国外にいる子を国内にいることにして手当を受け取った。返還と刑事処分はどう関係するか
2026/09/01
子どもを本国の祖父母に預けて働いている方は少なくありません。そのご家庭で、公的な手当の申請の書き方を誤ると、刑事事件になることがあります。2024年11月7日の読売新聞の報道によると、熊本市南区の中国籍の女性(43、会社役員)が、国外にいる子を国内に居住しているように装って児童扶養手当を申請し、64万8120円を受給したとして詐欺の疑いで逮捕されました。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。この記事では、公的手当の受給がどこから詐欺として扱われるのか、実際に子を養育していた事情はどう評価されるのか、そして返還をどう組み立てるのかを、中国籍の方とそのご家族に向けて説明します。
手当の受給が詐欺として立件されるのは、どこからか
公的手当の受給が犯罪になるのは、申請書や現況の届出に事実と異なる記載をし、その記載によって支給決定がなされ、公金が交付された場合です。多くの手当は、対象となる児童が日本国内に居住していることを前提に設計されていますから、居住地の記載は支給の可否そのものに直結する事項です。実務上、二つの場面を分けて考える価値があります。一つは、申請の時点ですでに子が国外におり、それを知りながら国内居住として届け出た場合です。もう一つは、申請時には国内にいたものの、その後に子が出国し、変更の届出をしないまま受給を続けた場合です。前者は積極的な虚偽の記載であり、後者は届出義務の不履行です。後者の場合、届出をしなかったことが単なる失念なのか、支給を続けさせる意図があったのかによって、評価は大きく変わります。日本語での通知の読み落とし、制度の理解不足、担当窓口での説明の行き違いといった事情は、故意の有無を検討する際の材料になります。もっとも、制度を知らなかったという弁解それ自体は責任を免れさせるものではありません(刑法38条3項は、法律を知らなかったとしても罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定め、ただし情状により刑を減軽することができるとしています)。
実際に送金し、養育していたという事情は、どこに効くのか
子が国外にいるという一点だけを見れば、支給要件を欠いていることになります。しかし、この類型の弁護では、本人が子の養育を放棄していたのか、それとも国境をまたいで現に養育を続けていたのかという違いが、量刑と処分の見通しに影響します。毎月の送金記録、学費や医療費の負担を示す資料、預けている親族とのやり取り、日本と本国を往復した出入国の記録、本国での就学状況を示す書類は、いずれも監護の実態を裏づける資料になります。制度の要件を満たしていなかったという事実は動きませんが、動機の理解可能性、利得の性質、非難の程度は変わります。逆に、送金の事実がなく、子の生活とまったく無関係に費消されていた場合には、悪質性が高いと評価されやすくなります。
全額返還と分割納付の合意を、どう組み立てるか
この類型は、被害者が個人ではなく自治体ですから、通常の示談交渉とは進め方が異なります。まず、支給した自治体は、支給決定を取り消したうえで返還を求めます。返還額の計算根拠となる支給月と金額の一覧を早期に取り寄せ、こちらの記録と突き合わせることが出発点になります。次に、全額を一括で返還できるのであれば、それが最も明快です。一括が難しい場合には、分割納付の合意を目指します。合意にあたっては、収入と支出の一覧、他の債務の状況、返済に充てられる月額、保証人となり得るご家族の存在を示し、実行可能な計画を提示することが求められます。合意した金額を数か月で滞納すれば、誠意の表れとして評価されるどころか、逆の印象を与えます。なお、返還が済んだからといって刑事処分が当然になくなるわけではありません。もっとも、令和6年の犯罪白書によれば、来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35パーセントであり、起訴前の段階で処分が決まる事件が相当数あります。返還の実行と計画の提示は、その判断材料の一つになります。
在留資格には、どう跳ね返るのか
報道からは、この方の在留資格は分かりません。そこで場合分けが必要です。会社役員として「経営・管理」で在留している方であれば、身柄拘束が長引いて事業が停止すると、在留資格に応じた活動の実体が失われ、在留資格の取消し(入管法22条の4第5号は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合を掲げています)の問題が生じます。「永住者」「定住者」「日本人の配偶者等」といった身分に基づく在留資格であれば活動要件はありませんが、在留期間の更新や永住許可の審査における素行の評価には影響します。退去強制との関係では、無期または1年を超える拘禁刑の実刑(全部執行猶予は除かれます)が退去強制事由(入管法24条4号リ)にあたります。令和7年の出入国管理統計では、この事由単独での退去強制令書の発付は全国で41人であり、退去強制の大半は不法残留(同年5,778人)です。刑事事件になれば直ちに送還されるという理解は正確ではありませんが、実刑となるかどうかが在留の分岐点になることは事実です。
ご家族が今日から準備できること
第一に、送金の記録を時系列で並べてください。銀行の送金明細、送金サービスの控え、受取側の受領記録が揃えば、監護の実態を示す中核の資料になります。第二に、子の本国での在籍証明、学費の領収書、医療費の記録、預けている親族の陳述を集めてください。第三に、自治体から届いた通知、申請書の控え、現況届の控えを、加筆せずそのまま保管してください。第四に、取調べでは、支給月ごとに事実関係が違う場合があるにもかかわらず、まとめて「そのとおりです」と答えてしまう例が見られます。月ごとに子がどこにいたのかを確認しないまま包括的に認めないよう、ご本人に伝えておく価値があります。通訳を介した取調べでは、調書の読み聞かせの際に、訳し漏れがないかを確かめてから署名するようお伝えください。
中文版:把在国外的孩子报成住在日本领取补贴,退还与刑事处分是什么关系
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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