資格の在留資格該当性が失われます。在留期間更新の素行の審査でも、事実として現れます。
ご家族が今日できること
まず、ご本人が受診した医療機関を特定し、診療録の写しの取得を弁護人に依頼してください。次に、車両を保管し、ドライブレコーダーの記録を確保します。積雪や凍結の状況は、気象記録と現場写真で後から再現できますから、事故当日の現場の写真があれば残してください。被害者が重傷である事案では、示談の申し入れの時期と方法を慎重に選ぶ必要があります。中国語の通訳を伴う接見を早期に行い、供述の骨格を「逃げたのではなく、自分の受傷への対応だった」という一貫した形で整えることが、防御の出発点になります。
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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