社外で受け取った側も共犯になる 営業秘密の仲介者が問われる責任
2026/09/01
営業秘密の事件は、社内の人だけの問題ではありません。社外でデータを受け取った人、それをさらに別の会社へ渡した人も、同じ事件の当事者として立件されます。受け取っただけ、頼まれて転送しただけ、という感覚と、法律上の評価は大きく異なります。この記事では、報道された事案をもとに、受領と転送という関与形態がどう評価されるのか、共謀はいつ成立したと見られるのか、国外での使用を目的とする場合の加重がどの場面で問題になるのかを説明します。
報道されている事案
サンテレビは2025年10月2日、大手電機グループ会社の元社員の男性(57)、中国籍の男性(47)、無職の男性(55)の3人について、2022年12月、センサー製造用の金型図面データ5点をコピーし、中国籍の男性にメールで送信したとして、不正競争防止法違反の疑いが持たれていると報じました。同様のやり取りは2023年10月ごろまで繰り返されていた可能性があり、中国籍の男性は中国の精密機械メーカーに流出させたとみられているとも伝えられています。いずれも捜査段階の報道であり、3人はいずれも疑いを持たれていると報じられているにとどまります。起訴・有罪が確定したものではなく、被疑者には無罪推定が及びます。
受領と転送は、どう評価されるのか
不正競争防止法は、社内の者が営業秘密を持ち出す行為だけでなく、不正の経緯を知りながらこれを取得し、使用し、または開示する行為も対象としています。したがって、社外にいる人が渡されたデータを受け取り、さらに別の企業に渡した場合、その人は自分自身の行為について責任を問われます。渡した側の共犯というだけでなく、独立した行為者として評価される場面があるということです。
ここで実務上の争点になるのが、受け取った時点で、その情報が不正に持ち出されたものだと知っていたかどうかです。取引の相手方から提供された資料だと信じていた、公開情報だと思っていた、といった説明が事実であれば、その部分は争える余地があります。逆に、送信の依頼文、報酬のやり取り、資料の入手経路を尋ねた形跡がないことなどは、知っていたことの推認材料になります。
共謀はいつ成立したと見られるか
複数人が関わる事件では、いつの時点で意思を通じたと認定されるかが、責任の範囲を決めます。最初のやり取りの前から計画を共有していたのか、一回目の受領の後で継続的な依頼に応じるようになったのかで、負う範囲は大きく変わります。報道された事案では、同様のやり取りが約1年近く繰り返されていた可能性が指摘されています。反復は、その途中のどこかで意思の連絡が形成されたことをうかがわせる事情です。
弁護活動としては、時系列を細かく再現することが第一歩になります。いつ、誰から、どのような依頼があり、どこまでの説明を受けたのか。メッセージアプリの履歴、送金記録、面談の日程は、記憶よりも正確に経過を示します。捜査機関はこれらを押収して時系列を作りますから、弁護側も同じ材料に基づいて、自分の関与がどこから始まったのかを主張する必要があります。
国外での使用を目的とする場合の加重
不正競争防止法には、日本国外において使用する目的である場合などに法定刑を重くする規定があります(21条3項。平成27年改正で導入されました)。国外に渡った情報は、差止めや回収の手段が事実上働かないという性質を、法定刑に反映させたものです。仲介者が問題になるのは、まさにこの場面です。国内の元社員から受け取り、国外の企業へ渡すという流れの中で、国外での使用に向けた目的があったのかどうかが正面から問われます。もっとも、報道の段階では、この加重規定が適用される構成なのかどうかは分かりません。起訴されるまでは、公訴事実にどう書かれるかを確認するほかありません。
取調べでの供述と、在留への影響
この類型の取調べでは、頼まれただけだと説明したいという気持ちが働きます。しかし、頼まれた経緯を詳しく述べるほど、依頼者との関係の深さや、対価の存在が明らかになることがあります。話すか話さないかを場当たりで決めるのではなく、全体の見通しを立てたうえで方針を決めることが大切です。逮捕後、司法警察員は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は逮捕から72時間以内に勾留を請求します。勾留は原則10日、延長でさらに10日です。この期間の初日から、通訳を伴う接見を入れてください。
在留資格については、この罪名が直ちに退去強制事由になるわけではありません。入管法24条4号リが問題になるのは無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合で、刑の全部の執行を猶予されれば除かれます。令和7年の出入国管理統計第57表によれば、この号を単独の理由とする退去強制令書の発付は全国で41人、うち中国籍は11人です。ただし、就労資格の方は、事件を理由に職を失うことで別の経路から在留が危うくなります。刑事の見通しと入管の見通しは、必ず並行して立ててください。
中文版:在公司外接收的一方也会成为共犯——营业秘密案件中中介者的责任
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この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
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