営業秘密を国外へ送ると、罰金はなぜ重くなるのか 開示型の事件の読み方
2026/09/01
営業秘密の事件は、大きく分けて、社内から情報を取り出す段階と、それを外部に渡す段階があります。外部に渡す行為、とりわけ国外の企業に渡す行為は、法律上も量刑上も別格の扱いを受けます。この記事では、報道された営業秘密の開示事件を素材に、開示型の構成がどのように組み立てられるのか、国外での使用を目的とする場合に法定刑が引き上げられる仕組みとは何か、そして求刑どおりの判決という結果をどう受け止めるべきかを説明します。
開示型とは、どういう構成なのか
読売新聞、産経新聞、朝日新聞などの報道によれば、国立研究開発法人の主任研究員だった中国籍の男性が、2018年4月、フッ素化合物の合成技術に関する情報を中国・北京の化学メーカーにメール送信したとして、不正競争防止法違反に問われ、東京地方裁判所は2025年2月25日、拘禁刑2年6月、刑の全部の執行猶予4年、罰金200万円を言い渡したと報じられています。ここで問われたのは、情報を自分の手元に持ってきた行為ではなく、外部の企業に対して開示した行為でした。開示型では、送信の事実、送信先が誰か、送った情報が営業秘密といえるかが、立証の中心になります。メールの送信記録は残るため、行為そのものを否定するのは容易ではなく、争点は目的や情報の性質に移りやすくなります。
国外での使用を目的とする場合の加重
不正競争防止法には、日本国外において使用する目的である場合などに、法定刑を重くする規定が置かれています(21条3項。平成27年改正で導入されました)。趣旨は明快で、国内で完結する漏えいと異なり、いったん国外の企業の手に渡った情報は、差止めや回収の手段が実際上ほとんど働かなくなるからです。被害が回復不能になりやすいという性質を、法定刑の段階で織り込んでいるわけです。この加重は拘禁刑だけでなく罰金の上限にも及びます。国外へ送った事案で罰金額が大きくなりやすいのは、この構造によります。
ただし、報道からは、上に述べた事件でこの加重規定が実際に適用されたのかどうかまでは分かりません。判決の罪となるべき事実がどう構成されたかは、判決書を確認しなければ断定できません。記事の性格上ここでは断定を避けますが、実際にご相談を受ける場面では、起訴状の公訴事実に国外使用の目的が書かれているかどうかを最初に確認します。そこが書かれているかどうかで、争い方も、見込まれる刑の幅も変わってきます。
求刑どおりの判決を、どう読むか
報道された判決は、刑期も罰金額も求刑と同じでした。求刑どおりというと重い結論のように聞こえますが、この事件では刑の全部の執行が猶予されています。求刑の段階で検察官が執行猶予相当と考えていたのか、裁判所が独自に猶予を相当と判断したのかは、報道からは分かりません。確かなのは、求刑という数字は検察官の意見にすぎず、量刑の枠を決めるのは裁判所だということです。求刑どおりという言葉に引きずられて、実刑と執行猶予という質的な違いを見落とすと、事案の評価を誤ります。
令和6年の犯罪白書によれば、被告人に通訳を要した事件の全部執行猶予率は全罪名で85.3%、入管法違反を除くと74.8%です。これは特定の罪名についての数字ではありませんし、個別の事件の見通しを示すものでもありませんが、外国籍の被告人の事件で執行猶予が例外的な結論ではないことは読み取れます。もっとも、統計は目安にすぎず、営業秘密の事件では被害の程度と目的の悪質さが正面から評価されます。
罰金と在留資格の関係を正確に押さえる
罰金が高額であることと、在留資格を失うかどうかは、直接には結びつきません。入管法24条4号リが退去強制事由とするのは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた場合であり、しかもただし書によって刑の全部を猶予された場合は除かれます。罰金刑はこの号に当たりません。他方で、在留期間の更新や在留資格の変更では、有罪判決の事実そのものが素行に関する判断材料になります。とくに就労資格の方は、事件によって職を失えば、活動をしていないことを理由とする在留資格の取消しという別の経路が現実味を帯びます。刑事の結論と入管の結論は別々に進むという前提で、両方を同時に設計する必要があります。
捜査段階で決まってしまうこと
開示型の事件では、メールの送信履歴という動かしがたい客観証拠が先にあります。そのうえで捜査機関が求めてくるのは、なぜ送ったのか、どこまで先方と話をしていたのか、対価はあったのかという、内心と経緯に関する供述です。ここで曖昧なまま話を合わせてしまうと、後から訂正するのは困難です。逮捕後、司法警察員は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求します。勾留は原則10日、延長でさらに10日です。この短い期間に何を述べるかが、その後の何年かを決めます。中国語の通訳を伴う接見を早い段階で入れ、質問と回答の対応関係を確認しておくことが、遠回りに見えて最も確実です。
中文版:把商业秘密送往国外,罚金为何会加重——开示型案件的读法
中国語対応の刑事弁護のご相談
舟渡国際法律事務所では、中国語の専属通訳が常駐しており、逮捕直後からの接見、勾留に対する準抗告、被害弁償・示談交渉、不起訴を目指す弁護活動、そして刑事処分の後に続く在留資格の問題まで、一つの窓口で対応しています。刑事事件と入管手続は連続しており、刑事の段階でどのような処分を得るかが在留の帰趨を大きく左右します。初回のご相談は無料です。ご本人が身柄を拘束されている場合は、ご家族からのご連絡でも承ります。
お問い合わせ:舟渡国際法律事務所(東京)/微信ID matsumura1119
この記事を書いた弁護士
松村大介(まつむら・だいすけ)弁護士。第二東京弁護士会所属、登録番号59077。舟渡国際法律事務所。外国人の刑事弁護と入管事件(退去強制、在留特別許可、監理措置、在留資格の取消し)を主要な取扱分野とし、中国語圏のご依頼者からのご相談を数多く受けています。
本記事は一般的な法制度の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。記載は執筆時点の法令・統計に基づいています。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------