雇用調整助成金1億1000万円の報道。逮捕容疑の額と推計の額は別のものです
2026/09/01
雇用調整助成金の不正受給が疑われる事件は、一般紙より先に週刊誌系の媒体で報じられることがあります。2026年3月6日に集英社オンラインおよび女性自身が報じた事案では、東京都中央区の中国人向け旅行会社の女性社長(56)と、役員である中国籍の夫(53)が、2022年1月から6月にかけて休業手当を支払ったとする虚偽の申請をしたとして、詐欺の疑いで逮捕されたと伝えられました。逮捕容疑は約1億1000万円、総額は約6億5000万円に上る可能性があるとされています。この記事は、こうした報道に接したご家族が、記事の中の数字をどう受け止め、何から確認すればよいかを整理するものです。なお、この事案は起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
報道に出てくる二つの金額は、性質がまったく違います
報道では「逮捕容疑は約1億1000万円」「総額は約6億5000万円の可能性」という二つの数字が並んでいますが、この二つは法的な意味がまったく異なります。前者は、逮捕状に記載された被疑事実、つまり捜査機関が現時点で疎明できると考えて特定した申請行為の金額です。これに対して後者は、押収資料や取材に基づく見込みの数字であって、立件されるかどうかも、そもそも不正と評価されるかどうかも、まだ決まっていません。申請の一部に実際の休業が含まれていれば、その部分は不正受給ではありません。ご家族が「六億五千万円の事件だ」と受け止めてしまうと、返還の見通しも、身柄の見通しも、量刑の見通しも、すべて実際より暗く見えてしまいます。まず押さえるべきは、逮捕状に書かれた被疑事実の金額と期間です。
週刊誌系の報道は、一次情報と照らし合わせて初めて前提にできます
週刊誌系の媒体は、捜査機関の発表文をそのまま伝えるのではなく、関係者取材によって周辺事情まで書き込む傾向があります。読み手にとって情報量が多い反面、捜査段階の見立てと確定した事実の区別が曖昧になりやすいという特徴があります。したがって、この種の記事に接したときは、通信社や一般紙の続報、警察・検察の発表、そして何より弁護人が取得する一次資料と突き合わせる作業が欠かせません。弁護人は、選任されると逮捕状・勾留状に記載された被疑事実を確認し、検察官に対して事件の範囲を釈明させ、起訴後には証拠開示を通じて申請書、賃金台帳、出勤簿、給与の振込記録といった資料そのものを検討します。ご家族が集めた新聞記事の切り抜きは、事件の輪郭をつかむ手がかりにはなりますが、弁護方針の土台にはなりません。
助成金の不正受給が詐欺として立件されるときの骨格
雇用調整助成金は、休業手当を支払って雇用を維持した事業主に費用の一部を助成する制度です。申請書と添付書類の記載が事実と異なり、その記載によって審査を担当する側が誤信して支給決定をし、公金が交付されたという流れが認められれば、詐欺として構成されます。実務で争点になるのは、第一に休業の実態がまったくなかったのか、一部は現実に休業させていたのかという点、第二に労働者が実際に在籍していたのか、第三に虚偽の記載を誰が作ったのかという点です。申請実務を社会保険労務士や申請代行業者に任せていた場合、経営者本人が書類の中身を認識していたかどうかが故意の有無を分けます。社長と役員とで関与の程度が違うのに、夫婦であることを理由に一括りの共謀が認定されようとする場面もあります。役割分担、決裁の流れ、口座の管理者、資料の作成者を、時系列で分けて主張することが弁護の出発点になります。
経営に関わる在留資格の方は、刑事処分の前から在留の問題が動き始めます
報道からは、役員の方がどの在留資格で在留しているかは分かりません。そこで場合分けが要ります。「経営・管理」で在留している方は、事業の停止や許認可の失効によって在留資格に応じた活動の実体が失われると、それ自体が在留資格の取消し(入管法22条の4第5号は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合を掲げています)につながり得ます。「技術・人文知識・国際業務」の方も、退職や解雇によって同じ問題が生じます。他方、「永住者」「日本人の配偶者等」「定住者」といった身分に基づく在留資格の方は活動要件がないため、この経路では取消しにはなりませんが、更新や永住許可の審査における素行の評価には影響します。刑事処分そのものとの関係では、無期または1年を超える拘禁刑の実刑(全部執行猶予は除かれます)が退去強制事由(入管法24条4号リ)にあたります。令和7年の出入国管理統計では、この4号リ単独による退去強制令書の発付は全国で41人、中国籍は11人であり、不法残留による5,778人と比べれば少数です。ただし中国籍については、不法残留との並立分36人を含めると計47人で、中国籍の退令発付686人の6.9パーセントを占め、ベトナム籍の2.3パーセントの約3倍にあたります。
ご家族が今日できること
まず、ご本人の在留カードと旅券の所在を確かめ、写しを手元に置いてください。次に、会社の申請書控え、賃金台帳、出勤簿、タイムカード、給与振込の記録を、廃棄も加筆もせずそのまま保全してください。従業員や取引先への説明は、事実関係が固まる前に憶測で行うと、後から供述の食い違いとして扱われることがあります。説明の時期と内容は弁護人と相談してから決めるのが安全です。返還の原資については、資産と負債を一覧にしておくと、返還の申出や分割の協議に入る際に話が早く進みます。取調べでは、金額の全体像を示されないまま「全部そのとおりです」と答えてしまう例が少なくありません。日付と金額を一件ずつ確認しないまま包括的に認めないこと、通訳が入っていない場面では署名しないこと、この二つはご本人に伝えておく価値があります。逮捕から72時間以内に勾留請求がなされ、勾留は原則10日、延長を含めて最大20日ですから、動ける時間は限られています。
中文版:雇用调整助成金1亿1000万日元的报道,逮捕罪名的金额与推算的总额是两回事
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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