「真っすぐ走れていた」は危険運転の否定になるか 制御困難な高速度の争い方
2026/09/01
日本で交通死亡事故の被疑者となったご本人やご家族から、最初にうかがう説明で多いのが「確かに速度は出ていた。しかし車はふらつかず、真っすぐ走れていた。だから危険運転ではないはずだ」というものです。この説明は、自動車運転死傷処罰法2条2号がいう「進行を制御することが困難な高速度」という要件に対する正面からの反論であり、実際の法廷でも用いられています。この記事では、中国籍の方とそのご家族に向けて、この反論がどこまで通用し、どこから通用しなくなるのか、そして刑事処分が在留にどう跳ね返るのかを整理します。
実際に争われた事件の経過
産経ニュース及び埼玉新聞が2025年9月19日と2026年3月30日に報じたところによれば、埼玉県内で、中国籍の当時18歳の男性が、酒気を帯びた状態で一方通行の道路を逆走し、時速約125キロメートルで交差点に進入して対向車と衝突し、相手方の運転者を死亡させたとして、危険運転致死などの罪に問われました。第一審は懲役9年(判決当時の表記。令和4年改正刑法により現在は拘禁刑に一本化されています)を言い渡し、控訴審も控訴を棄却したと報じられています。報道によれば、弁護人は、車両は進路を逸脱せずに走行していたのだから制御することが困難な高速度には当たらず、成立するのは過失運転致死にとどまると主張しました。
制御することが困難な高速度は速度計の数字では決まらない
この要件は、何キロメートル以上なら該当するという形では定められていません。判断の材料になるのは、走行した道路の形状(曲がりの度合い、勾配、幅員、交差点の位置)、路面の状態(乾燥か湿潤か、凍結や起伏の有無)、車両の性能(制動距離、タイヤやサスペンションの状態)、そのときの交通の状況です。これらを前提として、わずかなハンドルやブレーキの操作の誤りによって車両を進路から逸脱させる現実的な危険がある速度だったかどうかが問われます。したがって、見通しのよい直線であれば相当の高速度でも該当しないことがあり、逆に、狭い交差点や起伏のある路面では、より低い速度でも該当し得ます。実務では、実況見分調書に記載された道路の実測値、車両の速度解析の鑑定、ドライブレコーダーの映像が中心的な証拠になります。
真っすぐ走れていたという反論が効く場面と効かない場面
この反論が意味を持つのは、走行区間の道路形状が単純で、車両が現に安定していたことを裏付ける客観的な資料があり、しかも衝突の原因が高速度そのものとは別の要因にある場合です。逆に、逆走、信号無視、飲酒といった事情が重なると、裁判所は車両の物理的な挙動だけを見るのではなく、その速度で走ることによって前方の危険に対応する余地がどれだけ失われていたかという観点も含めて評価します。上記の事件のように逆走という要素が加わる場合、直進安定性だけを理由とする反論は通りにくくなります。そうした事案では、争点を速度の認定そのもの、すなわち何キロメートルで走行していたと認定できるのかという点に移し、速度鑑定の前提事実を一つずつ検証する方が、実際の量刑に効くことが少なくありません。
捜査段階の罪名で終わるとは限らない
先の事件では、捜査段階では一方通行の規制が二輪車を除外していたことを理由に逆走の類型が適用されないと判断され、当初は過失運転致死として家庭裁判所に送致された経緯があり、その後、地方裁判所が危険運転致死への訴因変更を許可したと報じられています。訴因が途中で重い罪名に変わることは、防御の前提が入れ替わることを意味します。弁護人としては、訴因変更の許可に対する意見を述べ、変更後の訴因に対応した新たな鑑定や証人の請求のための期間を確保することが不可欠になります。ご本人にとって大切なのは、取調べで説明されている罪名が最終的な罪名とは限らない、という点です。軽い罪名を前提に供述を整えてしまうと、重い罪名に変わったときに、その供述が自分を縛ります。
在留資格にどう跳ね返るか
危険運転致死傷は、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号の2が定める特定の犯罪に含まれています。この号は、別表第一の在留資格、すなわち留学、技術・人文知識・国際業務、経営・管理、技能実習、特定技能、高度専門職などで在留する人に限って適用されます。永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者といった別表第二の在留資格の方には、この号は及びません。もっとも別表第二の方でも、1年を超える実刑(全部執行猶予の場合を除きます)であれば24条4号リの問題になります。令和7年の出入国管理統計では、4号の2による退去強制令書の発付は全国で49人、うち中国籍は15人でした。件数としては多くありませんが、該当したときの結果は決定的です。
ご家族が今日できること
まず、車両を修理も廃車もせずに保管するよう関係先に伝えてください。速度と挙動の争いは車両そのものが証拠です。ドライブレコーダーの記録媒体、レンタカーであれば契約書、任意保険の証券、事故直後のやり取りを残した携帯電話は、上書きされる前に確保します。次に、在留カードと旅券の所在を確認し、勤務先や学校への説明の時期は弁護人と相談してから決めてください。逮捕から72時間で勾留請求、勾留は原則10日、延長を含めて最大20日という時間の中で、鑑定の前提となる資料が固まっていきます。中国語の通訳を伴う接見を早く始めることが、その後の防御の幅を決めます。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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