逮捕罪名が途中で変わる 安全運転義務違反から危険運転致傷へ
2026/09/01
日本で交通事故を起こして逮捕されたとき、警察官から告げられる罪名と、その後に検察官へ送致されるときの罪名が違うことがあります。ご家族からは「逮捕のときは軽い違反だと聞いたのに、なぜ急に重くなったのか」というご質問をよく受けます。罪名が変わるのは異例ではなく、捜査の進み方から見れば自然なことです。この記事では、切替えがなぜ起きるのか、切り替わった後に何をすればよいのか、そして被害者が複数いる場合の示談をどう組み立てるのかを、中国籍の方とご家族に向けて説明します。
報じられている事件
産経ニュースが2026年6月26日に報じたところによれば、東京都文京区で、中国籍の23歳の会社役員の男性が、交差点を高速で右折して縁石に衝突し、その反動で中央分離帯を越えて対向車線の車2台に衝突し、男女3人に軽傷を負わせた疑いで逮捕されました。逮捕の時点での罪名は道路交通法の安全運転義務違反でしたが、その後、危険運転致傷に切り替えて送検され、無免許による危険運転致傷も視野に捜査が進められていると報じられています。事故直前は時速100キロメートルまで加速していたとされ、この男性は在留資格「経営・管理」で滞在し、日本の運転免許は取得していなかったと報じられています。疑いで逮捕されたと報じられているにとどまり、起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
なぜ逮捕罪名と送致罪名がずれるのか
現場の警察官は、事故直後に確認できた事実だけで逮捕の可否を判断します。速度がどれくらいだったか、免許の有無はどうか、負傷の程度はどの範囲かは、その場では確定していないことが多いのです。逮捕後に、負傷者の診断書、防犯カメラ映像、車両の損傷状況、ドライブレコーダー、免許情報の照会が集まり、事実の輪郭が変わります。その結果、当初の安全運転義務違反という比較的軽い枠組みから、危険運転致傷という重い枠組みへ移ることがあります。逆に、重い罪名で逮捕された後に軽い罪名へ落ちることもあります。大切なのは、逮捕時の罪名は暫定的な入口にすぎない、ということです。
切替えが起きたときに弁護人が確認すること
第一に、切替えの根拠となった新しい証拠が何かを明らかにすることです。速度の推計方法、免許の失効や不取得を裏づける照会結果、負傷者の全治見込みが、切替えの引き金になります。第二に、被疑者の供述が新しい罪名を前提にしないまま取られていないかを点検します。軽い罪名の説明を受けて「速度は出していました」と述べた供述が、重い罪名の決定的な証拠に転用されることは珍しくありません。第三に、勾留の理由と必要性を改めて争えないかを検討します。罪名が変われば、罪証隠滅のおそれの評価も変わり得ます。無免許での危険運転致傷は、自動車運転死傷処罰法6条1項の加重の対象であり、法定刑が上がりますから、勾留延長や起訴の見通しも変わります。
被害者が三人いるときの示談の段取り
被害者が複数いる事件では、示談は一件ずつ独立して進みます。全員と一度にまとまることは、まずありません。実務的な順序としては、まず弁護人が捜査機関を通じて各被害者の連絡先の開示について意向を確認します。被害者が連絡を望まない場合もありますので、その場合は捜査機関を経由した謝罪文の交付から始めます。次に、治療が続いている方については、治癒または症状固定を待たずに、任意保険による賠償とは別枠で、当面の見舞金という形をとることがあります。そのうえで、示談書には、刑事処分についての意向(宥恕の有無)を明記できるかを確認します。三人のうち一人でも宥恕が得られれば、量刑の評価は動きます。資金の準備、送金の経路、通訳を介した意思確認の記録を、最初から整えてください。
在留への影響と、会社をどう保つか
危険運転致傷は入管法24条4号の2に列挙された特定の犯罪であり、この号は別表第一の在留資格に適用されます。経営・管理は別表第一です。令和7年の出入国管理統計では、この号による退去強制令書の発付は全国で49人、うち中国籍は15人でした。これに加えて、経営・管理は在留期間更新のたびに事業の実体が審査されます。代表者が長期に拘束されれば、事務所の維持、従業員の雇用、取引の継続が難しくなり、更新の場面で説明を求められます。刑事の弁護と、会社を止めないための実務は、同時に進める必要があります。
ご家族が今日できること
逮捕の連絡を受けたら、告げられた罪名と逮捕の日時を正確に記録してください。罪名が変わったかどうかは、その記録がなければ後から検証できません。あわせて、車両とドライブレコーダー、任意保険の証券、会社の印鑑と通帳の所在を確認します。被害者への対応の原資をどこから出すのか、中国のご家族からの送金が必要かを早めに決めてください。中国語の通訳を伴う接見を早く始めることが、供述の方向を誤らないための最初の防波堤になります。
中文版:逮捕罪名中途改变,从安全驾驶义务违反变为危险驾驶致伤
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舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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