執行猶予の期間中に無免許で運転した。猶予は取り消されるのか
2026/09/01
執行猶予付きの判決を受けたご本人やご家族から、「猶予期間中に何かあったらどうなるのか」というご相談をよくいただきます。産経ニュースが報じた埼玉県三郷市の事案は、その答えを一連の流れとして示しています。ここでは、報じられた経過をたどりながら、刑法26条による執行猶予の必要的取消しがどのような仕組みで働くのか、そして実刑となった場合に在留にどう跳ね返るのかを、中国籍の方とそのご家族に向けて説明します。なお、後半の無免許運転の事件は起訴された段階であり、有罪が確定したものではありません。被疑者・被告人には無罪推定が及びます。
報じられた経過を時系列で見る
- 2025年5月18日 下校中の小学6年の男子児童4人の列に車で衝突し、救護せずに立ち去ったとして、中国籍の解体工の男性(当時42)が逮捕。事故当日の昼に中華料理店で飲酒していたと報じられています。
- 2025年6月9日 起訴。
- 2025年11月13日 さいたま地裁越谷支部が、賠償の見込みと反省を考慮して執行猶予付きの判決を言渡し(報道の表記は懲役2年6か月・執行猶予4年、求刑と同じ。判決当時の表記であり、令和4年改正刑法により現在は拘禁刑に一本化されています)。
- 2026年6月3日 執行猶予の期間中に、同じ車を無免許で運転したとして現行犯逮捕。
- 2026年6月24日 起訴。さらに別の日の無免許運転で再逮捕。
判決から再逮捕までの間隔は、およそ7か月です。猶予期間は4年ですから、期間のごく初期に新たな事件が起きたことになります。
刑法26条による必要的取消しとは何か
刑法26条は、執行猶予の期間中に更に罪を犯して拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予が付されなかったときは、前の執行猶予を取り消さなければならないと定めています。ここで大切なのは、裁判所に取り消すかどうかの裁量がないという点です。要件を満たせば取り消されます。取り消されると、猶予されていた前の刑が現実に執行されます。そして、新たな事件について言い渡された刑も、あわせて執行されます。つまり、猶予されていた期間は、単に何も起きていなかった期間ではなく、条件付きで刑の執行が止まっていた期間だということです。逆に言えば、猶予期間中の新たな事件について執行猶予が付けば、前の猶予は必要的取消しの対象にはなりません。したがって、猶予期間中の事件では、有罪か無罪かという以上に、新たな刑に猶予が付くかどうかが、決定的な意味を持ちます。
取消しは、そのまま退去強制の問題につながります
ここからが、外国籍の方に固有の問題です。入管法24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由として掲げていますが、但書により、全部執行猶予の場合は除かれます。つまり、執行猶予が付いている限り、この事由には該当しません。ところが、猶予が取り消されて刑が現実に執行される状態になると、前提が変わります。報じられた事案でいえば、猶予されていた刑は2年6か月であり、これは1年を超えます。取消しによって現実に服することになれば、4号リの要件に正面から当たることになります。執行猶予付きの判決を受けた時点では退去強制の対象ではなかった方が、猶予期間中の一度の無免許運転をきっかけに、退去強制の対象へ移るという構造です。令和7年の出入国管理統計では、4号リ単独による退去強制令書の発付は全国で41人、中国籍は11人であり、不法残留との並立分36人を含めると中国籍は47人でした。中国籍の退去強制令書発付686人のうち6.9パーセントを占め、ベトナム籍の2.3パーセントの約3倍にあたります。
無免許運転が、猶予期間中にとりわけ重く働く理由
無免許運転それ自体は、交通事犯の中で最も重い部類の罪ではありません。しかし、猶予期間中の再犯という文脈では、意味合いが変わります。第一に、前の事件が交通事犯であった場合、同種の行為の反復として、規範意識の欠如が正面から問われます。第二に、報じられた事案のように同じ車を運転していたとなると、車両の管理が改善されていなかったことが分かります。第三に、無免許運転は事故を伴わなくても成立しますから、被害弁償によって情状を改善する余地が乏しく、示談という手段が使えません。この三つが重なると、新たな刑に執行猶予を付けるべき事情を積み上げることが難しくなります。弁護活動としては、運転に至った経緯、免許の有無についての認識、車両を運転できない状態に置く具体的な措置、家族による監督の体制を、抽象論ではなく実行可能な形で示していくことになります。
猶予期間中に、ご本人とご家族が守るべきこと
第一に、車両を物理的に運転できない状態にすることです。鍵を家族が管理する、車を手放す、駐車場の契約を解約するといった措置は、後から言葉で反省を述べるより説得力があります。第二に、免許の状況を書面で確認することです。取消しや失効の処分を受けているかどうかは、運転免許センターや警察署で確認できます。第三に、判決の内容を正確に把握しておくことです。猶予期間の始期と終期、付された条件を、通訳を介して理解しておく必要があります。第四に、在留資格の期限との関係を確かめることです。猶予期間中に在留期間の更新時期が来る場合、素行の評価が問題になりますので、就労や納税の実績を整えておくことが有効です。第五に、新たな事件が起きてしまった場合は、直ちに弁護人を選任してください。猶予期間中の事件は、通常の事件よりも身柄が長引きやすく、判断の時間も限られます。逮捕から72時間以内に勾留請求がなされ、勾留は原則10日、延長を含めて最大20日です。ご家族は、在留カードと旅券の所在、勤務先への連絡、身元引受を引き受けられる方の確保を、早い段階で進めてください。
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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